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第七十三話:どうしようもない彼は、改めてどうしようもない存在を目の当たりにする



マナとしても、マイン達としても。

この死に戻りめいたループに、時間差があったことは、想定外のことではありました。


一体どのくらいの時間が残されているのかは分かりませんが、この世界の行く末の根幹に関わる事がこれから垣間見えると思うと、マナとしてはなるべくして一緒にいたかったのでしょうが、いないものはいないで仕方がありません。

 


のっちゃんも多少なりともそう思っていたようで、少しばかり戸惑ってはいましたが。

時間がないだろうことは分かっていたので、流されるまま、ルプレに引っ張られるままに。

来た方向とは反対側の地下鉄出口から外に出る事にしました。



 

「……んん? あれ、なんだ? また違うところきちまったのか?」

「いえ、そんなはずは……地下鉄にいた時間もそれほど長くはなかったはずですが」

「海際の……都心に近い場所、だったはずだよな」

 

ルプレが引っ張っていく流れで、そのままのっちゃんに勢いがついて。

結果再びのっちゃんの両肩にジオとルプレが陣取る形になって。


同じような作りでイマイチ判別がしずらかったものの、入ってきた方向とは逆……問題の現場に近いだろう出口から上がってきたのは確かだったはずなのですが。


ルプレが思わず首を傾げてそう言うのもわかるくらいに、世界は一変していました。



各々が第一印象を漏らす中、そんなのっちゃん達を迎えたのは。

台風もかくやといわんばかりの、しかしいつの間にかどこぞの荒野にでも舞い込んだのかというくらいに煤けた茶色の濃い風でした。


地味に吹き飛ばされて地下に戻されそうになるのを、ルプレとともに必死にのっちゃんの肩にしがみつくことで堪えていると、何故こんなことになったのか……その全容が見えてきました。



「……何だろう、知っているような知らないような場所なんだが、こんなに空が近かったっけか」

「ああ、あれだな。何だかたくさんあったビルっぽい建物が軒並みなくなってるからだろう。空の色が赤いのも、距離感分かんなくなってる理由かもしれないけどな」


 

ルプレは敢えて軽い調子でそう口にしていましたが。

それまで世界を彩っていたはずの、ビル群の末路は、それはひどいものでした。

何か大きなものに上から押しつぶされ抉られたかのように、その階層を低くし、半月型に削れているのが分かります。

そのせいで、本来なら見えないはずの赤みがかった空とその向こうの景色が見えているのでしょう。

それは、つまるところ……。


 

「予想していたことではありますが、既にその問題の黒い太陽とやらは問題の場所へと落ちてしまったようですね」

「そうなのか? その割には、まだなんか原型保ってる気がするが……ってやべっ、言ってるそばからなんか来るぞっ」


どこかで一度体験したことがあるような、ぐんと大気が振動し、襲いかかってくる感覚。

それによって気付かされたのは、前言撤回……現在進行形で黒い太陽の脅威が迫っていると言う事で。




「くそっ、一旦戻るぞっ。このままここにいても死に戻るだけだっ」


思っていた以上に素早い判断でのっちゃんがくだしたのは、地下へと戻る事でした。

肩口にいる以上、自然とルプレもマインもそれに従ったわけですが。



「戻るのはいいけど、こっからどうすんだ? このまま時間切れを待つのかっ?」

「……いや、あれの被害のなさそうな地下を進む。恐らくこの状況なら電車も通ってないだろうしな」


特に何か考えがあるわけではなく、とりあえず戻ってきただけなのかと思ったら、何とも大胆な行動力を発揮するのっちゃん。 

タイムリミットに追われた結果というよりも、この危機迫る状況に慣れてきたというか、言い方はあれですがテンションが上がってきたのでしょう。


らしくないかと思いきや、一旦のめり込めば意外と行動力があるのっちゃん。

そう言うや否や、ルプレとマインを肩口に従えたまま、そのまま迷う事なく線路を降り、すぐに見えてくるトンネルを目指しました。




ここまでの経験により、『暗視』のスキルを覚え、ここにきて結構頻繁に使用していたためきっとレベルも上がっていたのでしょう。

『飛翔』などを駆使し、華麗に線路の下へ降り立ったのっちゃんは、やはり迷う事なくトンネルの向こうへと駆け出していきます。




「なんかすげぇな、主さま、物語の主人公みたいだぜ」

「同意です。ここに来てご主人様、スキルの使い方もこなれてきてますよね」

「二人して何を言い出すかと思えば……」


そんなおべんちゃらはよせよ、とでも言わんばかりに。

事実その時ののっちゃんはノリにノっていたことでしょう。

 


結果、それがいい方に回ったのか。

来ないかと思っていた電車と正面衝突の鉢合わせ、なんてこともなく。

しばらく走っていったところで、トンネルの道が徐々にあがって来ている事が分かりました。




「どうやら地下鉄、一旦終わりみたいだな。さて、外はどうなっている事やら」


恐らく、黒い太陽による暴威により、現実の世界で見た別世界……荒廃した世界を作り出しているところなのでしょうが。

結構深いところにこのトンネルの道があるのか、何かそれを感じさせる音や気配はしないというか、感じられませんでした。

やはり、黒い太陽の対処として地下へ逃げ込む事は正しい事なのか。

 


そう思いつつも明らかに傾斜が上がって地上へ出ようとしているトンネルを、慎重に上がっていくと。

明らかに終末を感じさせるような地響きと、風の悲鳴……不快と不安を混ぜ合わせたような生暖かい風が吹き込んでくるのが分かって。


それでも、ここまで来て今更引き返すわけにもいかず。

いつ来るかも知れない時間切れに押されるようにして、のっちゃんはそんな風を掻い潜るようにして外に出ます。


その際、ルプレとマインは。

念の為にと、いつでものっちゃんの中に戻れるようにと待機していたわけですが。


 

 

「おいおい、こんなのどうしろっていうんだよ……」


偶然なのか、終わりのその瞬間の刹那の凪であったのか。


トンネルの終着点は、既にこの世界に来て見慣れ始めていた荒野が広がっていました。

それに色を添えるように赤い空が……と思いきや、いつの間にか夜の帳が降りてしまったのかと思えるくらいの闇が広がっていて。



それが、今まで何度も耳にし口にしていた黒い太陽そのものだと理解した時には。



あれだけ警戒していたはずなのに。

のっちゃんの中へと戻る暇もなく。


その闇色に飲み込まれていて……。



 

           (第74話につづく)











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