セブンストリート3
アプリコットによるゲームの問題説明と使用する方法の解説。
「クリアを目指すのなら命の保障は出来ません。
ただし、それはクリア後の話です。それまでは一応、普通のゲームです」
「もう、それを早く言ってよ」
「それを聞いて安心しました。アプリコットさん、怖がらせないで下さい~」
「つまり目指すクリアは裏面や裏ストーリー、よかったぁ」
「まだ安心できません」
と遮り仕切りなおすアプリコットさん。横に座るシロップも同意見なのか頷いている。そう肝心要のその先の話を俺たちは、まだ聞いていない。
「セブンストリートは通常七つの通路を処理する、簡単に言うとストーリーをクリアすれば終了します。事の発端は今から約一年前、クリア後つまりエンディング後ゲームを続けていたプレイヤーがストリートが七つしかない事に疑問を抱き掲示板に書き込みをしたことにあります。
その内容は、
このゲームは一つの属性に付き一つのストーリーがある。そして属性は互いに補完し合う事で調和する事から相対、対照となる二組で組まれるのがゲームの掟。なら七に対する八のストリートはどこにあるのか?
書き込み後、興味を持ったプレイヤーたちの隠しストリートの探索、別名『イースターエッグハント』『エイト』が開始され数千人のプレイヤーが東奔西走。
何か月も探しましたがエイトストリートは空しくも見つからず諦めかけた頃、ゲームのエンディングを迎えたプレイヤーがちょうど一万人に達した時にエイトストリートが姿を現しました。
待ち焦がれていたプレイヤーたちは一斉にエイトストリートに突入するものの挑戦したプレイヤーはログイン状態のまま大多数が消息不明。
戻ってきた少数のプレイヤーは仲間のログ履歴に“ここには来るな!”“痛い!!助けて“等とメッセージが残っていた事を掲示板に書き込みゲームをやめていきました」
「それは、ずばりゲームの演出だと思います」
「それ〇〇ショックや光過敏性発作等じゃない?」
「演出や光の病気ではありません。調査した結果、挑戦したプレイヤーの大半がゲーム後に意識不明や昏睡状態になっていることが判明しました。
また一時的に意識を取り戻したプレイヤーも手や口を動かすと呼吸困難になったり全身が痛みだし話せない状況に陥りました。
原因はおそらくゲームの世界で精神が破壊されたことによるものです」
「怖っ、それが本当だったらとんでもないことになるじゃない!!」
「みんな可哀想~」
「そのプレイヤーは今どこにいますか?」
「プレイヤーは病院で安静に眠っています。なお、面会はできません。 そこで私たちは調査のためエイトストリートに挑戦しました。ところが、敵の位置すら掴めず、いきなり戦闘状態に陥り、とてつもないダメージを受けたため逃走しました。後の状況は全滅寸前でした。あと一秒遅かったらやられていました」
「危ないにも程があるわよ」とモニカさんがチラ見して言い捨てた。
「たしかに危ないじゃ済まない」
モニカさんが愚痴るのも分かる。仮にメンバーが現実の特殊部隊員やシールズのような訓練を受けた者でも内部が分からないまま飛び込むのはいささか早まった行動である。情報収集の方法が見つからない理由で自分たちを犠牲に収集するのは良い方法なのだろうか?検討の余地があるのか?
「よく、そんな強敵から逃げきれましたね」みゃあはアプリコットさんたちの無謀な行動を取り繕うように褒めた。
「元々、見て退散するつもりで行き、いつ敵が出現しても逃走できるように準備していましたから。それに加え、私は数多のゲーム交流でプレイヤーから面白い情報を入手していました」
「ゲーム交流?面白い情報?」みゃあが首をかしげる。
「はい。ゲーム内外のチャットや掲示板、SNSを用いた会話です。
その雑談話にゲームのステータスが高いほど現実世界に反映するダメージが減るという有益な情報がありました」
「それでゲームをやりこめば勝機があると?」
「てはははは、察しが早い。それを知っていてアプローチしても全滅寸前の瀕死状態で戻ったわけで情けない話です。
当初、私はダメージがゲームディペンデンス(依存症)やアディクション(中毒)メンタルイルネス(精神疾患)のダメージの一種だと思って気にしませんでした。
しかしダメージを受けた現在は違います。ただ正体は分かりませんがダメージはおそらく感情から肉体・精神に影響を及ぼし体を支配しているのではないかと推測しています。
それで皆さんに相談に乗ってもらったわけで・・」
「はっ?そんなの乗れないわよ。それより意識不明になったプレイヤー、ステータスを上げればダメージが減る、アプリコットさんは一体誰からそんな情報を入手するのかしら?」モニカさんが疑いの目でアプリコットさんを睨みつける。
この対応、質問は的を射ている。エイトストリートは不特定他者の曖昧な情報を信じて行動できる場面ではない。裏に何かあると考え尋問するモニカさんは実に見事である。
「・・・・」
「助けてほしいのよね?」
「アプリコットさん・・どこ?」不安そうにシロップがアプリコットさんの顔を見る。
「実はセブンストリートは私の友人が制作に関わったゲームで、その友人から特別に教えてもらいました。ゼロすみません、この先はあなたにも話していません」
「私は別にいい」ゆっくりと言うシロップの仲間思いの穏やかな声が健気で愛らしい。おっと同情は油断を生むから禁物だ。二人の話す内容の信憑性が濃くなってしまう。
「シロップありがとう。友人はゲームに規格外のサイズを持たせようとこれまでにない新しいシステムを組み込みました。その時使われたのがトロイナイト(ウィルス)と言われるシステム書き換えソフトです」
「説明すると
トロイの木馬ウィルス 有益・無害に見せて、突然動き出すマルウェア。
ホワイトナイトウィルス ビジネス用語の敵対的買収の防衛策からとった名前。最近作られたマルウェアの特性をカスタムし、また指示を遠隔操作で出せるウェアとして開発」
「この二つのウィルスを合わせることにより新システムを作り出すことに成功。さらに、これに現実的要素を加えるため拡張現実(AR)の世界を導入しました」
「現実世界の肉体や精神に影響するゲームがこの世にあっていいはずがない。やっぱりゲームクリアするより終了させた方が早いんじゃないか?」
「ゲームは何をしても消えません。作った当の本人の友人が何度も削除を試みましたが削除不可能でした。このソフトの実用化はまだ早かったのでしょう。友人はその後、消息不明」
「アプリ運営会社に削除依頼したらどう?」
「それも無理です。アプリ運営会社に問い合わせると、ストアから削除できないとの回答がありました」首を振るアプリコットさん。
「その友人のゲームアカウントは分かりますか?」
「分かりません」
「アプリ、ゴキブリ並みの生命力を持ったものになってないか」
「それなら全員すぐにゲームをやめさせた方が良いと思います」
「一度、他のプレイヤーに異常事態があったことを伝えましたが嘘の情報を流すな!とキレられ喧嘩になりました。もしゲームをやめろと言えば、なおさら上位プレイヤーの熾烈な争いがエスカレートするでしょう」
「そんな流暢なこと言ってられないはず。エイトストリートの通路が開かれたのなら被害者がどんどん増えていく」思わず俺は怒鳴ってしまった。
「気休めにしかなりませんが、現在エイトストリートは閉じています」アプリコットさんは目を伏せて答えた。
ちょっと言い過ぎた。やめろと言うとやるのは男の嵯峨、仮にSNSに拡散しても従わないだろう。話を聞いても俺も、たかだかゲームでと思うもん。
「エイトストリートが再び開いたら?」
「エイトストリートのイベント開催情報は上位プレイヤー仲間と情報を共有していますので管理体制は万全です。もし何かあれば、すぐ私に連絡が入ります」
「なお、新しいイベントは主に
1、運営が開催する(限定開催)
2、ストーリーをクリアする
この二種類で発生します」
話しながら人差し指を立て、次に中指も立てるアプリコットさん。
「エイトストリートは1のイベントで発生したもの、それも運営以外が故意に発生させたもの。
その理由は2つ。
まず運営がアプリのシステムにアクセスできないのでイベントを開催することができません。
次に異常事態の後、エイトストリートへの道が閉じてしまったのがストーリーではない証。
つまり人為的や作為的に開いたエイトストリートに我々は罠とも知らず誘導されたわけです」
「管理していても不安になりそう」
「もし他にも被害者が出たら?」
「このゲームのDL数は一千万以上、通常百万人のプレイヤーが犇めき合っています。そしてモンスターを我先に倒すため奪い合いが繰り広げられる。その中で現在セブンストリートをクリアしたギルドは約百。セブンストリートをクリアしなければ八つ目のエイトストリートへのルートは開かれません。よって危険な目に遭うプレイヤーは約百ギルド以下」
「少なくなる分、管理しやすいってわけね」
「はい」
それでも約一万人いるんだろう。なら管理できないぞ。あ、でもログイン情報は見えるから管理できるかも?
「逆に、俺たちが出発準備万端、皆揃ってゲームをしていたとしてもエイトストリートの道が開くまで待たなければいけないのなら一生辿り着けないんじゃ・・」
「それは問題ありません。私もこのゲームの矛盾に気づいた一人。
どんなものも突き通す矛とどんなものも防ぐ盾は両立しないように、矛盾は片方に問題や嘘があります。その点を突いてエイトストリートを強制的に発生させる方法で現地に向かいます」
「それで行けるのか?」
「うん、一度調査に行った時にその方法を使ってる」
「それで、どんな方法で開けるの?」
「それは、イベントハンドラを使います」
「なんですか、それ?」
「はにゃ?イベリコ豚」珍紛漢紛になったみゃあ。いくらなんでも素材はないと思う。
「イベントハンドアとか」それなら入れそう。だって閉め忘れだもん。
「ちょっと黙って!」
「イベントハンドラの単語をそれぞれを直訳すると
イベントは日本語になおすと意味は出来事、または行事や催し物。
ハンドラは日本語になおすと意味は扱う者、手綱を引くでもいいかもしれません。
二つを繋げると出来事を扱う者となります。
これを文章にするとイベントハンドラとは発生条件を満たすとイベントが発生する処理の事となります。
現在、世界中で数えきれないほどの人達がパソコン・家庭用・スマホゲームで遊んでいますがイベントハンドラの存在(用語)を意識してゲームをするプレイヤーの数はごく僅かだと思います。
その発生条件はステージをクリアした、何かをして街に入った、特定のモンスターを倒した、アイコンを押したなど多々様々です。
よくアイコン(画像)を選びクリック(タップ)しますがその時に画面に表示される四角い枠の選択画面もイベントハンドラです。まとめるとイントハンドラとはイベントを発生させるため操作・動作のことです」
「それなら俺たち、いつも使っているけど」
「う~ん、画面が変化するって意味?」
「イベント操作は?」
シロップは俺より頭が良いかもしれない。
「難しいですね」
「例えば四角い枠の中に文章が書かれた選択画面の場合、画面には
“第一ステージに進みますか? 進む 戻る ”と表示されます。
そして、どちらか選ぶと選択した方へ画面が切り替わります。
また“第一ステージに進みますか? YES NO ”と表示されるイベントハンドラもあります。これは肯定のYES側を選ぶとイベントが発生します」
「それは分かるわ」
「私も分かります」
「俺も」
「でも意識しませんよね。これからイベントを発生させる、イベントハンドラを引くって」
「うん、押すだけだから」
「意識してない」
「はい」
「それなら十字キーを押したら動くこともイベントハンドラだと思います」
「それも同じかもしれません」
「ボタンを押す、十字キーを押す、選択肢を選ぶ、ストーリーをクリアする、これらは全てイベントハンドラです。じゃあプログラムは?プログラミングのイベントとはプログラムで発生した動作で信号や通知として・・。
スミマセン、分からなくなってしまいました。
プログラムは命令の記述でイベントハンドラは1つずつ、色々とプログラムが記述されていて、えーう~んと、これは・・。
そうだ!イベントハンドラはイベントをキャッチするグローブとも言われます。だから、これから新しく発生するストーリーありのイベントを発生させることをイベントハンドラだと考えて下さい」説明中に額から汗が噴き出しているアプリコットさんはもうタジタジ。どうやらアプリコットさんの職業はプログラマーではないらしい。
「突然そんな事言われてもついていけません、皆さんもほら」
「そうだ、分かるようにきちんと説明してほしい」
「それは、さっきまでと違う」
暗黙の了解で同盟を組んだみゃあ、俺、モニカさんの三人でアプリコットさんを責め立てると
「そ、そんな~、いじめないで下さい」
両手を出して待ったのポーズ。だってしつこく尋ねると、まだ何か出てきそうだもん。打ち出の小槌を振るのを俺はやめられないし止められない。
「ちなみに恋愛シュミレーションのように三択があったり、時間制限がある選択は私は苦手なんです」
そう・・なんだ。それは初耳だけど十字キーやプログラムの話はどこへいった?
「誤魔化してない?」
「これならどうです?イベントハンドラを意識するだけでボタン操作が劇的に変化する。またそれで戦闘中、関係ないコマンドを開いて敵を見失ったり時間を失うミスを防げるという話は?」
「まあ少し関係あるかな。ただ話が少し遠ざかったけど」
「あれは、ボタン操作のミスよ」
「1つのボタンでも軽く押すか、ぎゅっと押すかで操作内容が違いますよね」
「そうそう違う」
「そ、そうですか~」
「ど・・した?、シロップ。不思議そうだな」
シロップがキョロキョロと俺たちの方を見回すので尋ねると、
「皆ずっと話を聞いてくれてる」
「シロップ、話を聞いても何も起きません」そう言葉を返すみゃあは優しくてどこか不思議。きっと生まれつき穏やかな性格なのだろう。
「アプリコットさん、さっきの選択肢は三択だから適当に選べばいいんじゃない?」
「適当に?私は次の展開を考えて選ぶ派です。それはともかく、エイトストリートに強制的に入るには発想力(閃き)が必要なんです」
俺なら素直に従うがあぷりこっとさんはいじっぱり。せっかくシロップが助言してくれたのに。
「発想力があって選択肢が選べないなんて矛盾ですよ」
「それは、三択あるから・・」
「何択でも同じ」
「スマホバッカーね」
「それ当たりです!ははははは」
「ふふふふふふ」
「ふふっ」
「やめてください~」
「ふふふふふ」
「私、強制的にイベントを発生させるって聞いて昔のゲームの裏技に似たようなものがあったことを思い出した」
「裏ワザは製作者が故意に残したイベントハンドラの乱用です」
「あれ、大分近づいてない?昔のゲームは〇ジコンや〇ミュレータで裏ワザも探し出せたしゲームについているオマケみたいなものだった」
「よくセブンストリートのゲームアプリにそんな裏技が残ってますね、もしかして調べてないとか?」
「いいえデバッグの他にテスターチェックやβテストまで一連の作業は全てしたそうです。アプリ会社はアプリに問題がないか調べるため完成後必ずテスターやテストプレイヤーを利用して試運転します。そしてエラーや不具合、イベントハンドラを伴う不要なバグを炙りだし、洗い出し、問題のある箇所のプログラムを削除します。しかし全てのバグやエラーがそれで発見されるわけではありません。
もし発見されずゲームソフトとして発売されれば、そのバグやエラーは更新がない限り一生残ります。但し、それがアプリやDLのゲームソフトのようにネット経由のゲームの場合は修正のため更新されます。
バグやエラーが残る事はゲーム以外にもあります。
ガラケー(携帯)で例えると全データを初期化する番号、また何度消しても復活するメール、これらは消せません」
「それ知ってる、一昨うざがられた〇ンビメールと呼ばれるエラーでしょ」
「はい。プログラムの中には制作者が意図せず残ってしまったプログラムもあります。また意図せずに作ってしまったプログラムもあります」
「話をまとめるとプログラムに問題があるのよね?」
「私はプログラマーではありませんので指摘される問題についてお答えできません。コーディングミス、その他の原因があるのかもしれませんがリリースされた機械の中のプログラムもしくはアプリなので大抵のバグや問題は削除されているはずです」
「あ~よかった。イベント待ちしなくてもいいのなら、仲間の連絡があった時にログインしなくて良さそう」
「皆さんで他にも使えるイベントハンドラを見つけましょう!」
「待ってください!!ここでひとつ忠告、イベントハンドラは使い方を誤れば世界を壊します。
イベントハンドラは開き方や操作によってバグが発生しゲームのデータそのものが消える、引いては自分のいる世界が全て消失してしまいます。
また仮に消失しなくても製作者の意図に反する使い方をすればゲームに支障をきたします。
だから最近のアプリの注意事項や決まりにアプリで故意にバグを発生させないで下さいと注意書きがあります。運営会社もバグや不具合は死活問題で対応が後手後手になり困っています。
引いてはいけないものを引かず引きたいものを引く、つまり自分のしたい事を問題なく発生するように引く(イベントを発生させる)から使い方が難しい」
それなら俺、長く遊んだゲームやってました。頭の中でこうやったらこうなるかなと想像してやってみたら攻略本(裏技本)にも載っていないイベントが発生しました。
「アプリコットさん、どうしました?」
それがイベントハンドラですよ!!ゲームを何度も最初からプレイして原理原則を辿りきちんと理解すれば矛盾点まで分かるようになりますが私でもその域に達するにはかなりの時間がかかりました。まさか・・ゲームのプログラムを見ずに理解する、ハッキングいや使用するなんて、ライムさんは神の領域に入ったようなもの」
「そんな神の領域だなんて大袈裟だな。俺はただゲームをしただけ、理解も一部だけでリコットさんの驚きの反応を見て、テーブルから少し離れるように身を後ろに引いた。なぜなら俺の凄みというかド迫力が満載で伝わるらしい。苦笑いしていた。
だってゲーム画面に映るものは全て見えるじゃん。
「ライムさんはゲーム好きなんですね。そのライムさんだからこそ女神はあなたに異世界を託したのかもしれません。まあこの話は、また今度。これで説明できることは一通り皆さんに話しました」
そもそも真っ暗な画面にプログラムを書いて世界の全て(画面上の全ての物や事、システム)をウェブまたはゲームプログラマーが作っているから、その世界の一部は必ず一つ以上のプログラムと連動する。
つまり人、物、選択肢、動きなど全て視覚で見えるものはプログラムから形態変化した仮の姿。
俺がゲームでしたことは、そのうち三個位をくるくるはいとやってみただけである。
また、世界の全てをまるごとつくる意味で言えば宇宙空間に惑星や大気、人、物などを創造する神と似ているが、俺はブログラマーではないし、ほんの一部を触っただけで神の領域と称えられる程の人物ではない。せいぜいエリスとリリスに先日も近寄った人物であるww。
全員が問題に取り組み解答方法を探す。話すうちにアプリコットの中で一筋の光明が差した。