人は誰しも自分が一番大事
時折ふと思う、かつての僕は疑いなく “誰かの善意” を信じられていたのだろうか?
忙しないこの国では大人になるために詰め込むものが多過ぎて、いつの間にか色んな事を忘れている気がして止まない。
元号が令和に変って初めての年の瀬、といってもしがないサラリーマンなので、大晦日の前日まで働き詰めとなる年末。
今日も疲れた身体を引きずっての帰り道で、何が悲しいのか詮無きこと考えてしまった。ありていに言えば…… 僕こと、佐藤 悠は軽い人間不信に陥っていたのだ。
「極論、全ての生物は自己都合で生きている」
人に聞かれたら中二病扱いされそうな台詞を呟いてしまったけど、別に間違っているとは思わない。寧ろ、自己都合以外で生きているナニカがあるなら教えて欲しいくらいだ。
少なくとも僕は自分の命と引き換えに誰かを助けられる状況があったとして、それを本当に実行する人物など狂人の類だと考えている。
極限の状態になれば “誰しもが自身の事を優先” するのが普通だし、別にそれが悪いと非難するつもりは無い。世の中、取り繕って露骨になるのを避けながら、自分の都合を此方に押し付けようとする奴ばかりでも。
「…… 第一、僕自身がそうである可能性も否定できないし」
ただ、自分が一番大事であっても、二番目以降の誰かに心を砕け無いかと言えばNOだ。
あまり負担にならない範囲であれば、困っている誰かに手を差し伸べられるのが “哺乳類霊長目ヒト科”、つまりは猿の親玉が持つ良いところでもある。
それでも繰り返す日々の関係など、一皮剥けば薄っぺらいモノに感じてしまうのは恐らく、僕が単に捻くれているからとしか言えない。
改めて深い溜息を吐き、少量の雪が降り落ちる寒空の下を自宅に向かう。
暫時の後、マンションのエントランスに辿り着いたところで不意に視線を感じて、周囲を見ると…… 小柄な狐が一匹座り込んでいた。
「きゅう♪」
何故か、そいつは先っぽだけ白い手を掲げ、此方に挨拶らしきものをして僕にトコトコと歩み寄ってくる。
「どうして狐が…… 油あげなんて持ってないし、あげられる物なんてないぞ」
もふもふ尻尾をフリフリしながら歩く可愛い姿にやられてしまい、思わず貢いでしまいそうになるも、無い袖は振れない。
しゃがみ込んで頭をひと撫でしてから、オートロック式のガラス扉を開く。
「~~♪」
「おい……」
「うきゅッ!?」
僕の足元を潜り抜けてマンション内部に入ってきた狐を捕まえ、ひょいと持ち上げて外に出した。
「流石に共有部分まで入ってこられるのはダメだからね」
しっかりと目線を合わせて言い聞かせた後、踵を返して背中越しに自動ロックが掛かる音を聞き流す。なお、エレベーターが到着するのを待つ間、一度だけ様子を窺うと件の狐はもう居なかった。
その頃、侵入を阻まれた “彼女” はと言えば…… マンションの駐輪場に設けられた裏口へ向かって疾走していたりする。
小柄であるにも拘わらず、狐は凄まじい速度でドリフト気味にコーナーを曲がり、錠前が掛けられている鉄扉へと頭からダイブしていく‼
書き切っているので順次投稿します。