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第九十話:どうしようもない彼は、ついには等号に辿り着く




それから。

シャーさんがこんな地下奥深くで長年温め続けていた作戦の第一段階のため、予めセッティングされていたらしい、先代の『パーフェクト・クライム』の宿主が存命の時代へと足を踏み入れんとしたわけですが。



忘れかけていたどうしようもないのっちゃんが、我先へと地下へ飛び出したのかと思いきや。

このままだと何だかよろしくない都合の悪い事がふってきそうだと気づいてしまったのか、気づけばカンストしていたらしい『逃げ足』のスキルで逃走すること幾数回ありましたが。



結局のところ、なんやかんやで本気で逃げる気はなかったというか、死に戻りをして秘密の地下11階に戻ってくるので、のっちゃん以外にとってみれば、時間はほとんど経過していなかったというか、ダッシュで駆け上がっていったかと思ったら、泣きっ面の疲労困憊で元の場所に表れるというイリュージョンを見せられる始末。




「主さま、もう気がすんだろう?」

「つかれたら、眠るといい。……きっとその間に終わるから」

「本当か? 痛くない?」

「いやいや、何がですかっ。とにもかくにも皆さんで外にでましょう」



話はそれから、というか久しぶりの感覚ですが、いい加減話を先に進めないといけません。

死に戻りのしすぎでわずかばかり退行しているような気がしなくもないのっちゃんを三人で引きずり上げるようにして上へと向かいます。



いつぞやと同じように、シャーさん本体はここから動かず、赤い色した分身ロボットがその背中を押すのはいいとして。

のっちゃんと違って作戦開始を告げられてからお互いの間に妙な緊張感めいたものが生まれたらしく、何も語らず、だけどお互いを注視警戒しながら後ろについてくるマナとよっし~さん。


どうやら、『パーフェクト・クライム』……『災厄』の対処法について、色々思うところがあるというか、期待してしまっているようで。


初めからいっそのこと清々しいくらいのっちゃんに傾倒していたような気がしなくもなかったマナもそうですが。

夢の異世での記憶はないはずなのに、よっし~さんまで似たような感じなのは一体どういう事なのでしょう。


トゥェルさん……オーヴェが戻ってきてくれたことが、やはり大きいのでしょうか。

それはもしかしなくても、少なからずオーヴェのギフトとしての能力の影響もあるのかもしれません。



その事を考えると、うちののっちゃんが申し訳なくていたたまれなくなってきて。

その時気づいたのは、その『災厄』を受け取る役目、あるいは分けて共有する相手が、別にマナやよっし~さんじゃなくてもいいのでは、という事で。

私……私達みんなで四分割にでもすればいいんじゃないのか、という事で。


マナやよっし~さんとは別の意味で、ルプレやオーヴェと視線を交わします。

それだけで既に、『念話』せずともお互いの意思は伝わって。


けれど結局みんなで視線で牽制し合うような空気の中、それに気づいていないのはのっちゃんばかりで。

はてさてどうなる事やらと、赤色のシャーさんが、ロボの相貌でニヒルな笑みを浮かべていて……。





             ※      ※      ※





そんなこんなで、何だか久しぶりに太陽のもとへ戻ってきたわけですが。

どれくらい前なのかはわかりませんが、喜望ビル自体はあまり変わっていないように見えました。


しかし、シャーさん曰くこの時代ではまだ、能力者達の本拠地ではないらしく、外の世界も人がたくさんで、廃墟の気配は全くありません。

故に、堂々とスキルを使って空を飛んだり、意志の生まれようとしていた青い車を使ったりする事もなく。


いわゆる公共交通機関を使って、一同は目的地……あの夢の異世のあった、学園へ向かいました。

動いて喋る人形型が四人もいて、色々目立つかと思いきやそんな事もなく。

何だか悠長な気がしましたが、シャーさん曰く、そんな時間の調整もしているとのことで。



よくよく見るとやっぱり異世界ではあるのですが。

のっちゃんにしてみれば、郷愁の感情が浮かんでくるくらい懐かしい体験をする中。

辿り着いてすぐ、学園の異変に最初に気づいたのは、よっし~さんでした。




「……っ、現実の世界と変わらないように見える異世? これは、暴走の証ね」

「さすが、すぐに気づいたでやんすか。まさにちょうどのタイミングで、『パーフェクト・クライム』を持て余しているようでやんすね」


確かによっし~さんの言う通り、見た目はとてつもなく広くて大きい学園のようでしたが。

未来の紅さん以外誰もいなかった廃墟のごとく、まったくもって生活感と人の気配がしませんでした。


それどころか、紅さんたちの気配すらなく、敷地に一歩足を踏み入れた途端、外の喧騒が聞こえなくなったことから、誰かの異世に入り込んでしまったのは間違いないようで。



「それって大丈夫なの? あの黒い太陽ってやつが落ちてたいへんなことになるんじゃあ」

「大丈夫じゃあないでやんすね。このままでは災厄を受け止めきれずに暴走して……大惨事でやんすよ」

「……でも実際はそうはならなかった。誰かが分かち合って事なきを得たんだな?」

「そう言う事でやんすね。それが今代の『パーフェクト・クライム』につながるのでやんす。でもって、そうなる前に出歯亀してかっさらてしまおうというのが、作戦第一段階の全容でやんすね」



時間すら合わせていた、と言った割には、そう言うや否やあまり時間がなさそうでやんす、とばかりに静寂ばかりが包む異世を飛び上がるシャーさん。


その後に続き、向かった先に見えてきたのは。

未来には完全破壊されて見る影もなかった、天を仰ぐ高さの塔……にしか見えない建物でした。



「……『赤い月』、暴走してどうしようもなくなっていた能力者達を一時的に幽閉していた施設でやんす。

黒い太陽をその身に秘めし『天使』はその暴走を抑える力が一番強い、地下にいるはずでやんすよ」

「天使、鳥海とりうみ理事長のことね。彼女が元、『パーフェクト・クライム』宿主だったんだ……」



そして、そこでようやく出てくる、トゥェルさんではない、そもそもがよっし~さんに教えられた、

故郷へ帰ることのできるかも知れない力を持っているだろう、もう一人の天使の名前。

まさかその二つがイコールであったとは、思いもよらなかったわけですが。



「……とにかく、急ごうか」



黒い太陽が落ちるその瞬間を目の当たりにしていたのっちゃんとしては、気がはやるのは確かだったのでしょう。



当然のように、それを否定するものなど、いるはずもなくて。


皆で頷き合うようにして、駆け出していくのでした……。




        (第91話につづく)













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