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第八十話:どうしようもない彼は、天使を終わらない軛から解き放つ



よっし~さん愛用の得物、青銀に光る牙撃の姿と、天使さんの二つの姿を持つファミリア。


いえ、よっし~さんの曲法……【第仁聖天】そのものである彼女は、よっし~さんに『トゥェル』と名付けられてから明確に自我を持ち始めたようでした。

そんな生い立ちを考えると、正しくも私達とのっちゃんと同じような関係だったのだと言えるのでしょうが。


よっし~さんの武器として、攻守に活躍し常に共にあり、前線で戦い続けていいた事を考えると。

とても相棒感が強いというか、正直羨ましい部分もあったわけですが。




よっし~さんが所属していたチームは。

黒い太陽のために戦う正義の味方の中において、回復後方支援がメインであったこともあって、正直その力を持て余していたのは確かなようで。


思うがままに、主のためにその力を震えない事は、徐々に降り積もる痼りのようなものとなって、溜まっていきました。

しかしそれは、トゥェルさん自身よりも、主であるよっし~さんの方が顕著、だったのかもしれません。



理由がどうたったにせよ、自らの意思が介在していなかったにせよ。

世界を滅亡に追いやらんとする黒い太陽を抱え扱いし能力者の正体によっし~さんが気づいた時。


よっし~さんが思ったのは、その正体を知った事による感傷……辛い気持ちや悲しい気持ちよりも。

これで真に自らの力を、トゥェルさんの力を扱えるといった興奮、カタルシスで。

 

その裏にある、今もよっし~さんがずっと後悔し続けている気持ちに気づく事はなく。

トゥェルさんは、主の望みを、願いを叶えるためにと必死に戦ってきました。


 


結局、よっし~さんが心のどこかで歯止めをきかせていなかったのならば。

その刃は、目的まで届いていたのでしょうが。


 

ほころびは、そんなよっし~さんの迷いと、ある意味で味方の裏切り……そもそも敵も味方もなかったところから始まります。

 

あの、今もきっとよっし~さんが見ている夢のように。

のっちゃんが垣間見た黒い太陽の落ちたあの瞬間のように。

世界は取り返しのつかないところまで追い込まれて。

 

曲法などを持つ、力ある者達は。

その意思があるなしにかかわらず、避難という形で今いる場所……『プレサイド』を始めとする、いくつかの地下深くへ囚われ隔離されていきます。


その中には、当然よっし~さんの姿もありましたが。

外に飛び出し世界の終わりへと、幾度となく向かっていたよっし~さんで分かるように。 

躊躇っていながらも、ここまできて逃げるのは我慢ならないと。

無理やりにでも抜け出す事を強く強く願いました。



その場所こそが、今のっちゃんが夢見ているこの場所で。

願うも、夢へと誘う力は強く、甘い誘惑に抗うのも一苦労でしたが。

 

そこで、主のためにと手を上げたのが、トゥェルさんでした。

その時にはもう、語る事はなくも明確な自我を確立させていた彼女。

甘く優しい夢に誘うその装置が、一台につき一人を受け入れる事が分かっていたからこそ、自身がその役目を負う事を望んだのです。



それをそのまま口にすれば、よっし~さんもトゥェルさんが身代わりになる事をよしとはしなかったでしょう。

故に喧嘩し反抗するふりをして、よっし~さんを押し出すようにして、よっし~さん用の夢の舞台に収まったのです。


それから、無事にここを脱出し、よっし~さんが願いを叶えられたのかどうか見届ける事ができなかったことだけがトゥェルさんの心残りでしたが。

それでも、主の役に立つ事ができたという実感が、トゥェルさんを満足させたのは確かで。



主の命令……願いを叶える事ができれば。

生き続けろ、などといった一部の例外を除き世界に還る……消える宿命にあるファミリア。

ご多分に漏れずトゥェルさんも、役目を終えたかのごとく生を全うするはずだったのですが。



トゥェルさんが囚われた夢は。

まさしく、不治の病を治すため未来に賭けるコールドスリープのごとく、長く長く捕らえ束縛し続けました。

しかも、その夢はトゥェルさん自身が自我を持ち、主の願いを叶えるまでの繰り返しで。

 


なけなしの心が摩耗し、磨り減って。

だけど、捕えた夢が、その生命を維持するかのように、凍らせて離さない。


無味乾燥とした、地獄ともつかぬ繰り返しの日々。

その絶望感は、こうして垣間見体験している私達には到底分かりようもない苦痛だった事でしょう。

 

この地獄の苦しみは、一体いつまで続くのか。

それでも、よっし~さんへの想いと、その後を憂う気持ちだけでぎりぎりの所で耐えていて……。


 


そんな日々に思いもよらぬ、唐突な終わりを迎えたのは。

まさに、今さっき、この瞬間でした。


それは、ここの管理ができるシャーさんが、装置を解除するような操作を行ったのか。

のっちゃんがこうして舞台裏にやってきた事が功を奏したのか。

スポットライトが光りを失い、それに則してコールドスリープの装置も、機能停止するかのように静かになって。



今まで、冷たさとともにトゥェルさんを雁字搦めにしていたものが消えていく感覚。

 

ああ、これで終われる。

どれだけの時が経ったのか分からないけれど。

それでも主がまだ求めてくれるのなら、主のもとへと還る事ができる。

 

薄れ滲み消えていく感覚に、心地よいものを覚えながら。

世界に溶けるかのように、消えいこうとするその瞬間。



そんなトゥェルさんの視点で見たものは。

何だか今にも泣き出しそうな、その時には見ることのできなかったのっちゃんの顔で。




―――あなたが、助けてくれたんですね。

 

 

本当は、偶然ただ居合わせただけだとしても。

トゥェルさんがそう思ってしまうのには十分なタイミングではあって。



―――これも何かも縁です。またいつか会える事があるのならば。


―――これでも、救世の天使、などと呼ばれていたのです。


―――あなたがその悩み、悲しみから解き放てるようなお手伝いをできれば、と思います……。

 





『……っ!』


それは、どうみてもこちらを、のっちゃんを認識しての言葉。

まさか気づかれているとは思わなくて。

思わずのっちゃんが息をのんだ瞬間。

 


まさに、のっちゃんが夢を終わらせた、とばかりに。

トゥェルさんの夢の世界はゆらぎ揺れ、消えていって……。




          (第81話につづく)







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