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第六十九話:どうしようもない彼は、七色の羽を震わせる



それから。

すぐに、マナの言うところの行きたかった目的地へと向かいました。


廃ショッピングモールの生まれたてといってもいいこの場所の何処へ向かうのかと思ったら、雑談あれど上へ上へと向かっていって……。

どうやらその目的地とは、モールの屋上全てを使って作られているらしい、駐車場のようでした。

 


モール内には人がいなかったのでここももぬけの殻かと思いきや、打ち捨てられたのか、いつか取りに来るのか、数代の車が残っています。

ここにまで来たよっし~さんの『サーティーン』さんのような、移動手段となるものを手に入れ、よっし~さんを探しに行くのでしょうか。

 


とはいえそもそもここはよっし~さんの夢……異世なのですから、よっし~さんを探すというより、この夢の繰り返しから脱して、ここから出る方法を考えなければいけないというか、そもそもここに来た理由……のっちゃんが自身の故郷に帰るための手段を探すためのはずなのですが。


いろいろな事が重なりすぎてのっちゃん自身もいい加減早く帰りたいとは言えなくなってきている様子で。

とにかく、何だかよく分からないけれどやるべきことを一つ一つこなすしかないのかと、何語ることもなくのっちゃんが察したかどうかのタイミングで、まさにそれこそがあたしの役割、出番だとでも言わんばかりに、青……というには少し赤みがかかっている気がしなくもない空広がる向こうへ飛んでいくかのようにルプレが飛び出していきます。



「おお、ここは広いぜぃ、遠くまでよく見えるぞ~っ! なるほど、こっからよっし~さんを探すってわけだな。人もいないし、ごちゃごちゃしてないし、飛んでいくにもわかりやすくていいもんな」

「……いやいや、よく見てくださいよ。360度町並みが広がってるじゃないですか。この中からよっし~さんを探すのは砂漠の中の砂一粒を探すようなものですよ」



ざっくばらんというか大仰というか。

あまりにルプレらしい、表現ではありますが。

流石にそれはないだろうと、残された車を見やっていると、あろうことかそんなルプレではなくマインの言葉を否定したのはマナでした。



「ふふん、ここはルプレちゃんが正解、ってところかしらね。ここから飛んでよっし~さんの所へ向かうわ。異世……夢とはいえ広い広い世界だけど、よっし~さんはダイヤの原石みたいなものだから。そのにじみ出る曲法の力もそうだけど、実は何回かの繰り返すとかである程度の場所はわかっちゃってるのよね」


そう言って、そのまま飛んでいってしまいかねない勢いのルプレを捕まえると。

そのまま屋上のへりからルプレを抱っこしているのとは逆の手である一点を指さしました。




「……海、か? どうやらついさっきまでいたところとは違うように見えるが」

「うん、よくわかったねのっちゃん。同じ日本海側だけどね」

「日本? 日本だったのかここ……」

「今更!? 普通によくあるモール上がってきたじゃん」

「うーん。そうか。マナ達を見ているとそんな気がしなくてな」

「え? なにそれ、ひょっとしてわたし貶されてる?」

「ああ、いや。金髪だしさ。ルプレやマインはその、なんていうかちっさいし」



のっちゃんとマナの、何だか久しぶりな気がしなくもない長めのやり取り。

ルプレはマナに抱かれたまま、マインはのっちゃんの肩口に座したまま、マナの指し示す……なんとか遠目に見える海を見据えました。



「うへえ、結構飛んでくには距離がありそーだな。あれ海なのか? 赤色にキラキラしてるからわかりづらいな」

「そう言えば、まだ夕方じゃなかったよな。海の色もそうだけど、空の色も何だか変じゃないか? なんだか色が、ありえそうでありえないっていうか……」


普通に考えれば現実の世界ではなく夢……異世であるからして。

夕日ではない、赤みがかった血のような色の空だとしてもありえる事だと判断していただけであって、ここに来た瞬間から皆が気づいていた事ではあるのですが。

ありえないと称した通り、のっちゃんはその途切れた言葉の先にある不安を敢えて口にはしませんでした。



「終末が近づいているんだよ。正確には、この繰り返しの夢が終わる……黒い太陽が落ちる瞬間がさ」

「……そうか。どこかでそんなこと聞いた気がするな。世界が終わる時は、あんな色になるんだってな」


その代わりに、まさに幻想めいた、だけど諦念と冷静さがないまぜになった呟きを漏らすマナ。

そしてのっちゃんは、どこかでなどとはぐらかしつつも、本当はどこで聞いたのか分かっている事を口にしていました。



そう言う歌がある、といった言い方をすれば聞こえがいいかもしれませんが。

そう言う『物語』があると知っていたのです。

それが今の今まで思い出せなかったのは、多少なりとも押し付けられた部分もあったのでしょうが……。



「でも……いいえ、だからこそ。わたし達はその終末の原因となる場所へと向かわなくちゃいけないんだよ。……だって、よっし~さんがそこにいるんだから」

「おいおい、まさかその黒い太陽って、よっし~さんが原因なのかよ?」

「まさか。それはないよ、これでももう、この夢を何度も繰り返して見てるんだから」

「それでは何故……よっし~さんはわざわざそんなところに?」


どんでん返しもいいところで、すべての原因はよっし~さんだった……なんて落ちではないのならば。

どうしてよっし~さんはその場へと向かっているのでしょう。


あるいは、落ちたらただでは済まないだろうことが百も承知のその中心地に飛び込んで、どうして現実で無事であったのか。

マナがそうであるように、繰り返しの夢である事が分かっているのに、何故毎回よっし~さんはそこにいるのか。



「わからないよ。それはよっし~さん本人に聞いてみないと。でもきっと、死しても向かわなくちゃいけない、それしか考えられないような、何かがあるんだと思う。……そして、この繰り返しの世界から抜け出すには、少なくともその何かを知らなくちゃいけないんだ」



全ての答えは、結局のところ直接よっし~さんの元へ向かって確かめるしかない。

いつもならそこで、一応でものっちゃんにお伺いを立てるところではあったのですが。

時間がないのか、有無を言わさず、自分に言い聞かせるみたいにそう述べて、純白の翼を生み出すマナ。



「空が終末の色に変わってきてる。もう決定的な瞬間までそんなに時間ないみたい。とにかく急がなくちゃ」


そして。いつぞやのように脇から抱えて飛びましょうかのポーズ。

のっちゃんは、当然ようにその申し出に対し首を縦に振る……はずもなく。



ヴァーレストよ、アーヴァインよ、力を貸せ! 『部分獣化』っ!!」


初めて使うスキルのはずなのに。

以前のある意味辱めが、相当嫌であったのか。


まるで使い慣れきっているスキルのように。

のっちゃんはその細身の背中にルプレと同じような、七色に透ける羽を生み出していて……。




      (第70話につづく)







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