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蒼き鋼人  作者: ソメヂメス
終わりと始まり
2/2

名前

 青年の答えに2人は凍りついた。どう見ても彼は人間だし普通に会話が出来ている。しかしよく考えたら不自然な事も多い、前人未到の地だというのに知らない生地だが仕立ての良い服を着ていて言葉遣いも丁寧すぎる。


「えっと・・・えむつうないんてん様でしたっけ失礼ですが変わったお名前で私達の言葉では少々言い難いですね」


 ロージアが少し混乱した頭で言うと青年は表情を変えずに答える。


「MMー910は開発ナンバーで個体を識別するものではありません。それよりもあなた方2人共荒れた海で少々怪我をされているようですし、バイオセンサーの解析では漂流による疲労と空腹を感じているはずです。とりあえず安全な場所に案内するので付いて来て下さい」


 2人は青年の後をついて歩く、海岸の反対側に行くと足元が舗装された道に変わる。石のようだが継ぎ目がない滑らかな硬質の道を行くと目の前には大きな岩がある。


 青年が岩の前に立つと引き戸が開くように岩の平面が開いた。青年が中に入り2人を招くと中は四角い部屋になっている。部屋の中は狭く何も無いが天井が光っていてとても明るい。


 青年が壁の一部に触れると扉が閉まり、体が浮くような、押さえつけられるような変な感覚を2人は感じた。感覚が戻ると扉が開き目の前に明るい廊下があらわれた。


「え!?うそ!何で?今まで外だったのに!ここはどこなんですか?」


 パニックを起こし狼狽えるセシリーに青年は済まなさそうに言う。


「すみません、エレベーターなどご存知では無かったですね。ここは先ほどの場所から地下300メートルの場所にあるEHDの本部です」


「EHDとは何ですか?本部ということはかなり大きな組織なんですか?」


 ロージアが冷静に青年に質問する。セシリー同様に狼狽えていたが学者としての好奇心が勝ったようだ。


「EHDとは人類存続機構です地球環境を保全し大規模な自然災害や世界大戦による人類の滅亡を阻止する事と、万が一存続が困難、不可能な場合人類因子を保存し未来に再生するための有志による超国家機関です」


 意味が理解出来ずキョトンとしているセシリーと対照的にロージアは興奮気味に青年に質問をする。


「もしかしてここは聖典にある方舟なんですか?太古に人々が神の怒りを買い天変地異により滅ぼされた時、善良な人間と無垢な生き物だけが乗ることを許されたという」


「おそらく長い年月をかけそのように伝わったと思いますが、同質のものと考えても問題無いでしょう。違うのは神の怒りでは無く自ら起こした戦争だという事ですね」


 青年に案内され勝手に開け閉めする扉をくぐると清潔そうな部屋になっていて真ん中にベッドがありその周辺に見た事も無い物が沢山並んでいる。


「ではメディカルチェックを行いますので服を脱いでベッドに仰向けに寝て下さい」


 2人は顔を真っ赤にして警戒心むき出しの目で青年を睨みつける。


「MMー910今のあなたは成人男性の姿をしています、女性に対して服を脱げと言うのは常識に欠けていますよ。警戒されて当然です」


 どこからか成人女性の声がしたが姿を見ることが出来ない。


「本来は私に性別は無いのですが、この擬態が製作者のものなので仕方ないですね。これならどうでしょうか?擬態を解きますね」


 青年の姿が淡く光りボヤけたかと思うとそこには蒼く輝く金属の身体と仮面の様な無機質な顔をした彫刻のような人物が現れた。


「やはり体形としては男性型ですし声も男性のものだから、やめておいた方が良いと思いますよ」


「私は男性どころか人間ですら無いのですから気にすることは無いと思うのですが状況を見るとやめておいた方が良さそうですね」


「分かったのなら速やかに部屋から退出して下さい、レディーのお相手は私がさせていただきます」


 MMー990がそのままの姿で部屋から出て行くとベッドの周りにあった見たことも無いものが勝手に動き出し、2人は短い悲鳴を上げて抱き合った。


「申し訳ありません少々驚かしてしまいましたね。この機材は身体の異常を調べたり治療をするための物です。嵐の中遭難して漂流されていたので怪我がないか病気をしていないか調べさせていただきます」


「・・・ええ、お心遣いありがとうございます。ところであなたはどこから私達に声をかけているのですか?」


 部屋には誰もいないし窓や声を通す穴の様な物も見当たらない。ロージアは正直気味が悪くなって聞いてみた。


「ああ、この島自体が私なんです。私はEHDのセントラルブレイン。主人亡き後のこの施設の管理運営を任されているモノです」


 セシリーがおっかなびっくりとした表情で周りを見回して質問する。


「あのう、要するに私達はあなたの中にいるってことですね。動く扉やさっきの箱もあなたが動かしてるんですよね?私達を好きなように出来ると思うんですけど・・・どうするつもりなんですか?」


「いきなり知らない所に連れてこられて訳の分からない物に囲まれたら不安ですよね。それではまず私の目的から伝えましょう。私は種としての人間と人類文明を保護し伝承するために作られました。もちろんあなた方も保護対象です」


「えっと・・・私達を助けてくれるって事でいいんですか?」


「その通りです。とりあえず健康状態を確認して食事と休息を取った後であなた方の身の上と私達についてお話しをしようと思うのですがよろしいですか?」


 2人はうなづくと指示通り服を脱いでベッドにうつ伏せに寝る。ベッドが動き出し筒状の穴に入ったら光の線が身体を舐め回すように動き回る。腕にチクッと針を刺された感触があったり冷たい物を押し当てられたりしたが緊張して身動き一つとれなかった。


「お疲れ様でしたバスルームにどうぞ。シャワーで身体を洗った後に浴槽に浸かって下さい。ボディーソープとシャンプーは傷に沁みない素材で作られています。浴槽は治療薬に満たされていますのでほとんどの外傷は治るはずです。シャワーの使い方と入浴方法は映像を見てその通りにして下さい」


 天井からガラスの板のような物が降りてきて光ったと思ったら女性が現れる。女性は入浴施設の使い方をレクチャーする。話しかけても反応がないし一方的に説明を続ける。動いて音の出る絵のような物みたいだ。


 一通り終わると、分かりましたか?もう一度確認しますか?と質問されたので、もう一度見ることにした。装置に驚いて内容が全く頭に入って来なかったからだ。


 レクチャーされた通りに身体と髪を洗い、浴槽に浸かる液体が皮膚から染み込むような感じがして心地よい。浴槽から出ると驚いたことに、あちこちに出来ていた切り傷や擦り傷、打ち身の跡が無くなっていた。


 清潔なタオルで身体を拭いて、持ち手の付いた筒状の温風を出す道具で髪を乾かすと上下の肌着と黄緑色のワンピースとサンダルが用意されていた。着替え終わるとセントラルブレインからの指示が出る。


「お疲れ様でしたMMー910に案内させますので食堂へどうぞ」


 迎えに来たMMー910は青年の姿でなく無機質な彫刻の様な姿だった男性として見られて警戒された事を気にしているようだ。


 案内された部屋には沢山の机が並べられていた。勧められた席に座るとMMー910がカートに乗せた料理を運んで来る。柔らかいパンに玉子を挟んだサンドイッチと野菜と肉団子のたっぷり入ったスープだ。


「消化が良く滋養の高い食事を用意いたしました。ごゆっくりとお召し上がり下さい」


 2人は食べ物を目にするとゆっくりと味わいながら食べた。弱った体で急いで食べると身体に負担がかかる事は聖典に書かれているからだ。


 空腹が満たされ落ち着くとロージアが質問する。


「あの、ここでお話が出来るのはお二人だけなんですか?」


「そうですね対話可能なAIを搭載しているのは今のところは私とセントラルブレインだけです」


「あのー、もし良ければ言いにくい名前なので愛称とかあると助かるんですけど」


「確かにそうですね。ならばセントラルブレインでは長いので私のことはレインとお呼び下さい」


「分かったわレインいい名前ね」


 セシリーがMMー910の左胸に何か彫ってあることに気付く。硬い装甲に手彫りで文字のような物が刻まれていた。


「私のAIを構築された方が刻み込んだものです。思いが込められているようなので残してあるのです」


 ロージアがMMー910の左胸を覗き込み刻まれた文字を見る。


「古代文字ね確か平仮名っていう音を文字で表すものだわ。読めそうよ・・・あおき こうじん・・・でぃあす・ふさいん」


 それを聞いてセシリーが閃く。


「蒼き鋼人ディアス・フサイン!それがあなたの名前ね。」


「え!?いや、これは」


「それでいいと思いますよ。あなたもこれから私をレインと呼ぶといいわディアス」


「あ!私達名乗ってない!失礼しました、私はロージア=ルナシです」


「ご挨拶が遅れてごめんなさい!私はセシリー=マーレンです。あとお願いが私達はあなた方よりも若くえっと・・・知識や力も無いので丁寧な言葉遣いでなくてもいいです。あとディアスは人の姿がいいかな」


「分かったわセシリー。ロージアとディアスもこれからは砕けた口調で話しましょうね」


 ロージアとセシリーは緊張が解けたのか欠伸をしだした。安心して疲れを自覚したのだろう。青年の姿に戻ったディアスが2人を寝室に案内した。


「すぐに眠ったよ。かなり疲れていたみたいだ、やっぱり人がいると違うんだな感情回路が刺激される」


「そうね、やっぱり名前で呼び合うのはいいわねディアス。ふふふ、それにしてもデイビスが刻み込んだ「青木 幸治 ディアス夫妻」の文字があなたの名前になるなんて面白いわね。幸治の国の文字で刻みたいって、漢字が書けないから仕方ないけど平仮名でなんで最後に「ん」を入れるのかは謎だわ」


「レインはこの施設の責任者の記憶と人格を持っているんだろう、それを名乗ればよかったんじゃないか?」


「彼女は大昔に亡くなった人物よ私はもはや別の存在。だけどその記憶が励みになり、助けになることも多いわ。これからは私はレイン、あなたはディアスよ」


「よく分からないが悪くないな。僕のAIが刺激を受けているのが分かる」


「ここから真面目な話よ。稼働可能な人工衛星と偵察機を使って今の世界のデータを収集しているわ。あの2人が回復したらこの施設を案内して世間話をしながら社会情勢を聞いておいて」


「この施設を案内するということは、2人共ローフル因子を持っているのかい?」


「ええ、解析途中だけど2人が漂着して私が稼働したことから、どちらかが持っているのは分かっていたわ。現時点で2人共濃い濃度で持っているのは確実なの。解析待ちだけど特にセシリーは純血である可能性が高いわ」


「あの子が僕らのマスターになるかもしれないのか・・・」


 運命の歯車が回ろうとしていることを知らず少女は安らかに眠っていた。




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