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第七十二話:どうしようもない彼は、ロスタイムな記憶に駆ける



と、その時でした。

先程ののっちゃんが、テンションが上がってしまって、暗闇の中色々なものにぶつかったのと同じくらいの衝撃が襲いかかったのは。




「こっ、今度はなんだぁっ」

「……ふがふっ」


無理矢理にでもオーヴェを起こそうと、ほっぺアイアンクローを繰り出すまでに至っていたルプレが、急激な揺れに勢い余っていつもより深く指先をほっぺにめり込ませ、さすがに嫌そうな声をオーヴェがあげる中。


改めてスクリーン……のっちゃんの視界を見やると。

のっちゃんどころか寂れだしたホームそのものが大きく揺れているのが分かりました。




『……っ、始まった、みたいね』

『始まった? 一体何が……』

『黒い太陽が落ちたのよ、ここからすぐの浜辺にね』

『それでこんな、地震みたいに揺れてるってのか? 落ちたらどうなる? よっし~さんはその近くにいるんじゃないのか?』


危機的とも言える状況に、どこかのっちゃんも興奮と言うか高揚しているのか、勢い込んで矢継ぎ早に質問を投げかけていました。


プライベートスペースの広いのっちゃんにしてみれば、随分と思い切った接近であったのですが。

マナとしてもそれどころではないので、それを気にかける余裕もなく、沈痛な面持ちで答えます。



『どうなるのかってのは……何回か繰り返す中で最後まで見届けられたことなかったから、はっきりとは言えないんだけど……お話とかであるような、隕石が落ちたらの状況に近いんだと思う。よっし~さんも……分からないの。現実でこうして会えているのだから、無事だったとは思うんだけど、肝心の所で戻っちゃうから、ね』

『……マナ、どうしたっ? 体が何だか透けてっ?』



まるで、マナがそれを口にしたタイミングを見計らったかのように。

のっちゃんの死に戻りとは異なる様相で、マナが色彩を失い、存在そのものが失われていくのがわかります。



『ああ、そっか。この夢の繰り返しは、やっぱり時間制限があるみたいね。今まではこのタイミングではだいたい外にいて、結果的に黒い太陽に焼かれてたから気付かなかったよ。これも、のっちゃんがいてくれてここにいるおかげかもねぇ……』

『おい、ちょ、まっ……』



しみじみと、どこか感慨深げに。

まるで、最初からそこにいなかったように。

その瞬間、消えてしまうマナ。


追いかけ縋るようにのっちゃんは手を伸ばしますが。

間に合わなかったのか、もとより触れられなかったのか。

その手に何を掴む事はできなくて。


それはまさに、今までのっちゃんが周りに与えていた、残されたもののその後を味わうに等しかったわけですが。




『……降り出しに戻っちまったってこと、か? マナだけ? ならどうしておれは戻らない?』



しかしそんな自分に気づけるくらい、のっちゃんは冷静でした。

ここに来たばかりの頃のように、何につけても混乱して訳がわからなくなるようなこともありません。

残されたものの衝撃はあったのでしょうが、その実感をしっかと経験として積み重ねているようにも見えて。




『……そうか、おれたちの方がここに来るタイミングが遅かったからか』

『そういうこったな、この貴重な時間を活かして、外がどうなってるのか見にいこうぜ、主さまっ』

『うおっ、びっくりした。なんだ、ルプレいたのか』

『いたのかって、そりゃないぜ主さまぁ、つめてぇなぁ、つめてぇよぉ。いつだってあたしらは傍にいるんだからなっ』


恐らく、一度目とは違う理由で、ルプレはいてもたってもいられなくなって出て行ってしまったのでしょう。


いつの間に、とは思いましたがのっちゃんのことを心配しようとする気持ちは痛いほどわかりましたので、マインとしましても、後に続こうとこっそりさりげなく外に出ることにして。




「……何だか、前言を撤回しているような気もしますけれど。もう少し待っていてくださいね、オーヴェ。必ずあなたの出番が来るようにと、ご主人様にお願いしますから」

「……」


多分、これからきっと繰り返し停滞する展開に、何となく感づいていたのもあったのでしょう。

それを打破するには、何か大きな変化が必要で。

 

きっとその鍵は、オーヴェが持っている。





「……じゃれてないで、外に出ますよ。おそらく、言うほど時間は残されていないはずですから」

 


どこかそう確信しながら、マインは自分もしっかり傍にいますよと言わんばかりに。

長期戦を呈するだろう、その先を促すのでした……。



 

         (第73話につづく)







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