出会い
「なんて事だ!もう少しで完成だったのに!馬鹿な政治家共が、どうせ自分達だけ安全なシェルターに引き篭もるんだろうが!」
「落ち着けデイビス!最善がダメだったなら次善のプランに移行する」
「プロジェクト「ネメシス」から「リンカーネイション」に移行します。デイビス、あなたは引き続きMMー910のAIの完成を急いで。メモリに未来の子供達を導く知識や技術を追加しておいて。終わったらセントラルブレインのプログラムを手伝って!」
何度目の世界大戦になるのだろうか。民族間の対立、権力者のエゴ、貪欲な者達、民衆を煽る者、誰が悪いのか何が原因かなど最早意味など無い。
すでに核は放たれ多くの無辜の民の命が失われ、大地も海も汚されてしまった再び生命が芽吹くまでには最低でも数千年の時が必要だろう。
彼等は間に合わなかったのだ。
大国の冷戦と発展途上国の紛争、民族間や宗教間の対立が表面化、激化していく中、世界の存続を憂い世界的な資産家、科学者を中心に組織された人類存続機構EHD。
戦争の終結と万一の場合の人類文明保存のために莫大な資金が投じられ各分野の優秀な科学者、エンジニア達が日夜研究と開発に明け暮れていた。
ナノテクノロジーによる自己修復、自己進化、擬態能力を持つ戦闘アンドロイドに善悪を判断して感情を理解する超AIを搭載したMMー910による大量破壊兵器の無力化と戦争を拡大する人物の粛正、重要人物や少数民族の保護による戦争根絶を目的とした「プロジェクトネメシス」MMー910の量産体制が整い、超AIの完成を目前に世界大戦は核戦争という最悪の結末を迎えてしまった。
超AIのチーフプログラマーであるデイビスは血の涙を流しながらAIの完成を急ぐ。
「畜生!馬鹿野郎!もう少しだったのに、なんでボタンを押したんだよ!」
「デイビス落ち着いて!MMー910は戦争根絶には間に合わなかったけど未来の子供達を導き人類を守る役目があるわ!」
「・・・・すまないアリア。そうだな、確かに今の人類の歴史は終わるが世界が無くなるわけじゃ無いんだ、新しい世界に新たな人類が栄える準備を進めよう。幸治が生涯を賭けて作ったMMー910に魂を込めるんだ」
MMー910はナノテクノロジーの権威である青木 幸治の手によって基本設計されEHDの技術を総動員されて作られたアンドロイドである。
56億体のナノマシンにより構成されており細胞の様に集合し各部品を構成する。大気中、地中から元素を採取して個々のナノマシンを生産、再構築し無限に再生する事が出来る。エネルギーは体表面から太陽光発電、食物摂取によるエネルギー及び元素の補給により半永久に活動可能。ナノマシンの制御装置と超AIが組み込まれたコアを破壊されない限り不滅の存在といえる。
「幸治は子供の頃に見た漫画でMMー910の基本コンセプトを思いついたらしいわ」
「ああ俺も聞いた人間以上に人間らしい心を持った戦闘アンドロイドだろう100年以上前の作品だが爺さんのコレクションだったそうだ」
「小さい時に患った白血病が30過ぎて再発するとはな、MMー910だけは完成させるまで死なん!って有言実行しやがった」
「デイビス、私が脳である制御装置、あなたが心を作ってこの子を完成させるのよ。最終チェックも完了した。セントラルブレインに向かうわ」
「こっちもOKだ俺たちが居なくなってもこの施設は数万年稼働可能だ今の人類の知恵と技術を総動員した施設を完成させよう」
彼等は残る命の全ての時を使い世界を文明を再生させるため装置を完成させた、放射浄化する植物を地上に出し、いたる所に生物を再生させる施設、復活した人類や新たな知的生命体のための文明を伝える施設。
全ての準備が整い彼等は生き絶えた・・・
そして1万年と少し経った今・・・
彼が目覚める時が来た・・・
混沌とした世界を変えるために・・・
鍵となる少女と彼女を取り巻く善良な人々を守り導くため・・・
聖暦158年、この世界に国という物ができて数百年が経つ。聖暦以前、様々な国が乱立し戦国時代となり多くの命が失われた。
158年前、スートリア大陸の西にあるランジー島の遺跡から聖典が発見された。聖典を発見したのは中堅国家マーレンの第3王子ジェーダス。聖典には古代の農業技術、法律、哲学などが記されており博学なジェーダスはそれを解読。
彼は国を離れ、地域民族関係なく民衆に農業や治水技術、教養を広め多くの人々の支持を得て国家の壁を越えて彼の名声は広まっていく。
やがて彼の教えは宗教となり国をも動かす力となる。大国であるゴラオン王国がジェーダスの教えをジョード真教と名付け国教としたことにより世界各地に教会が出来、それを切っ掛けとして国家間の争いは沈静化していった。
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ジョード真教の力で安定した国家群は同盟を結び聖典が発見された年を聖暦元年とした
聖暦25年のことである。
教祖であるジェーダスは争いを治め無辜の命が失われることが減ったことに満足し、生涯を弱者救済や教えを説くことに費やし聖暦57に寿命を迎える。
ジェーダスの死後、ジョード真教は3つの派閥に分裂する事になる。
1つはジェーダスの意志を継いで民衆の救済を目的に動くジェーダス派。
もう1つはジェーダスの血縁者を教祖としてその権威をもって民衆と権力者に教えを説く血縁派。
最後は権力者に取り入り力をもって民衆を導く真教派である。
各宗派は血縁派を中心として住み分け、上手くやっいたが聖暦155年、真教派が各国の王族にジェーダスの血縁者の女児を嫁がせ権力を握ろうと画策する。
他の2派は激しく反発したが、教団の力を統治に利用しようとするグラムズ帝国が真教派を支援。強大な軍事力を背景に他の派閥を弾圧、それに伴い隣国ミサト公国に攻め入り侵略してしまう。
それを切っ掛けにゴラオン王国を中心とした連合国とグラムズ帝国とブルネ王国、チブル王国、ヤムト共和国による三国同盟による戦争が勃発。世界は戦乱の時代に突入する。
ジェーダス派と血縁派はゴラオン王国に身を寄せ保護を求め、王国は快く承諾。ゴラオン王国の王城でジェーダスの直系の女児で10歳のセシリーを保護することを決定した。
しかしランジー島からスートリア大陸に向かう船をグラムズ帝国軍が強襲した。熟練の船乗りがなんとか襲撃を躱すが悪いことに強烈な嵐に巻き込まれ行方不明になってしまった。
捜索隊が出されたが見つからず、セシリーは死亡したか帝国に囚われたのであろうと噂が流れていた。
セシリーは目を覚ました。体中あちこちが痛む、船が嵐に巻き込まれて生きた心地がしなかった身体を強く打ち付け気絶していたらしい。
辺りを見渡す。船室はひっくり返っており滅茶苦茶になっている。よく見ると女性がテーブルの下敷きになっている。
「ロージア!目を覚まして!ロージア!」
「・・・・セシリー様?あれ?なんで私テーブルの下に?眼鏡!眼鏡は!?」
「ロージア!良かった!はい眼鏡よ」
「良かった、割れてない・・・船が難破したっぽいですね。とりあえず外にでて様子を見ましょう」
神学者のロージアは冷静に現在の状況を判断する。船乗りは投げ出されたのか見当たらず船は浜に打ち上げられ座礁している。ここが島か大陸の海岸なのかもわからない。
「どうやら私たちしか生き残ってないみたいです水と食料の確保と現在地の確認くらいしか今のところすることがないですね」
・・・・ピー!海岸に生体反応・・・人間の女性2名、遭難者と思われる・・様子を見て救助、支援を行う事を検討。
ロージアは海岸から見えた小高い山の上に登った、万一の事があるといけないのでセシリーも連れて来ている。周辺を見ると呆然とする。
「魔の暗礁地帯・・・」
浅瀬が広範囲で続き船がはいり込めない前人未到の暗礁地帯の真ん中にある島に自分達がいる。助けが来ることは絶望的だろう。
・・・・解析完了・・・セントラルブレインがスリープモードに入ってから3259年が経過・・・食料生産プラントは正常に機能中・・・遭難者への食料供給が可能・・・MM910を起動、遭難者とのコンタクトと保護を優先されたし・・・
ロージアとセシリーは絶望していた一命をとりとめたが助けが来ることは無く、何も無い島で女2人。帝国に囚われた方がマシだったのだろうかとも思う。過酷な運命が待つと思われるが飢え死にするよりはマシかもしれない。2人が力なく浜に向かうと急に後ろから声をかけられ、飛び上がるほどビックリした。
「こんにちは、あなた方は浜の難破船に乗られていたのですか?」
声をかけて来たのは見たことのない素材の黒い半袖の貫頭衣とピッチリしたズボンを履いた青年であった。無人島と思った島に人がいて2人とも涙が止まらなかった。
「なぜ泣いているのですか?何か悲しい事がありましたか?目に何か入りましたか?」
「もうダメだと・・・ここが無人島で飢え死にするしか無いかと思って・・・」
「生存の喜びの涙ですね。どうぞこちらへ、遭難されたのでメディカルチェックを受けて下さい。その間に食事の用意をします」
「あのーこの島には何人くらいの人が住んでいるんですか?」
「この島に人はいません」
「え!?あなたは!?」
「私はMMー910あなた方新しい人類を守り導く者です」
もう一つの作品と同時進行で書きたいと思います。欲張り過ぎですかね。