八
「運輸支局の認可申請というのは何ですか?」
三住さんに連れられるままに行動してしまっているが、目的については、何も聞いていない。
今さらだが、それを訊ねてみた。
「新しい営業所を開業するんだ」
それが、三住さんの返答だった。
「ウチは、一般貨物自動車運送事業の許可を受けて、その事業計画に基づいて運送会社を営んでいるんだけど、営業所の新設は、許可された事業計画を変更することになるから、事業計画を変更する認可申請が必要なんだ」
許可?
認可?
私の頭の中で、その二つの言葉が手を取り合って、オクラホマミキサーを踊っている。
「許可と認可の違いは何ですか?」
常識的なことかもしれないが、知ったかぶりして、こっそりネット検索するよりも、聞いた方が早い。
わからないことを放置しておくと、三住さんがどんどん遠くに行ってしまう。
「法律では、運送事業は勝手に行ってはいけないことになっている『禁止行為』とされていて、その禁止を解くために許しをえることが『許可』だよ。『許可』には、行政が求める要求事項を満たしている必要がある。たとえば、資産要件、組織体制、法律知識などがあって、行政が不十分と判断すれば却下される。でも、運送会社を始めるには、絶対に許可が必要なんだよ」
三住さんの話を、私は一語一句、聞き逃さないように、耳をかたむけている。
「で、運送事業を始める『許可』をもらって、その後に営業所を追加するなどの変更が生じる場合は、『認可』の申請が必要なんだ。『認可』は、要求基準さえクリアしていれば却下されることはない」
「ウチは、すでに運送事業の『許可』をもらってるから、あとの変更は、『認可』で良いってことですね」
再確認のつもりでの問いかけだが、これだけの言葉を繰り出すだけでも、私の頭はフル回転している。
「そういうこと」
と、三住さんはサラリと答える。
曲名:The One I Love
アーティスト名:R.E.M.
発表年:1987年
この一発は愛するキミに。
この一発は別れたヒトに。
まあ、ちょっとはボクの助けになったかな。
Fire!
これで終わりだよ。
なんてウソウソ。
私も一緒に終わっちゃうよ。
ここは頑張って、三住さんに付いていかなくちゃ。
到着したのは『法務局』。
ここでは、『公図』というモノを購入するらしい。
「『公図』はね、土地の境界線と地番が記された地図のことだよ」
取得申請書と見出しにある書類を前に置いて、備え付けのボールペンをサラサラと動かしながら、三住さんは説明する。
書類が完成すると受付に行き、番号札と交換する。
音の出ない国会中継が映ってるテレビを見ていたら、すぐに番号を呼ばれて、受け取りに行く。
手数料は収入印紙で支払うことになっていて、すぐ隣に販売所があって、ペタペタ貼って、これで『公図』をゲット。
地図だというから、そういうのをイメージしてたら、直線と数字だけが書かれてあるだけの図面で、どこが『駐車場』なのか、さっぱりわからない。
三住さんは「ここ」と『駐車場』の位置を指をさすが、何かミョーな感じがする。
道路にも番地があるんだ。初めて知った。
本社に戻り、三住さんに教えてもらいながらの図面作成。
製図関係のアプリは無いので、表計算ソフトの描画機能を使って、『駐車場』の求積図を作成する。
Web地図を貼り付けて、それにトレースしたので、割とキレイな図面が作成できた。
これに、測量した数値と、『ヘロンの公式』による計算結果を盛りこんで完成である。
三住さんの方は、『車両制限令による証明願』とナゾのキーワードが標題になっている書類とWeb地図をそのまま印刷したモノ、それに車検証の写しを用意していた。
「新しい営業所に配置予定の車両の中で、寸法の一番大きな車両について、出入りに問題が無いかを証明してもらうんだ」
三住さんは、『証明願』に記載してある寸法と、車検証に記載してある寸法を交互に指差す。
「寸法は、車体の寸法で、ドアミラーの外寸は含まれない。原則は、前面道路の幅員が車両の幅の二倍以上であること」
「つまり、すれ違いができるということですね」
私がそうつなげると、三住さんはニッコリと笑った。
「あとは、出入口付近に交差点とか踏切が無いとか、学校が近すぎないとかの要件もあるけどね」
「誰に証明を頼むんですか?」
「市町村道だからね。当然、市長とか町長になる。これが都道府県道だと知事になるね」
「国道の場合は、誰になるんですか?」
「国土交通大臣……と言いたいけど、国道の場合は、事前に車両制限令を確認する必要はないんだ。そもそも事業計画の変更を認可するのは国土交通大臣だからね。国道沿線に関する許認可は、当局で判断できる。でも、都道府県市町村の管理道路のことまでは口出しできない。だから、別立ての手続きになるんだ」
つまり、これから『市役所』に行って、お昼ごはんは惣菜ブッフェだってことだよね。