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第八十六話:どうしようもない彼は、奇跡のような経験で救世主となりえるか



「うわっ、うわわぁああっ……って、ふきゃうっ」

「うおっ。な、なんだよっ。急にくっついてくるなって」


勢い込んでのっちゃんに突貫しようとしていたルプレ。

それを遮るように吹き出してきたわけではないのでしょうが。


突然吹き出してきた七色の靄は、のっちゃんを囲むように下から吹き出してきたこともあって、触れてはいけないもののようにも思えて。


一度付いた勢いは止められず、ルプレが靄に飲まれたその瞬間は、背中の羽がかぶった事も相まって随分と肝を冷やされましたが。


何起こる事なく、そのまま勢い余ってのっちゃんの首筋後ろあたりに顔からペタンと張り付く始末。

ずらりと囲むように座している青色のシャーさんみたいなロボットさんに気を取られていたらしく、そんなルプレにびくりと跳ね上がるのっちゃんでしたが。

さすがに会ったばかりの時とは違って、振り払ったりうっちゃったりする事はありませんでした。

 


結果的にみれば、ルプレってば上手くやりましたね、といった感じで。

そのまま首裏でだっこちゃん状態のルプレを見やりつつ、なんとはなしにマナと目があって。

はてさて私たちはいかにして続きましょうか、なんて考えていると。



あの、夢の異世の舞台裏で耳にしたような、少しばかりこもった……どこかで聞いた事のあるような……と言うよりどう聞いてもシャーさんらしき声がいくつも響いてきました。




『サテ、ドウシヨ』

『ナニヲノゾム?』

『過去へ遡るか』

『アルイハミライハへムカウカ』

『アルイハコノバトハコトナルセカイヘムカウカ』

『同志の思う儘を示すといい』

『ホンライナラバ』

『バクダイナルダイカヲヒツヨウトスルガ……』

『この場を訪れし幸ある同志よ! どれか一つ一度のみ、その選択を行使する権利を与えよう!』


 


しかも、初めて会った時の機械めいた、思えば抜け殻っぽかったシャーさんと。

地に落とされて覚醒してしゃべり倒すようになったシャーさんが交互にしゃべっているのがわかります。

どうやら、ぐるりと取り付けられた棚のようなところに座るロボットさんが、順番にしゃべっているようです。

しゃべるタイミングで、その瞳やつるつるの頭をピカピカさせてくるので、とても分かりやすいです。


 


「……矢張りか。一度目の時、もっとしっかり聞くべきだったな」

 

シャーさんたちに対する返事と言うより、後悔めいた小さいのっちゃんの呟き。

それは、一度目の対面で、訳も分からず、自分本位で行動してしまった事を指しているのでしょう。


というか、矢継ぎ早でかたことでわかりにくいですが、何気にシャーさん凄い事言ってませんか?

言葉通りのことができるのならば(事実一度目の時のっちゃんはこの世界の故郷に瞬間移動させられているため嘘ではないのでしょうが)、それはもう人智を超えているというか、のっちゃんがこの世界に来る前に会った転生の神様に等しい力を持っているようにも思えるのですが……。

 


それなのに何故、こんな地下深くに隠れるようにして、やってくるかも分からない『同志』とやらに期待していたのか。

それに対しての答えかどうかはわかりませんが。

シャーさんたちに対する返事に、のっちゃんが考え込んでいる中、後ろからよっし~さんの遠慮がちな声がかかります。




「……ノリさんのファミリア? いえ、もしかしてノリさん本人ですか?」

『時間は有限だが焦りはきんも……って、そ、その声はもしかしてよっし~さんでやんすかっ!』

 


二人はやはり知り合いであったのでしょうか。

しかし、心なしかシャーさん改め、よっし~さんが呼ぶところのノリさんは、よっし~さんに対し戦いているというか、怯えているようにも思えました。


今はそんな事がありませんが、出会ったばかりの頃はどこかおっかないところのあったよっし~さん。

もしかして、そんなよっし~さんから逃げるようにここにいたのかと、益体もない事を考えている中。

もう答えは出ているようなのに、知り合いな二人に遠慮してのっちゃんが口を挟めなないままに二人にやり取りは続きます。



「本当のあなたが表舞台から姿を消してから随分立つけれど……もしかして、ずっとここに?」

『……そう、でやんすね。ここまできたらもう時効でやんしょ。おいらは、何があっても生きて、何があっても全てを見届けるように言われていたでやんす。その結果が今、でやんすね。長く生きながらえたおかげでほんとの肉体は朽ちてしまったでやんすが……お陰さまで色々できるようになったでやんす』

 


でもそれは、もうすでに何もかも手遅れ……終わってしまった後のことで。

シャーさんだけでは、もうどうしようもない。

であるからこその、『同志』を求めていたのかもしれなくて。


 


「できること。それって……」

『先に述べた通りでやんすよ。同志……この世界を救ってくれる意志のある人。だけど、この世界にもともといなかった人物。ずっと、ずっと、探し求めていたのでやんす。この世界に『もう一人の自分』が存在しない、稀有な存在を』


シャーさんは瞳を明滅させながら、未だ陣の真ん中に立ったままののっちゃんを見つめます。

それにならって、よっし~さんも何かを期待するかのように見つめてくるから、そう言うのに弱いのっちゃんはたまりません。

思わず逃げ腰になっても、仕方ないといえば仕方ないところではありますが。



「そっか。のっちゃんは異世界人だから……ここから過去や未来に行っても、自分とばったり出くわしちゃってたいへんな事態に発展しないってこと、なのね」

「同じ世界線、で同じ人物が邂逅したらどっちかが消えちゃうって言うあれか。ドッペルゲンガー、だっけか」



それまで蚊帳の外であったルプレやマナの知ったかぶってる気がしなくもない、そんなやりとり。

聞いていると、シャーさんがそんな神様めいた力を行使できるといった荒唐無稽な話を、もう二人は疑っていないようにも思えて。



「……そ、そうだよ。そのためにここにきたんだ。ここからなら、シャーさんの力があれば、この世界の過去に行けるんだろう? おれを、この世界の過去に飛ばしてくれ。それがおれの、望みだ」



文字通り部外者ののっちゃんであるからこそ、過去に跳んでも齟齬は生まれない。

しかも、のっちゃんだからこそ何度失敗してもやり直せる。

滅び行く世界を救うだなんて大それた事が出来るとは思えないけれど。

繰り返す苦しみに惑うよっし~さんを救い出す事はできるのではないか。

そのための、頼もしい相棒、トゥェルさんもこうして連れてくる事ができた。

 


ちょっと前までは流されるまま自分本位だったけど。

この世界でどうしようもなく繰り返して経験を積んで。


いろんな人の生き様を見て、自身も何かできることがあればと思えるようになれたのは。

のっちゃんにしてみれば、きっと奇跡のような展開であるのは間違いなくて。



「……了承、でやんすよ!!」


もう結構聴き慣れたような気がしなくもないシャーさんの承った証拠であるその言葉は。


きっと、今まで一番大きく、嬉しげに響いていて……。



   (第87話につづく)







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