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 僕の友人『N』の場合~どうしようもない彼に転機(死に戻りループ)が降ってきた~  作者: 大野はやと
第一章:『青空編』

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第七十六話:どうしようもない彼は天使がそこにいるとわかっていたのか



何だかしんみりとした気分になって、久しぶりの死に戻りもあって失念していましたが。

のっちゃんが戻って再開ポイント……所謂冒険の書が二つあるのに、どちらへ戻るのかの指示……のっちゃんの意思を聞きそびれていたのに気づいたのは。


七色の星屑のようなものが寄り集まって人型を形成し、のっちゃんがのっちゃんとして、夢の世界へ誘う場所の手前……大きな大きな丸扉の前に、きっかり戻ってきたその瞬間でした。





「オオオオォォォおおおおおぉぉぉっ…………あれ、意外と熱くない?」

「いやいや、主さま。元々マインのちからで痛みとか感じないんじゃなかったのか?」

「あ、そうだったっけか。熱さとかは分かるような気がしたんだけど……」



今の今まで何度も死に戻りしてはいましたが。

何せ自らの手でそれを行ったのは初めてであったので、のっちゃんもあるいはルプレも戸惑っている部分はあったのでしょう。


顕現化したばかりはあれだけ避けられているというか、接触すら拒まれていたのに。

二人がそうやってじゃれあっているのを見ていると、慣れって凄いなぁと思うとともに、やっぱり何度死に戻って時が戻ろうとも、のっちゃんは確実に経験を積んでいっているのだと、再確認したわけですが。




「……主どのおぉぉぉっ!」


そんな触れ合いに私も参加しなくてはなどと思っていると。

赤色桃色ばかりで距離の分かりづらい洞窟のような通路の向こうから、いつぞや聞いた覚えのある野太い声が響いてきました。



「ん? この声はヴィロデさんだな。セーブした時はここにいたはずなのに、意外とせっかちな人なのかな」

「……というより、多少のタイムラグがあるようですね。今までは知る機会がなかったですけど、全く同じ時間帯に戻るわけではないのかも」



正確には、時間どころか世界軸のようなものも変わっているのかもしれませんが。

今更になっての細かな新発見が、何か役に立つ事があるのかと一考していると。

文字通り足音一つどしんどしんと立てて、久しぶりに拝見するとまさに異形としか言いようのないヴィロデさんが、何だか焦った様子で駆け寄ってきます。



「どうしたんだ? 何かあったのか? そう言えばシャーさんの姿がないけど」

「ええ、まさにそのことで。皆々方が先に進みなさってすぐに、シャー殿が上へと向かったかと思えば帰ってこぬのです。いや、ここで主どのの帰りを待てとは言いませぬが、何も語らず出会ったので気になっていたのです。シャー殿のように舞う事も出来ぬゆえどうしたものかと思っていたのですが、ご帰還の気配がしたので参った次第で」



確かに言われてみれば、この先へ向かう瞬間、ヴィロデさんが何か訴えていたのが思い出されます。

シャーさんが空舞う姿も、微かに垣間見たような気がして。



「シャーさんに用があったんだけど……上か。もしかしたら、門番の仕事に戻ったのかもな」

「そう言えばシャーさんってここの入口にいたんだっけか。その仕事に需要があるか、怪しいもんだけど」

「門番、でありまするか。入口というと頭頂部分ですかな。そのような場所に、我らの同胞は、そもそも配置されていなかったはずですが……」

「つまり、シャーさん自身、そもそも部外者、来訪者であるのかもしれませんね」


初めてここに来た時、そのちょっと前に紅さんたちと邂逅した事もあって違和感なく受け入れてはいましたが。

門番のようなことをしていたのはブラフで、他に何か目的があった可能性もあります。



「とりあえず……入口に戻ろうか。そこにいるならそれでいいし、いないのならば向かう場所を変えるだけだ」

「こっから飛んでけばいいのか? 鳥型の紅さんたち、きっとこっちにもいると思うんだけど」

「うぬ、それでは某の随伴が……いや、『横隔膜の間』まで戻り跳んだ方がよろしいかと愚考しますが」


そんなのっちゃんを伺うに、元よりこの場所、『冒険の書その一』へ戻るつもりでいたようです。

何やらシャーさんに用があるようですが……結局、ついてきたそうなヴィロデさんを蔑ろにはできずに、『横隔膜の間』へと向かう事にしました。





正直なところ、タイムリミットがあるようなないようなで、ここからまた繰り返す羽目になるのかと少々辟易していたわけですが。

今度は前回と違って、目的の頭頂部分に、一度目の跳躍で向かう事ができました。

 


そして、そのままシャーさんが……思えば自我のなさそうであった頃に居た場所。

大きなスクリーンと、仰々しいコンピュータのある場所へとやってきたわけですが。




「おっ、やっぱり戻ってきたでやんすね。待ってたでやんすよー」


スクリーンを覗き込むようにして背中を向けていたシャーさん。

その赤くつるりと光る後ろ姿に、どう声をかけたものか迷うよりも早く。

拍子抜けするほどに変わりない軽い調子で、シャーさんが語りかけてきました。

しかも、明らかにそんなわけがないだろうと分かるウソを口にしたではありませんか。



「待ってたって、ほんとかよ。誰もここに戻ってくるなんて言ってないんだけど」

「そうですぞ、この場に参られるのなら、一言あってもよかったではありませぬか」

「いやいや、それはごめんでやんした。ここなら中の様子が見られると思って、気が急いてたのはあったのかもしれないでやんすね」



そして、都合の悪い事なのか、ルプレが空気を読んでいないからなのか。

あからさまにルプレのことはスルーして、ヴィロデさんにペコペコ頭を下げるシャーさん。


本来ならそんなシャーさんに話聞けよーとばかりに突っ込んでいくのがルプレの常ではありますが。

それより何よりシャーさんの言葉に聞き捨てならないことがあったので、みんなしてスクリーンの前にやってくることとなって。



「中の様子って、もしかしてあの夢の世界が見えるのか?」

「夢? ああ、異世でやんすか。違うでやんすよ。このスクリーンというか装置は、もともとコールドスリープを管理するものなのでやんす。ちゃんと起動しているか、中で眠る人に問題がないか、随時適宜確認できる仕様になってるのでやんすよー」

「ふぅむ、このようなものがあったとは。所詮はしがないいち守護者、知らぬことのなんと多い事よ」



ルプレが身を乗り出し、ヴィロデさんが唸る中、まさにそれこそがここにいる目的であったと言わんばかりに。

何やらコンピュータを弄って、二次元の壁を超えるなどではない、本来のスクリーンの役目……シャーさんが言っていた通り、それまで黒幕同然であったスクリーンに光が灯り、天井あたりから撮っているらしき、映像がいくつか分割される形で映し出されました。


 

「……つまりシャーさんは、門番さんというより、まさにここを管理する人という事なのですね」

「そう言われれば、そうでやんすかね。おいらの役目は、とにかく見守る事でやんすから」


例えその画面の向こうで何があったとしても。

あくまで見守るだけであり、介在する事はない。

シャーさんの言葉には、そんな意味が暗に含まれているようにも思えましたが。




「この中に天使と呼ばれている人はいるのか? いるのなら会って、起こしてもらって話が聞きたいんだが」


そんな言葉尻の機微などどうでもいいと言わんばかりに。

そのためにここに来たと言わんばかりに。

どこか確信めいた口調で問いかけるのっちゃんがそこにいて。


 

「天使、でやんすか。……ああ、確かにそう呼ばれているものはいるでやんすね。会ってみるでやんすか?」

「お、おお。頼む」



自分はあくまで監視するものであってついてはいけないけれど。


それでもいいならと。


駄目もとで聞いたのっちゃんですら、あまりにあっさりとしたシャーさんの返答に。


驚き戸惑うばかりの急展開がそこにあって……。



      (第77話につづく)







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