第七十四話:どうしようもない彼は、人任せが常であったのに
ここに来て初めての、ルプレやマインにとっての明確なダメージ。
正直、焦りに焦ったのは事実でありましたが。
のっちゃんと意識が飛んだのとほぼ同時に、この繰り返しの夢の世界のスタート地点に戻された事で。
改めてこれが現実のルプレ達に影響のないものであると思い知らされたわけですが。
その夢のスタート地点が、ここに来たタイミングで固定されていたため、どれだけ急いでも、まるでこの世界へ来たばかりののっちゃんのような繰り返しのループに嵌ってしまいました。
最初に会ったマナがそうであったように。
のっちゃんの死に戻りと違って皆がその繰り返しを覚えていたのですが。
それを糧に工夫しようと思っても、そもそもの与えられた時間に限りがあり、よっし~さんを助けるどころか、まともに会う事すらできない始末で。
「……くっ。駄目だっ。一旦戻るぞっ!」
このループから抜け出す方法……セーブし据え置いていたポイントへ戻ることをのっちゃんが宣言したのは。
結果の出ない繰り返しが、10回目にも届かないあたりでした。
「戻るって、まさかここへ来る前にってこと?」
「ああ、そうだ。このままじゃ埒があかないって分かってるだろ」
それは、8回目の繰り返しの……人集まっていた騒々しい場所から退避している最中の出来事でした。
マナものっちゃんも、それまでの繰り返しでうまくいかなかったのを身にしみていたからこそ、一旦戻って仕切り直すのは、自然と話題に出ようというもので。
「あ、そうか。一回外に出て、入ってくるタイミングを遅らせればいいのか。そうすれば肝心な所から始められるもんな」
「……果たして、そう上手くいきますかね。ここまでの感じ、終わりのタイミングは変わっていないように見えますけど」
試してみるのはありかと思いますが、それもこれものっちゃんに意思次第、なのでしょう。
根本的な解決……そのそも何を成す為にここに来たかを考えれば、そもそもこの繰り返しの夢はのっちゃんが関わるべきものでないことは確かで。
「なるほど、よく考えたらここで燻ってる理由、ないんだもんねぇ。帰るために天使を探さないといけないんだったよね。あるいは、その天使が世界を渡った、その方法かぁ。多分、この繰り返しの世界のどこかにいるんだろうけど……わかったわ。わたしも繰り返す限り探してみるよ、その天使さま」
でも、それでも。
一旦戻ってしまえば、ここにいるマナとはもう二度と会えないと言う事でもあって。
のっちゃんがそれに気づく……気にしないようにと、明るい調子でそんなことを言うマナ。
実際マナが、この思ったより広い世界でその手がかりを見つけたとしても。
このループののっちゃんに、伝わる事はありません。
それを分かっていての、張り切るマナの全然盛り上がってない力こぶは。
逆にのっちゃんに火をつけるものとなったのは確かで。
「こっちは任せた。見つけたら……おれの方から会いにいくよ」
「……うん、待ってるよ」
それが可能かどうかなんて関係ない。
約束する事に意義があると言わんばかりに。
その瞬間の二人には、二人だけの空気があったわけですが……。
「……あ、まって。ちょっとまてよ? 盛り上がってる所悪いんだけどさぁ。よくよく考えると、どうやって戻るんだ? 今まで自発的にセーブポイントに戻った事なかったよな。いや、そもそもここで死に戻っても、ここのスタート地点に戻されるだけなんじゃあ」
そんないい感じの二人を邪魔したかったから……というわけではないのでしょうが。
最初に言葉を発して以来、何やら考え込んでいたルプレがまさにここしかないといったタイミングで、確かに失念していた根本的な事を口にしました。
結果的に、なんだかしんみりとした空気はどこかにいってしまって。
「あー、言われてみれば戻ってる瞬間って見た事ないのよね。のっちゃんのリアクションで、ああ、死に戻りしてセーブポイント? から再開してるんだなって分かるくらいで」
「……いや、一度あったじゃないか。ほら、マインの力で戻っただろう?」
「そうなの? その瞬間はなかったことになってるみたいだから知らなかったけど」
気づけば皆がマインに注目する事態になっていました。
その一度とは、まさにマインがとうの昔に忘れ去りたい黒歴史そのもののことで。
「いやいや、ちょっと待ってくださいって! あれは緊急事態の禁じ手なんですよっ。考えてみてください、わたくしにご主人様を手にかけよとおっしゃってるようなものなんですからねっ」
今でもあの時のことを思うと、どうかしていたとしか思えません。
ある意味自死自殺をして死に戻るよりもひどい仕打ちだとは思いませんか?
私はあの時あの瞬間、こんなことはもう二度としないと誓ったのです。
そんな気持ちを込めて自然と瞳がうるうるになるのを自覚しながら、勘弁してくださいと訴えますが。
そこでひどく冷静に、どことなく呆れた様子で応えたのはルプレでした。
「それじゃあどうするんだよ。まさか主さまに自刃しろって言いたいわけじゃないんだろう? ああ、あれか。あたしが無理くりにでも選択肢出せばいいってことか? なにせ二分の一で死ねるもんなぁ」
「そっ、そんなこと言ってないでしょう……っ」
あまりにあまりな物言いに、かっとなって反論しようとするも言葉が続きません。
何故なら私の発した言葉は、正しくも独りよがりな我が身可愛さそのものだったからです。
ある意味、初めてに近いルプレとの険悪なムード。
「ちょっ、喧嘩しないのっ。だったらわたしがっ……って、のっちゃん!?」
それを振り払うように割って入ったのはマナでしたが。
すぐさま、悲鳴のような誰何の声を上げていて。
それに導かれるままに皆で振り返ると。
いつの間にそんな事になってしまったのか。
刹那目を離した隙に、『火だるま』と化したのっちゃんがそこにいて……。
(第75話につづく)