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俺の彼女はシリーズ

俺の彼女は妹的な存在だった居候先の娘です

作者: 35

「にーさん、好きです」


俺こと柴田俊介しばたしゅんすけに告白してくれた女の子は俺の予想を大きく裏切る相手だった。


彼女いない暦18年。受験を控えた俺にはもう高校生の間での彼女ができることはありえないと思っていた。


そんな俺を好いてくれたのは、ずっと妹のように思っていた2歳年下の石塚いしづかさきこ、通称さきちゃんであった。




彼女と俺の関係は幼馴染ともいえなくもないが、実際に一緒に過ごした時間はとても短い。


関係は俺の母親の幼馴染の従姉妹の子供という微妙に遠い関係なのだが、母親が幼馴染と家族ぐるみの付き合いがあって、その従姉妹も隣町に住んでいたので、実質3家族で仲良くしていたらしい。その付き合いが大人になっても続いて、俺とさきちゃんは小さい頃一緒に遊ぶことも多くあった。俺をにーさんと呼び、妙に懐いてくれてはいたが、妙に俺をからかうことも多かった。


俺には妹がいたので、第2の妹みたいな感じだったな。


そして高校生になってから、少し通うのが遠い学校に合格して、電車通学をする予定だったが、偶然学校が近いということで、母から石塚家で居候の話が出たのである。


朝の弱い俺としては、魅力的な提案だったので、その案には乗ったのである。


そして、引越した初日に、さきちゃんに会った。


俺があまり隣町に行かなくなってしまったので、出会うのは12歳のとき以来で6年ぶりであったが、1年会わねば女の子は変わるというところで、6年もあっていなければ恐ろしく変わる。


可愛らしいいたずらっ子みたいな顔は変わっていなかったし、身長も当時小さかったように150センチくらいしかなく、ちょっと短めの髪を小さなツインテールにしている髪形も変わっていなかったので、彼女であることは6年ぶりでも分かった。


しかし胸部の成長が驚異的だった。胸囲だけに。


あれが本物であることは、初日に肩揉みが上手ということで、それをやってもらったときに、半端ではない柔らかさを背中に受けたのを覚えている。




後で、あれを意識的にやっていると言われて、ちょっと小悪魔的な笑みを浮かべてきたときはちょっとヒヤリとしたものだ。


彼女と時に仲良く、時にからかわれながら、彼女と日常を過ごし、俺が3年生になると、学校でも時々過ごしたりしながら過ごした高校生活。そんな高校生活の終盤、受験も手前になった2月の中旬頃、俺宛に宅配便が届いた。


石塚家にいるとはいえ、基本的に大きめの配達物は実家に届くことが多かったので、この家に俺宛で手紙ではなく荷物が届くのは珍しかった。


「これは……チョコレートか? ああ、そういえばそう言う時期か」


モテない時期が長かった上に、受験シーズン真っ只中で気づいていなかったが、世間はバレンタインデー。


誰だ、俺にこれを送ってくれたのは? 義理ですらもらっていない俺には嬉しすぎる。


『あなたのことを愛しています。直接気持ちをお伝えしたいので、明日の午後3時に河川敷まで来ていただけますか?』


しかもほぼ告白の文章! これは行かざるを得ない! 相手は誰だ!


って差出人の名前がないじゃないか。これはどういうことだ?


…………待て、冷静になって考えてみろ。俺がこの3年間まともに女子と話していない。


そんな俺に、こんな美味い話があるのだろうか? これはどう考えても怪しい。いたずらの可能性がある。


現実世界には何もしていないのに、誰かが自分を好いてくれるうまい話はない。よって、これは無視!


チョコは美味かったが、次の日そこに行くことはしなかった。


その数日後、俺宛に今度は手紙が来た。


『直接お会いして気持ちを伝えたかったのですが、来ていただけなくて残念でした。何かご都合が悪かったのでしょうか? こちらが名前を名乗っておりませんから、ご都合が悪くてもお伝えできないのは仕方ありませんよね。明日もう1度だけ同じ場所に同じ時間で待っています。これで駄目でしたら、ご縁が無かったものとしてあきらめます』


え、追撃が来たんだけど。いたずらじゃなかったのか? 2回やってくるのはいたずらにしては度を越しているし、2回もやってくるなら、逆にそのいたずらに引っかかりたい。


これは行くしかないか……。


今時手紙で思いを伝える奥ゆかしい女の子なら、それはそれで興味がある。


明日はもともと勉強を抑え目にする日だし、気を抜きがてら行って見るか。




次の日、午後2時45分くらいに、俺は約束の場所に来てみた。


どうやら人は見当たらない。この河川敷は人が少ないので、女子がいればすぐ俺の目につくはずだ。


「…………これはやっぱりだまされたか」


しかし3時を大幅に回っても気配がない。


まぁそういうもんだよな。でもショックっちゃショックだ。


コツン。


何気に足元の石を蹴った。


「いた」


「へ?」


「あ」


声の先を見てみると、お馴染みの小さなツインテールをなびかせた少女、さきちゃんが立っていた。


「え? 何でさきちゃんが……」


「お、おほほほ、まんまとにーさんはだまされましたね。私の偽者のラブレターに!」


「え、どういうことだ?」


展開が読めず困惑する。


「う、うう……、さらばです!」


俺が困惑している間に、さきちゃんはダッシュしてその場からいなくなってしまった。


「あ、さきちゃん」


俺はよく分からない頭のことは一旦おいておいて、さきちゃんを追いかけることにした。



「ぜぇぜぇ。さきちゃん見た目に反して逃げ足速いね……、でももう逃げられないぞ」


さきちゃんは小柄でいろいろでっぱっているのに、割と走るのが速かったが、なんとか行き止まりのある道に追い込むことに成功した。


「わわわー。逃げ場がないー。がるるー」


俺を威嚇しているつもりなのか? 可愛い。いや、それよりも。


「さきちゃん」


「近づかないでください! にーさんのことなんて嫌いです!」


「ちょっと落ち着いて」


「バカバカ! にーさんのバカ!」


俺がそれでも近づくと、両手で思い切り俺を叩こうとしてきた。


すんでのところで両手を俺の両手で塞いだ。


「何で俺が馬鹿なんだ!」


「バカですよ! 私がどんな思いで……、あの日3時間以上待ってたと思うんですか……」


「え……、あの日って……」


「にーさんの放置プレイ主義! どS! 冷血漢!」


「ちょ、ちょっと待ってくれ……、もしかしてあの手紙をくれたのは、さきちゃんなのか……」


「そうですよっ! それで今日は私の気持ちを味わってもらおうと思ったのに! 何30分で私を見つけてるんですか! あと2時間半あのまま待ちぼうけしててください!」


「そ、そんな無茶な……、というか、さきちゃんって俺のこと……」


「好きですよ! 愛してます! ずっとずっと、3時間どころじゃありません。一緒に遊んでいたころからずっと、6歳の頃からずっと好きでしたよ」


「ぜ、全然知らなかった……」


6歳と言うことは俺が7歳のとき、つまり11年前だ。それからずっとだなんて。


「にーさんのバカ、鈍感」


途中からさきちゃんは怒りから涙声になっていた。


「本当に悪かった……、俺も鈍感すぎた」


「そうですよ……、私が好きでもない相手を鹹かったり、胸を押し付けたりするビッチだとも思ってたんですか……」


俺はもう大丈夫だと思い、さきちゃんの手を離す。


「本気でした。後少しでにーさんが大学生になって、通う学校も代わって、家からも出て行ってしまう。それを思ったら、告白したい気持ちが一杯でした。でも自然に告白できるタイミングが、2月14日しかありませんでした。来てくれたら……本気の思いをにーさまに告白するつもりでした……。でも来てくれませんでした……仕方ないとは思います。名前がありませんでしたから」


「そうだよ。名前が無いからいたずらかと……」


「でも怖かったんです。もし私の名前を書いて、それでも来てくれなかったら……。そう思うと名前はかけませんでした……」


「ごめんな」


さきちゃんはちょっと悪戯好きな子だけど、こんなに奥ゆかしい女の子だったのか。


「にーさん、好きです」


まっすぐな思いを向けられて、俺も自分に正直になることにした。


「俺も…………好きだよ」


「何で間があるんですか」


ちょっと緊張して、間ができてしまった。何か悩んだみたいになってるー。


「もう、にーさんはそんなんなんですから……、分かりました。でも言葉では信用できませんので、行動でお願いします」


顔が真っ赤だけど、真剣な顔。こんなさきちゃんを俺は見たことがない。いや、俺が意図的に目を逸らしてきただけか……。俺は彼女と妹としてか見ていなかった。


「さきちゃん」


「きゃっ! に、にーさん」


俺はさきちゃんを後ろから抱きしめた。俺も緊張していたので。


「う、後ろからは準備していませんでした……、にーさん、予想外はやめていただけると」


「ははっ、さきちゃんって可愛かったんだな」


「うー、今まではなんだったんですか」


「今までも可愛かったよ。そして今はもっと可愛い」


「あ……」


そして俺はさきちゃんを自然に振り向かせて、今度は正面から抱きしめる。


「………ん」


さきちゃんは目を閉じて顔を少し上げる。これはそういうことか。


「さきちゃん、ありがとう、これはチョコのお礼」


「ん……」


俺はさきちゃんにキスをした。


「はぁ……にーさん、……?」


短めの1回目のキスを終えて目を開けたさきちゃんにもう1度キスをした。今度は目を見開いて驚いていた。


「2回目のキスは、俺を好きになってくれたお礼だよ」


「もぅ、にーさんってば……」




というような出来事はわずか2週間前。あっという間に受験も終えて卒業式となった。


3年間通った高校。仲のいい友人も多くできたいい学生生活だったとは思う。


「にーさん、卒業おめでとうございます」


先生の話が終わって、寄書き的なものを終えて、教室を出るとさきちゃんが出迎えてくれた。


「ありがと、さきちゃんには第2ボタンをあげようか」


「にーさん、古いです」


完全な苦笑いである。滑ったな。


「定番ネタじゃん。これを堂々といえるなんて夢見たいだ」


「にーさんにあえて何かをもらうなら、もっといいものをもらいますよ」


「まぁそれもそうか」


なかなか手厳しいことをいうさきちゃん。こういう感じも気を許してくれているようで実に嬉しい。


「まぁそれはそれとしまして、今日はにーさんと一緒にいたくて迎えに来ましたけど……、このまま帰るのもなんですね」


それは俺も同じ気持ちである。


「ああ、そうだな。一緒にちょっと学校歩こうか」


「はい、最初で最後の学校デートと下校デートですね」


「そういうこともっとしたかったな」


さきちゃんは俺のことをずっと慕ってくれていたわけだし、もっと俺が早く気づけていれば、学生デートがたくさんできたのに。


そのままいろいろなところを2人でめぐっていた。


歩きなれた廊下。でももっとさきちゃんと歩いてみたかった。


よく通った学食。さきちゃんと一緒にお昼を楽しんでみたかったな。


運動場。体育祭のときは、さきちゃんがこっそり応援してくれたけど、付き合ってたら、堂々とできたのに。


「…………」


「さきちゃん? 大丈夫?」


俺と2人で歩いている間、さきちゃんはあまり言葉を発さなかった。大人しい見た目をしてるけど、さきちゃんは良くしゃべる子である。こういう感じは珍しい。


「2人で歩いてるだけじゃ楽しくなかったかな?」


「いえ、そんなこともないですけど……」


何か考え込んでいるようだが、何を考えているのかは分からなかった。



「わわっ、割と風冷たいですね」


最後は校門の前に来た。ここを出たら本当に俺は卒業してしまうんだな。そう思うとなかなか俺も感傷に浸りそうだ。


「あら? にーさん泣いてるんですか?」


「ま、まさか。こんなことで泣かないって。さきちゃんこそ俺と会えなくて寂しいんじゃない?」


「そうですね……。にーさんと一緒の卒業だったら、感動と寂しさで私でも泣いたかもしれません」


「まじかー。さきちゃんの泣き顔とかレアだし、留年してもよかったかもな」


「冗談でもやめてくださいね。それだと、私以外のいろいろな人が泣きます」


「最もです」


そんなやり取りをしながら、校門を背に学校を見つめる。


「俺さ、この学校でたくさん思い出ができたけど、さきちゃんと一緒に過ごせたことがすっごく嬉しい」


「…………」


え、この発言にコメントなし? すげー恥ずかしい。


「にーさん恥ずかしい人ですね」


しかも普通に言われた。恥ずかしさ倍増。


「全く、さきちゃんは一筋縄じゃいかないな」


ポン。


さきちゃんの頭に手を置いて撫でる。これは付き合う前からもやっていたことがあった。


「にーさん……」


あれ? あんまり嬉しそうじゃない? 


「さ、寒いから手でもつなごうか?」


そう言ってさきちゃんの手を優しく握る。小さくて暖かい手だ。これも付き合う前から割とあったこと。


「…………」


あれ? より不機嫌に? 何か俺やらかした?


「……にーさん、1つ質問いいですか?」


「あ、ああ」


いつものちょっとだけ笑った表情からかなり真面目な瞳で見つめられて否定はできなかった。


「にーさんは私のことをどれくらい好きですか?」


「そりゃめっちゃ好きだよ」


「具体性に欠けます」


「え、えーと、目に入れても痛くないくらい?」


「それも抽象的です」


確かに、意味もよく分からんし。


「えーと、さきちゃんの料理なら何でも食べれる!」


「そうですね。私は料理苦手ですし、にーさんは悪食ですから」


逆効果!


「じゃ、じゃあ本当にずっと一緒にいたいくらい好きだ!」


「……今までの中ならいいほうです。ではそのにーさんに聞きます。私はにーさんの恋人だと思っていますが、にーさんはそう思っていますか?」


「あ、当たり前じゃん」


これは即答できる。


「……にーさんは私の頭を良く撫でてくださいます。あれは好きです。ですが、なぎちゃんでも同じですよね」


「なぎちゃん? ああ、そりゃな」


なぎちゃんとは俺の妹の柴田なぎさ、通称なぎちゃんである。俺より5歳年下で、さきちゃんよりも3歳下。今は13歳で、思春期を迎えても俺を嫌わない可愛い妹である。


「……にーさんは外を歩くとき、私の手を取ってくださいます。すごくドキドキしてます。ですが、なぎちゃんでも同じですよね」


「まぁ同じっちゃあ同じか」


なぎちゃんは13歳としてはかなり小柄。たまに家に戻ったときや、こっちに来たときははぐれないように手をつなぐ。


「にーさんは私と付き合ってからの2週間、映画館と遊園地につれていってくださいました。しっかり場所の予習をしていただいて、しかも費用も全てにーさんが出してくれました。とっても嬉しかったです。ですが、なぎちゃんでも同じですよね」


「そりゃ当たり前だ」


なぎちゃんと2人で出かけることは確かにあった。俺のほうが5つも上なのだから当然である。


「…………それでは私は妹同然ではありませんか…………」


「…………やっぱり気にしてたんだな」


なんとなく気づいてはいた。さきちゃんが付き合ってから、付き合う前よりちょっとつまらない顔をすることを。


「……気づいてらしたのに、態度を変えないとは、にーさんは鈍感ではなく、鬼畜でしたか」


「いや、それはさ」


「以前でしたら妹同然でも構いませんでした。妹はとても近い家族関係ですから。でも今はそれでは不満です。私はにーさんの恋人でいたいんです。もっと恋人として扱ってください!」


さきちゃんが珍しく大声を出した。その気持ちは分かる、でも俺にも言い分はある。


「さきちゃん、俺だけが悪いと思う?」


「どういう意味ですか?」


「俺がなぎちゃんにどう呼ばれてるかは知ってる?」


「もちろんです。にーさんって呼んで……、あ……」


さきちゃんがあっと言う顔をした。気づいてなかったのか。


「俺にとって君は妹みたいな存在だったのは否定しない。それでも俺は切り替えようとしたんだけどさ、さきちゃんがずっと俺をなぎちゃんと同じにーさんと呼んでるんじゃ、どこまで恋人として踏み込んでいいから分かんないんだ」


これはずっと思っていたこと。ずっと妹のように扱ってきた女子がいきなり恋人になって、それを切り替えるのは容易ではない。それなのに、その相手が、自分の本当の妹と同じ呼び方で自分を呼んできたら、余計切り替えづらいと派思わないか。


「もちろん、さきちゃんだけの責任じゃないさ。でも、さきちゃんもどこかで妹を卒業できてないとは思うんだ。俺だってさ、兄としてじゃなくて彼氏としてみてほしい気持ちはある。でもさきちゃんがそれだと、俺もどこまでいっていいか分からないんだ。俺ずっともてなかったからさ」


「……すいません……に…………」


にーさんと言いかけてさきちゃんが言葉を濁す。口元が震えて、顔も赤い。


まぁここは俺からだな。俺は彼女に11年待ってもらった。また彼女に求めてはいけない。


「さき子」


「……! あ、ああ……」


「どうだ? これならなぎちゃんとは違うだろ。俺は妹を呼び捨てであだ名じゃない感じで呼ばないぞ」


「……はい! ありがとうございます……俊介さん……!」


こうして俺は高校を卒業し、俺と彼女は兄妹関係を卒業した。


兄と妹という近い関係ではなくなったけど、2人は将来もっと近い関係になる。その確信は彼女の笑顔を見れば確固たるものとなっていくのであった。

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