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第八十四話:どうしようもない彼は、隠されし第三のギフトを解放する



のっちゃんが寝たふりたぬきのオーヴェに気づいているのかいないのか。

一向にオーヴェに触れてもくれなかったのっちゃん。

ルプレですらのっちゃんのプライベートスペースに入るのにかなりの時間を要したのですからそりゃそうなのですが。


故に感触のよさそうであったマナに押し付け……もとい、お願いするつもりであったのに。

調子に乗ってのっちゃんにまとわりつく感じ(比喩表現)で先によっし~さんの元へ向かってしまったため、ルプレとマイン二人でひぃこらして、半ば足元を引きずるようにしてその後に続いたわけですが。




「おまたせ~。ごめんなさいね、久しぶりの外回りだから準備に時間がかかっちゃって」

「……あ、ああ。すまない。折角色々準備してもらって悪いんだが少し事情が変わってな。探していた天使なんだか、よっし~さんの相棒……ファミリアだったのか? ちょうど見つけて、連れてきたんだが……って、待てよ。なんでこうして、戻ってきたと言うのに……」



既によっし~さんとの話し合いは行われていて。

準備万端で車の用意までしていたよっし~さんに対し、のっちゃんは申し訳なさそうに事情を説明する中で、自分の中で気になる所というか、疑問に思う部分はあったようです。


のっちゃんにしては長々と説明していたのに、首を傾げつつ後半部分が尻すぼみになって。

そのままマナどころかよっし~さんすら置き去りにして悩みだしたわけですが。




私たちには、のっちゃんが考え悩み込んでいる理由がすぐに分かりました。

のっちゃんの死に戻りで一緒について戻れるのはのっちゃん本人を除けば、その死に戻りの発動元となるギフトである私たちだけ。

今の今まで幾度となく死に戻りして、マナですら例外ではなかったはずなのに。

 

当然、どう言う事だとこちらへ……正確にはトゥェルさんの方を振り返るのっちゃん。

これはいい加減に起こして、行き当たりばったりにも見えなくもなかったオーヴェの誤魔化しに対する言い分を聞かせてもらわねばと思い立ったわけですが。

 



「トゥェル? トゥェルなのっ!?」

 


うまいぐあいにのっちゃんがこちらへと視線を誘導した形になって。

誘導されたよっし~さんは、思っていた以上に驚愕に目を見開き、声を上げて駆け寄ってきました。

するとすかさず、どう見てもタイミングを見計らってオーヴェが目を覚まします。



「……ふああぁ。ん、久しぶり。よっし~ごしゅじん」


あの、地下の夢の異世で別れてからどれくらいたったのか。

別れてからのよっし~さんの行く末を、ずっと心配していた。

オーヴェの開口一番は、短くもそれら全てを内在していたわけですが。



「と、トゥェルが喋った! あなた、やっぱり喋れたのね。ファミリア、だったんだ……」


抱き起こすようにして、トゥェルさん扮するオーヴェに触れたかと思ったら。

早くもボロの出てしまった感じの、よっし~さんの呟き。


思わずルプレもジオものっちゃんでさえも大丈夫なのかと狼狽えていましたが。

事情のよくわかっていないマナと、当の本人は意外とどこ吹く風で。



「……正確には違うんだ。私はあの夢の世界で命を終え消えるさだめだった。だけど、ごしゅじんが力をくれた。助けてくれたから。こうしてここにいることができる」



死に戻ってきてもついてこられた事を疑問に思っていたのっちゃんに対しても。

元々話す事はできなったはずなのにと驚いているよっし~さんにも、納得させるような……オーヴェにしては長い言葉。


つまるところ、実際はトゥェルさんそのものではないのだけど、のっちゃんの力、ギフトとして生まれ変わったのだと言いたいわけなのでしょう。

真実であるとは言えませんが、どうしようもない嘘ではないのも確かで。



だけど、私達から見ればここにいるのはどう見てもオーヴェそのもので。

さすがにトゥェルさんと見まごうばかりの瓜二つって事はないと思ったわけですが。




「……っ、そう。だったのね。ありがとう、のっちゃんさん。ずっと、トゥェルのことは心残りだったから。こうして今になって会えるなんて、思いもしなかった。長く生き抜いてみるものね」

「い、いや。そんな。偶然っていうか成り行きっていうか……まぁでも、会えてよかったよ」



よっし~さんは、オーヴェの言葉を疑ってはいないようでした。

感謝の言葉を受けてテンパっているのっちゃんを見て、穏やかな笑みを浮かべています。




「そうか。これがオーヴェのやつの能力か」

「……っ。なるほど、だから」 

 

私にだけ聞こえたルプレのそんな呟きに、思わずはっとなりました。

私達からみれはどうみてもオーヴェはオーヴェなのに、みんなにトゥェルさんとして受け入れられているのは。

のっちゃんのギフトとしてトゥェルさんの意志が今、オーヴェに宿っているからだとも言えて。



「ぐふふ。これで確実に一歩りーど」

「……っ、まさかっ。ここに来て予想外なライバルがっ」



上手く乗り切った事で気が抜けたのかなんなのか。

すぐ眠っちゃう設定? も忘れて、ここまで手持ち無沙汰であったマナだけに向けて悪い顔をしてみせる始末。


そんなオーヴェに、マインはこっそり『ステータス閲覧』のスキルを発動していました。

ギフトがギフトに使うのはあれですが、当初からその力の全容の把握がままならなかったため、何か分かればと思ったのは確かで。



―――閲覧結果。


のっちゃんの第三のギフト、オーヴェ。

正式ギフト名、『愛に揺蕩いしもの(ラブシック・メイズ)』。

 

能力詳細。

 

対象の、愛すべき存在をトレース、コピーし顕在化する。

トレースした存在の容姿、記憶、能力を扱う事ができる。

一度使えば、完全にそのものになりきってしまい、齟齬や違和感も修正される。


ただし、トレース出来るのは常に一つだけで。

一度使うと命失うまで解除できないデメリットがあるとともに、術者に多大なるコストがかかる。




感覚的には、そのコストはやはり術者……のっちゃんの生命そのもの、なのでしょう。

他のギフトとの兼ね合いで、命失ってもやり直せるのっちゃんでなければ、やはり使いこなす事も難しい、ハズレとまではいかないまでも、扱いの難しいギフトで。


一体そんな扱いにくいギフトを、オーヴェをどう運用していくのか。

 

とりあえずは。

のっちゃんのこれからの行動を、見守っていく事にしましょう。 




        (第85話につづく)







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