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第八十九話:どうしようもない彼は、どうしようもなく逃げたい作戦を伝えられる



「……いい案だと思ってたんだがな。何かまずい理由でもあるのか?」


恐らく、ここに来ると決めてからのっちゃんなりに考えていた事なのでしょう。

そうなってくると、黒い太陽の凄まじさを垣間見てしまったのっちゃんにとってみれば、すぐには他の対処法が浮かばない、とばかりに気落ちしているように見えましたが。



「一度似たような事を試してみたことがあるのでやんすよ。結果だけでみると、あまり意味がなかったのでやんす。完なるものに取り憑かれた人がいなくなると、未来は変わると見せかけて、なんだかんだ修正が入って、違う人が取り憑かれてしまうのでやんすよ」

「なるほど、根本的な解決にはならないって事か。……だからこそ、全く関わりのない部外者の介入に頼らざるを得ないってわけか」

「そうでやんすね。もうぶっちゃけるでやんすけど、取り憑かれた相手ごと滅するのが一番手っ取り早いのは確かでやんす。それこそ、自分たちでどうにかしろって話でやんすけど、それができないから、こうして助力を乞うているわけでやんすね」

「うーむ。それはこの際こうしてここにいる以上受け入れようとは思うが、さっきも言った通り、少なくともおれにはそんな大それた事はできんぞ」

「そうかなぁ、意外と主さま大それてるしいけるんじゃないかなぁ」



のっちゃんとシャーさんのやり取りが続く中、思わずそんなツッコミを入れてしまうルプレ。

確かに、いろいろと覚えが早く、何度でもやり直せるのっちゃんならばなんとかなるんじゃないかというのは確かでしたが。

のっちゃんが言いたいのは、必ずしも強さ、実力的なものが叶わないという意味ではないのでしょう。


もうここまでの流れで、世界を滅亡に導くだろう相手であっても、滅し……一人を犠牲にすることがうまくないどころか、のっちゃんとしても許されざる事であると思っているのは確かで。


 


「一番ってことは、そうじゃないのがあるんだろう? 滅する以外に、みんなが笑って終われるようなことを、シャーさんは考えてきたんじゃないのか? あの、繰り返す夢の世界だって、そのためのものだったんだろう?」



この秘密の地下11階だけでなく。

シャーさんが門番していたあの夢の『異世』ですら、シャーさんの手によるものであると。

分かっているんだぞ、とばかりなのっちゃんに対し、しかしシャーさんは笑って否定しました。



「ああ、繰り返すっていうと、『LEMU』でやんすか。いやいや、流石にそこまでオイラに押し付けられてもまいっちゃうでやんすよ。でも、確かにそうでやんすね。災厄の真実ほんとうの対処法、お陰さまで掴んでいるのでやんすよ。ただちょっと、問題というか、気の長い話になるというか、ままならない事が多くてでやんすねぇ……」



先程のセリフではありませんが。

その真実とやらが簡単なものであるのならば、のっちゃん達がここにこうしてここにいることもなかったのでしょう。

随分と厄介というか……何かの犠牲をはらむような重さはそこにはないものの、困り果てているのがよくわかる、そんなシャーさんのぼやきがそこにあって。

 


「何だかとても面倒そうだけれど……どちらにしろ最初から私たちにその面倒を押し付けるつもりだったんでしょう? ここまできたら、イヤもなにもないでしょう。のっちゃんさんの言う理想が叶うのならば、手伝うのもやぶさかではないわね」

「あっ、わたしも! わたしだって、せっかくここまで来たんだから頑張っちゃうよー」



それに応えたのは、のっちゃんばかりに全てを背負わせそうな流れにするわけにはいかないとばかりに。

厄介な面倒事に対し、参加の表明の訴えるよっし~さんとマナ。

ルプレやオーヴェ、マインは元よりのっちゃんと一心同体であるからして、のっちゃんがその面倒事を請け負うと言うのならば吝かではなかったわけなのですが。


どうやら、シャーさんとしてはよっし~さん、あるいはマナがそう言ってくれるのを待っていたようで。

その言葉を待っていたでやんす、とばかりにロボの相貌でもわかるニヤリ顔で言葉を発しました。




「そう言っていただけるのなら早速このおいらが体失う程長年考え倒したみんながハッピーになる案を発表するでやんすよ~。―――題して、『大いなる愛で災厄を包み昇華しよう』作戦っ。覚悟をもってお耳に入れてもらおうじゃありませんか、でやんす!」

「……何だか聞いたそばから思っても見ない嫌な予感しかしないんだが」



言葉通り、聞いた瞬間まるで隠しもせず全開で嫌そうな顔をするのっちゃん。

何よりそれを助長させたのは、ギフトたちばかりでなく、マナばかりかよっし~さんまで、のっちゃんからしてみれば全力で避けたいというか予想外の展開に、満更でもなさそうだったことでしょう。



「……ルーザーを救う。ここに来てこのように収束するとは」

「結局、あたしたちの目標通りってわけだなぁ」

「ぐふふ、計画通り……」



のっちゃんに、愛を知ってもらう事。

思えば、私たちの願いは最初からそこにあったのは確かで。

元の世界では叶いそうもなかったからこそ、今こうして異世界へと飛ばされているのだろ言えて。

きっと、そんな真実をのっちゃんが耳にすればどうしようもなくも逃げ出してしまうだろうから、三人とも念話も使わず小声ではありましたが。

シャーさんは、そんな私たちと、のっちゃんに構わず作戦の詳細を語り出しました。




「『災厄』のひとつに、『フェアリー・テイル』と呼ばれるものがあるのでやんすが……この『災厄』は、ここではない世界、遠い時空の先で、いち早く攻略……世界を滅するのを防いだ実績があるのでやんすよ。

その方法は、戦い倒し滅する事ではなく、受け入れ、受け止め、分かち合い、共に在ること。愛を以て制する事でやんした。一人で抱えきれず暴走し破裂してしまうのならば、愛する二人で抱えればいいってことでやんすね。これは、他の『災厄』にも応用できるとおいらは確信をもっているでやんすよ。つまりは……」

「まさに私がしようとしていたことと真逆なのね。でも、今なら……」



長年の眠りから覚醒したかのように。

それはよっし~さんからしたら、確かに厄介で面倒ではあるけれど。

今ならそんな、考えもしなかった事も実行できる。

そう思い、よっし~さんは口を挟んだのでしょうが。



「いやいや、流石に今の『パーフェクト・クライム』の術者を愛せなどと酷なことは言わないでやんすよ。まずは、その『パーフェクト・クライム』そのものを移す事から始めないと」



それはすなわち。

そもそもの、愛し包む相手を変えてしまおうという大胆不敵なシャーさんの言う作戦の第一段階であって。



「……」

「……っ」


なんとはなしに、まじまじと見つめ合うマナとよっし~さんがそこにいて……。




       (第90話につづく)








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