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第七十話:どうしようもない彼は、よく見る夢の逃避行に舞う



以前のように、のっちゃんを運ぶ事ができずに、何だか複雑な表情をしていたマナが印象的ではありましたが。

見た目念動的な力で浮いている気がしなくもないマインを除いて大小性別様々な翼あるものの群れが空を舞う形となりまして。


それが後に、地上から見た人たちには、終末が訪れる際に現れるという天使に見えた、とのことですが。


そう言えばここには、当の天使に会って故郷に帰る手段……異世界へ転移する方法を聞くはずだったはずなのに、流されてそれに従うままでいたことで、いつのまにやら世界の終末を垣間見るといった、展開になるなどとは思いもよらなかったわけですが。



そこで思い立ったのは。

この夢の世界においても、マナやよっし~さんのように、終末を誘おうとするものに立ち向かっていく人がいる一方で、常々のっちゃんが考えているような気がしなくもない、この世界からの脱出を考え、試みようとしている人もいたのではないか、という事でした。



もしかしたら、それがよっし~さんの言っていた天使さんなのでしょうか。

あるいは、あの秘密の11階にいた、シャーさんによく似ていたロボット達の可能性もあります。


この夢の世界でも彼らを探したい所ではありますが。

あくまで脱出が優先というか……これは過去のことで、夢であるはずなのに、繰り返しているはずなのに、

そんな事を進言する暇もないくらいマナが、その問題の場所へと近づく度に真剣になっていて。

のっちゃんもそれに引っ張られる形となったため、そのような考え事を口にできる余裕も機会もありませんでした。



そんな中目指すのは。

マナの言うところの、海の近くの公園……音楽のライブなどもできる、だけど時には大きな波まで押し寄せる事もあるという、そんな場所です。

この世界……夢現にかかわらず滅びへと誘ったと言う『黒い太陽』。

あるいは、太陽ともつかない、人の身にはあまりあるその力は、その公園のすぐ近くの浜辺に落ちたとは、もうその瞬間を何度か繰り返してしまっているらしいマナの弁でしたが。



「……ん? なんだぁ。耳がっ」


それに、初めに気づいたのはルプレでした。

まるで、急激に高い所から低い所へ落ちたかのように。

あるいは、急に低い所から高い所へ飛び上がったかのように。

気圧が変わる……これから向かおうとしているその場所から波状に伝わって来る、大気の震え。



「くっ。しょうがないっていいえばしょうがないんだけど、今回はちょっと遅かったみたいね。今から急いで向かって、決定的なタイミングに間に合うか、微妙なところ……って、のっちゃんっ!?」

「……ぅおおお!?」


そして、マナが厳しい表情でそう呟いた時でした。

目的地の天上に黒いもやが立ち昇り、今まさに何かが生まれそうであると、皆の注目がそれに集まった瞬間でした。

焦るマナの声と、驚き戸惑いながらも、遠ざかっていくのっちゃんの声。



「おおぃっ、何でいきなり急降下すんのさっ?」

「違いますっ、落ちてるんですよっ。目の前のあれで集中力が途切れたのかもっ!」

「もうっ、だからわたしが運ぼうかって言ったのにっ!」



それぞれ三者三様で文句はありましたが。

恐らくは、初見のスキルで持続時間なども含め、空を飛ぶ事に慣れていなかったこともあったのでしょう。

あくまでのっちゃんの使ったスキルは体の一部分を獣化させるものであり、まともに飛べるかどうかは別問題であった可能性もあって。


それを表には出しませんでしたが、結構ぎりぎりの綱渡りで空を飛んでいたのかもしれません。

ルプレにも耳鳴りとして影響があったように、あるいはダメージを知覚できないマインのギフトのデメリットのせいかもしれませんが。



「……【ヴァーレスト・ウィング】っ!」


なんてことを考えている間にも、お構いなしにどんどんと電線の賑わう街下へと落ちていってしまうのっちゃん。

それにすぐさま反応したのはマナで。

目の前の終末よりも優先順位の高いのっちゃんを助けに向かう事にしたようです。


今までの翼あるもののスキル……というか魔法めいたものとは違う、風の属性を持って中空を舞う魔法を唱えたかと思うと、あっという間のスピードでマイン達を置き去りにしてのっちゃんを追いかけていきます。



「ルプレ、わたくしたちも向かいますよ! ご主人様のもとへ一旦戻りましょうっ」

「……そんな簡単に行き来していいものかちょっと疑問だけどな」


確かに言われてみればのっちゃんに何らかの影響がそれこそありそうではありますが。

その方が手っ取り早いからって、その時はお互いあまり深くは考えていませんでした。

それが後々どのような結果をもたらすのか、知る由もないままで……。





 

「うわぁっ! ちょ、ちょっと主さま! あぶねっ、あぶねぇって!」

「……」


などと後付けめいた伏線を貼ろうとしていたマインと、それでも構わずやっぱり眠り続けていたオーヴェを脇目に。

ルプレはそう言いつつもジェットコースターを楽しむのかごとく、のっちゃん視点……スクリーンの前で手に汗握っていました。


マインもすぐさまそれに倣うと、正しくいつかよく見た夢の世界のように、陽の暮れだした夜の街……

何故か電線がクモの巣のようにたくさんはりめぐらされていて、空を飛ぶのも一苦労な状況を、運か何かで奇跡的に回避している様を見守ります。




『のっちゃん! そのスキルはあくまで自身の形状を変化させるだけだから! 他に何か空を飛ぶスキルを併用しないと!』


すると、スクリーン……のっちゃんの視界には映っていない、背後からそんなマナの声が聞こえてきました。


「そうですっ、『飛翔』のスキルがあるじゃないですかっ、ご主人様! 『飛翔』を使ってください!」

「ああ、そっか。結構レベル高かったもんな。でもそもそも、ここで喋って主様に聞こえんのか?」



内なる世界から、『念話』を使えば連絡できるのかどうか。

そう思い立ち、しかし躊躇していると。



ヴァーレストよ、力を貸せっ! 『飛翔』っ!!」


結局その声が届いたのか、そうでないのか。

一度使った時とは違う、名も無き風の力あるものへと呼びかけ。

翠緑の何かを纏ったかと思うと、今まで以上の加速を持ってさらに急降下して。



「ちょ、ちょっと! のっちゃんっ!?」



のっちゃんは、そのまま迷いも躊躇いもなく。


地下鉄らしき入口へと突っ込んでいくのでした……。




      (第71話につづく)








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