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第七十九話:どうしようもない彼は、どうしようもなくなってきて、天使の物語を辿り行く




世界に溶けて霞になるように。

青空のような髪の天使さんは、消えていってしまって。



その瞬間、役目は終わったとでも言わんばかりに、消えるスポットライト。




「……っ」

「お、おい、主さまっ?」


焦ってはいるけれど、どうしたらいいのか分からないままに、暗闇に沈む棺桶めいたコールドスリープの機械へと駆け寄っていくのっちゃん。

従うままについていき、ちょうど顔の見える部分……ガラス張りになっている所を覗き込むと、そこには誰の姿もなく、何も……


「白い羽? やはりここに探し求めていた天使さんがいたのでしょうか」


ないかと思ったら、確かにそこに天使さんがいたことを示す、その残滓の如き数枚の白い羽。

曇り冷える視界の中、氷の結晶がわずかばかり付着していたことで、その存在に気づけたわけですが。




「くっ、これ開けるボタンとかどこだよっ」


まだ間に合うかもしれない。

のっちゃん自身、そう思っていたわけでもないのでしょうが。

それでも何かに突き動かされるかのように、少しばかり苛立ったような言葉もらしつつ、あちこち触り始めました。



「上の蓋を開けるやつか? 多分この継ぎ目のとこのじゃないか、なっ」

「……うわおっ!?」


そのまま横手に回って、かがみ込みつつ四苦八苦していたのっちゃんでしたが。

あたしもさがすぜ、とばかりに棺桶の頭の部分に回りこんだルプレが、先に開閉装置を見つけてしまったからたまりません。


ぐぃんと、大げさな音がしたかと思うと。

なんとのっちゃんのいた側から、反対側にひっくり返るが如く蓋の部分が開いたではありませんか。

少しばかり寄りかかっていったせいもあって、そのまま前のめりに頭から棺桶に突っ込んでいくのっちゃん。



「わ、わっ。まじかよっ。ってやべっ、もっかい押しちゃった!」

「ぐぅおおぉっ!?」


のっちゃんに負けじと焦っていた部分もあったのでしょうが。

わざとやっているのではないかと疑いたくなるタイミングというか、鮮やかな手際で、のっちゃんが体半分突っ込んだ状態の所で一ボタン。

案の定、時を巻き戻すみたいに半円描き、結構なスピードで蓋が戻っていって……。



当然というか、そりゃそうなんですけれど。

あえなく蓋と桶の淵に挟まれるのっちゃん。

カツンと、随分と軽い音がして、のっちゃんの背中の部分から火花……ではなく星が舞って。

見た目より痛そうだなと思っていると。



「うおっ、なんかぬるってした、ぬるって!」


思わずルプレが引くくらいの面妖な……軟体動物のごとき動きで、のっちゃんはにゅるりと棺桶の中に吸い込まれていくではありませんか。



「みっ、自ら中へ? ……いえ、これは吸い込まれた?」



思えば、通常の手段ではない、のっちゃんのスキルを駆使しこの場所に来た時と同じように。

異世……夢の世界に引きずり込まれたのだと考えれば、それほど違和感は……いや、それでも十分不可思議な動きでしたが。

咄嗟に呟いたマインの予想は、そう外れていない気がして。




「……っ、この感覚。またしても主さま寝ちまったみたいだな」

「夢の……異世とやらに向かったって事ですか。そして向かった先は……」


恐らくは、ここにいた天使さん本人の夢。

間に合わなかったのかと思いきや、やっぱりのっちゃんは諦めてはいなくて。

もしかしたら初めから、夢の世界であろうと現実であろうと、会いにいくつもりだったのかもしれません。



「この羽の持ち主の所ってか。この消えざまを見てると、あんまりいい予感しないけどなぁ」

「それでも、行くしかないでしょう。夢の世界でもわたくし達の力は使えるのは分かっていますし、ご主人様のためとなるのがわたくしたちのすべてなのですから」

「わかってんよ、そんなことは。ただ、主さまがわざわざ知らなくてもいいだろうしんどい事、突きつけられんの、なんだかなぁって思っただけだし」



結局のところ、なんだかんだ言ってルプレものっちゃんの事が気がかりなだけなのでしょう。

でも、それでも、私達はのっちゃんが向かわんとする選択に粛々と従うのみで。



「気持ちはわからなくもないですけどね。どうしようもなくなくなってきているご主人様に戸惑うというかなんていうか……」

「へっ、どうしようもないって。はっきり言いやがるぜ。まぁ、あたしだってそう思ってただから、おふれことしとくけどな」


ルプレとマインはそう言って苦笑し合うと。

あまりもたもたして、夢の世界に時間差が出ては叶わぬと、急いでのっちゃんの内なる世界へと戻っていって……。






         

ルプレとともに、どこぞのボールの中のような快適な世界に戻ってきて。

のっちゃん視点となっている、どこかで見たようなスクリーンには。

正しくも映画館にでもいるかのように、天使さんの人生の物語が繰り広げられていました。


どうやらのっちゃんは、いつぞやのマナのように、天使さんそのものとなって。

物語の主人公視点で、そこにいるようで。



当然、よっし~さんが見ていた夢とは、時間も場所も違うはずなのですが。 

何故か振り返らなければ見えない斜め後ろ上めの、ごく近いところによっし~さんがいるではありませんか。


そのあまりの近さに、のっちゃんの動揺も伝わって来るようですが。

ルプレと一緒に身を乗り出すようにしてよくよく見ていると、よっし~さんに抱きしめられるくらい近くにいるというよりも、よっし~さんの右手にしがみついているというか、両手両足を使ってくっついているように見えました。


加えて、よっし~さんはそんな天使さんを駆使し、紅さんたちを始め、どう見ても敵性っぽい人もそうでない人も構わず突き刺し、貫き、切り裂いてぶちのめしているのがわかります。



「……なぁ、これって天使さんの夢なんだよな? でもこれってどうみてもよっし~さんの得物視点じゃね?」

「恐らく、この世界にある意思ある武具……『ウェポンカーヴ』だったのでしょう、あの天使さんは」


あるいは、武器のようなものに変形できる『ファミリア』さんだったのか。

しかもその主はよっし~さんで。

ひょっとしなくても、のっちゃんが元々探していた天使さんとは違う、天使違いのような気がしましたが。


既に賽は投げられてしまっているわけで。


それでも、これだけよっし~さんの近しい方ならば。

よっし~さんを抜け出せないループから救い上げる事もできるかもしれないと。

流されながらも状況に乗る事を決めたらしいのっちゃんに倣って。



私たちは、引き続き天使さんの繰り返すであろう物語に、浸る事にしたのでした……。




    (第80話につづく)

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