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第七十一話:どうしようもない彼は、ウソを愛す彼女に振り向かない




終末が近づいて来ている事を、夢の繰り返しでありながらも世間は理解していたのか。

のっちゃんが飛び込んだ地下鉄へと続くだろう下り階段には、人の気配どころか明かりの一つもありませんでした。


それすなわち、『暗視』がなければ右も左も分からずいきなり壁があっても避けようがなく大惨事なわけで。

それ以前にのっちゃん視点……スクリーンは真っ暗であるからして、中にいるマイン達はちょっとしたパニック状態になっていました。



「うおおおおいっ、どっ、どうすんだぁっ、さっきはああ言ったけど外に出た方がいいのかっ? ガンガンいってる、ぶつかってるってこれ、絶対!」

「……ううん」

「オーヴェが反応した? これは想像以上の危機ですかっ。 ……しかし、ただ待って死に戻りを待つというのもっ」



勢いがついているので、アバター化した瞬間吹き飛ばされてどうなるか分からないと言うのは確かにありますが。

我が身可愛さに(でなければギフトの発動がスムーズにいかないとはいえ)ここに座したままというのも心苦しいものがありました。


どうすればいいのか迷う中、ルプレが言うように一旦付いた勢いが止められないのか、のっちゃんとしては見えているはずなのに、この場全体が震える程の衝撃は、流石のオーヴェでもうなされ寝返りを打つくらいは激しいもので。


結局、答えが出ないまま、文字通りのっちゃんの内なる世界でまごまごしていると。

一際大きな衝撃の後、それまで真っ暗であったスクリーンの向こうが、急激に真っ白く……明るくなったではありませんか。




『のっちゃん、大丈夫っ!?』

『……ぐぅっ、な、なんとかな。ついはしゃいじまったよ』


どうやらその、太陽……というより蛍光灯のような明かりは、マナから放たれたもののようです。

ガラス張りの喫煙室にぶつかるようにして引っかかっているのっちゃんの頭上には、わずかばかり生成り色がかった光球が浮かんでいました。


やっぱりのっちゃんらしくないセリフを吐いて強がっていましたが、座り込んだその場所に散らばる七色の星屑が相当数散らばっていて、思っていた以上の衝撃が伺えます。



「そんな事言って、動けないんでしょう? 今回復するからっ」

「回復って。そんなことまでできるのかよ。……いや、その必要はない。最近気づいたんだが、今のおれって多少の怪我ならほっといても治るみたいだからな。マインの力で」


つい先程自身のギフトのデメリットに対してへこんだばかりのマインを、まるでフォローしてくれるようなのっちゃんの言葉。

思わずわざわざフォローありがとうございますと、のっちゃんの内なる世界から頭を下げたい所ですが。

のっちゃんとしては、魔法めいた力を使う度に何かしらを削って摩耗しているマナを心配というか、嫌がったがうえの言葉だったのでしょう。



「あ、そうなの? って、ほんとに治ってる!? なんていうか……死に戻りばっかり注目されがちだけど、のっちゃんて多才だよね」

「……それはこっちのセリフだろ。っつーか、今更言うのもなんだけどさ、大丈夫なのか、マナのギフトって。その光だって、何か代償があるんじゃないのか?」


今まではのっちゃんのことばかりステータスやギフトについて解説してきましたが。

仕様というか、プライベートな事であるからして、マナのそれらについてはあまり触れてはきませんでした。


のっちゃん的にも、そう言う事はあまり聞きたがらず話したがらない所は正直あったのですが、ついには我慢できなくなった部分もあったのでしょう。

特に曖昧に濁すことなく、ただただ真っ直ぐにそう問いかけます。



「いやいやっ、これはただの生活魔法だから! うちら界隈の魔法少女なら誰でも使える基礎魔法だからっ。代償はМP的なものだけだからっ」

「……そうか。ま、なんでもいいから無闇にギフト使うなよ。都合よくその度に戻れるわけじゃないんだからな」

「う、うん。気をつけるよ……」


マナとしては、どさくさに紛れて色々突っ込んで欲しい所があったのでしょうが。

のっちゃんとしては、マナのギフトの代償のことを後々に知った事で死に戻りしても取り返せない失態を思い出した事もあったのでしょう。

どこか突っ慳貪な様は、そんな誤魔化しなんてどうでもいいと。

嘘や曖昧をやめてはっきりしてくれ、と言っているようにも見えました。



何だかのっちゃんに珍しくも怒られたような形になって。

マナも言葉を濁しつつも凹んでいるように見えましたが。


それでもきっと彼女は、本当のことを。

ウソをつかずに誤魔化さずに、詳らかにする事はないのでしょう。

どうしようもなく追い込まれるまで、関わらないでくれ、放っておいてくれと曖昧で終わらすのです。



それが、なかなか変えられる事のできない彼女の本質であるというのならば、仕方がないのかもしれませんが。

手前味噌ながら、いつまでもその様子だと、のっちゃんの心を動かす事はできないはずで。



「―――まだはやい、ねむねむ」

「うおっ!? なんだよ、オーヴェ。起きたのか?」

「……すぅすぅ」

「なんだよ、寝言かよ……って、なるかーい! あからさまな擬音つけてんじゃねーっ、いい加減おーきーろーっ!」

「……」


言うべき事だけ言って満足したのか。

オーヴェはそれからいくらルプレが揺すってもくすぐってもデコピンされてもうんともすんとも言わなくなって。



(……そうですか。あるいは、オーヴェの能力ならば)


のっちゃんどころか、ステータスにも認識されないオーヴェとその力。

それでも、私達は同じものであるからして、彼女の力がどういったものであるのか、何となくは分かるのです。


いつだったか、マナがぽつりと漏らした『ルーザー』の救済。

恐らくきっと、マナ自身も救済される側で。

オーヴェの力は、そんな彼女達を救うのっちゃんの力になる。


ならば、ルプレとマインのすべきことはなんなのか。

それはきっと、現在進行形でルプレがやっていることなのでしょう。



(役割分担、ならばわたくしのすべきことは……)


のっちゃんに、オーヴェを認識させるために動くこと。


しかし、本人がまだ早いと言うのならば、まだその時ではないのでしょうが……。




        (第72話につづく)










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