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第九十一話:どうしようもない彼は、憧れの必殺技を目にする




音の少ない異世、のっちゃんたちの息づく気配のみがそこに在る中。

学園の時計塔めいていて、実際本物の塔のようなつくりである、『赤い月』と呼ばれているらしい学園寮という名の収容所の如き場所へと足を踏み入れてすぐ。

音があまり聞こえてこなかった理由が、見ているだけで吸い込まれてしまいそうな圧を感じる、御札やら陣やら色々と設え、貼り付けてある分厚い扉のせいであると気付かされます。


ただ、あの夢の異世にあってものとは違い、四角くてドアノブのようなものもありません。

恐らくは、外からは開けること叶わず、中にいる人しか開けられない仕様になっているのでしょう。




「さて、どうにかしてこの扉を突破しなくちゃならないのでやんすが」

「っておい、ここまで来といて丸なげかよっ。その見た目よろしくいつぞやみたいにちょちょいのちょいでなんとかならないのか?」

「本来の道筋ならば、しかるべき人……中の人と懇意にしている人が訪れた事で中から開けてもらうのでやんすよ。これ触ったら、即死な電流的なものが流れるのを逆手にとったとんちでやんすね。そんな、同じことをして開けてくれるのに賭けるのは……ちと分が悪いでやんすか」



シャーさんとしてはそれでも突破する方法のひとつも考えているとは思われましたが。

五月にうるさいあれのように(失礼)フラフラ飛び回って扉にいたずらに触れないようにといった忠告だったのでしょう。


身に覚えというか、もう少しの所でふらっと近寄ってとっつきに行きそうであったルプレが思わず震え上がっている中。

手を上げるようにして声を上げたのはよっし~さんでした。




「ならば私が……いえ、久しぶりに私とトゥェルでやってみるわ。結果はどうあれ、一応理事長とは顔見知りではあるしね」

「……にゃむ。よし、まかされた」

「うわっ、まぶしっ」



いつの間にやらよっし~さんの胸元から緩慢ななまけもののような動きで、利き腕の二の腕までやってきていたオーヴェは。

ギフトとしての特性を生かしたのか、トゥェルさんである事を示すように、何やら青銀色に発光して変身シーンをひた隠していて。


近くにいたルプレがお約束な声を上げ、謎の光が晴れた頃には。

流線型のフォルムとよっし~さんの腕の甲から生えるようについている、牙撃が物々しくも眩しい姿に変わっていました。

どうやらそれこそが、よっし~さんの能力としての、トゥェルさんの真の姿のようです。



「うーん。壁越しの転移はしんどいしなぁ、ここはお任せですな」

「……あれは思ってた以上に扱いづらかったからな。よっし~さんの能力、拝見といこうか」



確かに壁の向こうへ瞬間移動できる『転移』をマナとのっちゃんは使えますが。

実際扱いづらくろくな目にあっていないので、それ以外の方法があるなら任せたほうがいいのでしょう。

腕なんぞ組んでそう言うのっちゃんは、そのカッコいいオーヴェに内心興味というか惹かれているものがあるようで。


そう言われてよっし~さんも悪い気はしなかったのでしょう。

もう既に、厳密に言えばよっし~さんの能力ではないのですが、出戻りという形でお互い納得し、扉の前に立ちました。




「……いきます。【代仁聖天】、アドジャッジセブン!!」

「……っ」



思えば、この世界に来て初めて耳にするような気がしなくもない、『曲法』……その全容。


文字通りたった一言ながら歌うように朗々と響いたその力込められし言葉は。

ふとした時、奇跡的に出会い見つける事のできる、魂震えるほどの歌そのものに等しくて。

のっちゃんが思わずブルリと体を震わせ、自身をかき抱くようにしたその瞬間でした。



初めに感じたのは。

さっきまで気づいていなかった周りの音が、改めて聞こえなくなる……かき消される感覚。

それが、よっし~さん……オーヴェから発せられているものだと気づき、ふとそちらに目をやると。


青銀色の極太の光が扉に向かっていった……かと思いきや。

それは目に見えるオーラをまとったよっし~さんと完全にトゥェルさんそのものになっているオーヴェで。

正直言いまして目を覆いたくなるくらいの勢いと衝撃をもって刃の先から鉄の扉へとぶち当たっていって……。




はっきりと見えたのは、そこまででした。


切り裂き貫き、ぶち破り、分厚そうな扉や何やらをあっさり裂くように吹き散らしたかと思ったら。


有り余る力の奔流が反動となって私達に遅いかかり。

その場から勢いよく吹き飛ばされてしまったからです。



         (第92話につづく)







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