第八十三話:どうしようもない彼は、ついにデレる?
気分が乗らないというか、理解が及ばないと中々思考を働かせて動く事のないのっちゃん。
しかし一度思い立つと、こちらが引くくらい大胆に行動的になるようです。
シャーさんとの、何となく羨ましい気がしなくもない男と男の約束的なものを交わし終えたかと思ったらすぐさま『精霊化・火』を、通常の使い方ではない花火が消える前にいっそう強く燃えるがごとき勢いで使役し、私たちがリアクションするよりも早く消えていってしまって。
「くっそぉ、ここに来て急にスピーディになりやがってぇ」
「多分、わたくしたちが色々しだす前に、とお思いになったのでしょうが……」
「……迅速なごしゅじん、かっこいい」
私達はぼやきつつも、慌ててその後を追う事にしました。
当然、今の今まで寝たふり(のっちゃんに対するコスト削減的な理由もあったのでしょうが)していた、
トゥェルさんのふりをしているオーヴェもしっかり回収して、私たちも霞となって消えていって……。
『―――対象をロストしました。認識できるセーブポイントにまで戻りますか? はい いいえ 』
思えば初めて使う事となる、死に戻り地点の意図的な変更。
裏技、禁断の法にも等しい『冒険書その2』の選択。
正直、うまくいくのかどうかドキドキものではありましたが。
『―――対象の意思をを確認。それに従い、『冒険その2』として認識しているポイントへと戻ります……』
確かに聞こえる、初めて会った時のシャーさんのような、無機質なルプレの声。
すぐそばにいるはずなのですが、どこから声を出しているのでしょう、なんて思いつつも。
その声を聞く限りでは、なんとかのっちゃんの予定通りうまくいきそうで。
「……ふむ。ちゃんと戻ってこれたか」
「ふむ、じゃあねぇよおおうっ、おいてけぼりになるかと思っただろ、お……トゥェルさん的な人がっ」
「……ぐぐぅっ」
「あ、そうだった、すまん。今までもそうだったからみんな自動的についてくるものだと。あ、トゥェルさんは違うんだっけか、とにかく連れてきてくれてよかったよ」
のっちゃんと同じタイミングで三人揃っての顕現(アバター化)。
当然キャラ付けとしてオーヴェは眠りっぱなしであるからして、ルプレが背負う……のはほぼ同じちんまい体格であるからして無理だったので、マインとともに脇下に頭を入れて抱え上げている状態でした。
のっちゃんから見たらどんな風に映っているのか大変気になる所ではありますが。
言葉にせずともそんなフォローへの感謝というか安堵しているのが伝わって来るので、まぁ良しとしましょう。
「……ここは、喜望ビル入口ですか」
「よっし~さんのお着替え準備待ちの時か? って事は」
よっし~さんもそうですが、マナもすぐ近くにいるはず。
そう思い、すぐにしんどくなってきたのでコンクリ瓦礫を枕に、地べたへとりあえずオーヴェを寝かせ辺りを見回します。
「あーーっ! またかわいいのが一人増えてるぅっ! なのになんだか扱いがぞんざいなのが気になる所だけど、きっちりしっかり紹介してくれるんでしょうねっ」
やはり多少セーブポイントにズレがあるのか、少し離れた所からこちらに気づき駆け出しつつ。
なんだか久しぶりな気がしなくもない、らしいマナのそんな声がかかります。
「……ああ、違うんだ。この子はよっし~さんのファミリアってやつで、トゥェルさんだ。詳しい事はよっし~さんが来てから話すから、ちょっと待ってくれ」
「んん? 何だか会ったばかりのつれないのっちゃんに逆戻りしてない? 何かあった?」
そしてそのまま勢いのままに、オーヴェをとっ捕まえてもふもふ抱きしめてしまおうと言う所で。
どこか気まずいと言うか、気落ちしていなくもないのっちゃんに気づいたらしく。
平気でのっちゃんのプライベートスペースに入り込み(すなわちそれは触れるほどに距離が近いと言うこと)、ズケズケと答えづらい事を聞いてきました。
「……っ。未来のお前に再会の約束をしたんだけどな。結局ここに戻ってきたことでそれも叶わなくなったんだなって思って」
だけど、その脅迫めいた近さに、渋々といった風にのっちゃんはそれに答えます。
すると、マナははっとなって。
まさか自身の事で憂いてくれていたとは思わなかったとばかりに破顔しました。
「そんな約束をして、のっちゃんにそう思ってもらえるくらい進展があったとはねぇ。やるじゃないわたし。でもでも、大丈夫だよ。今ここで、ちゃんと再会できたじゃない。逃げられ隠れらてた頃に比べたら大きな進歩よわたしっ。だからきっとその未来のわたしも、浮かばれるってものよっ」
気休めどころかむちゃくちゃな自分理論ではありましたが。
そう言うマナがあまりにも嬉しそうであったので、のっちゃんもどこか救われたというか、安堵する部分は確かにあって。
「……ってか、近い。あまり調子に乗るな」
「痛いっ、デコピン思いのほか痛いって!」
照れ隠しもあったのでしょう。
思えば冗談やじゃれあいでも、のっちゃんが手を出すのはあくまでマナばかりで。
それだけ心を許しているのだと思うと、やっぱりさっきから妬ましくも羨ましいわけですが。
結構な勢いがあったらしく、そのままマナがのっちゃんのプライベートスペースから離れたちょうどそのタイミングで。
準備ができたらしい、門番の一太さんに挨拶しているよっし~さんの姿が見えて。
「……っ、そうだった。マナに構ってる場合じゃないんだった。よっし~さん準備万端のとこ悪いけど、戻らないと」
「もうっ、言い方ってものがあるでしょうっ」
怒る仕草を見せながらも、のっちゃんの照れ隠しがよっぽど嬉しかったのか緩んだ表情のままのっちゃんについていくマナ。
そんな二人を呆れたように見やりつつもルプレとマインは顔を見合わせたあと、地べたでも構わず狸寝入りしているオーヴェを見やって。
「大丈夫かな、さすがによっし~さん本人にはトゥェルさんじゃないってバレるんじゃないか?」
「……どうですかね、この状況でも寝たままってことは、彼女にも何か考えがあるんでしょう」
念話も使わず小声でそんなやりとりをしつつ。
ここはお手並み拝見とばかりに、再び二人でオーヴェを抱え直し、のっちゃんを追うのでした……。
(第84話につづく)




