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第六十六話:どうしようもない彼は、意外といい声をしている



思えば、マインの能力により、いわゆる外からの痛みは、ほぼ感じる事がなかったのっちゃん。

死に戻りした後、死の体験の衝撃で声を上げる事はあっても、このような明確な苦鳴は、のっちゃんの中にいる時から考えても初めての事でした。


つまりは、外から何らかの攻撃を受けている、と言う訳ではなく。

内からくるダメージと言う事になるわけで。




「なっ……なんだこれっ、頭が、頭が痛いっっ……っ!」


辺りを七色のもやで包んだまま、膝をつくような形でしゃがみこむのっちゃん。

それにより直ぐに気づけたのは、『空間転移』と言うスキルを使うのに、無理があったという事で。



「……いかんでやんす、マスターっ! それは転移させるものが多ければ多いほど負担がデカくなるでやんすよっ!」

「ぬぅっ、今すぐ離れるとしましょうっ」


のっちゃん一人だけならまだしも、しもべ達全員一緒に転移しようとしてから多大な負荷がかかったのでしょう。

叫び、慌ててのっちゃんから離れるようにして、七色のもやの範囲外にまで飛んでいくシャーさん。

同じく、ヴィロデさんも癒えたどうかも分からない体を必死に跳ねさせて離れていきます。



「ルプレっ! わたくしたちも一旦戻りましょう! ご主人さまの負担を減らすのですっ」

「ああ、そうだなっ。……あっ、でもセーブはどうするっ、しといたほうがいいかっ?」

「二番目の冒険の書は残しておいてくださいっ、ご主人様の考えがあるようですのでっ!」



恐らく、こうして異世界転移してきて初めてに近い明確なダメージであるのに。

しかしのっちゃんはスキルを扱うのをやめようとしません。

一度使ってしまって引っ込みがつかなかったのもあるかもしれませんが。

ならばそのしもべ達は粛々とのっちゃんの意思に従うのみです。


ルプレとマインは、そんな事をいいつつ半ば勝手にこの状況をいわゆる一番目の冒険の書にセーブした後。

もはやこなれてきた感じで、再びアバターを解除し、のっちゃんの中……精神の世界的なものに帰っていきます。




「……主につき従うのもここまでか。何もできなかったのは心苦しいが、どうかご武運をっ」


結局、ここから先はついてはいけないことを、ヴィロデさんも気づいたのでしょう。

これといったお別れの挨拶もできずにいたのは心苦しいですが、恐らくきっとまた会えるはずです。

それが、セーブしたばかりなのが逆にフラグとなって、死に戻りとしてでないことを祈りつつ。



その瞬間、のっちゃんはマインのギフトと同じように七色の粒子の塊となって、丸く大きな扉の方へと向かって行きました。

そして、ぶつかって霧散する事なく、染み込むかのように扉の向こうへと消えていって……。




「む? シャー殿? 何処へっ。はっ、まさか某だけっ……」


その時聞こえてきたのは、シャーさんを探す、戸惑い深いヴィロデさんの声で。

いの一番に離れておきながら、実はシャーさんついてくる気満々だったのでしょうか、なんて思った時には視界は閉ざされていました。

どうやら、『空間転移』は成功したものの、その反動によりのっちゃんは気を失ってしまったようです。


故に、扉の向こうにしっかり転移出来たかどうかも分からず。

その先が、マナやよっし~さんが寝かせられているコールドスリープの装置がたくさん並んでいる場所であるかも定かではなかったわけですが。




「んん? なんだ、地震か? 何だか揺れているような……」

「……」


まるで、気を失ったのっちゃんが抱き抱えられどこかへ運ばれてでもいるかのような感触。

一瞬、外に出た方がいいのかと思いましたが、ルプレも焦った様子はないし、オーヴェも何事もなかったかのようにこんこんと眠り続けています。

取り敢えずは様子を見るべきかと、耳をそば立てるように見えない外を伺っていると……。





「……ふぐぅっ」


状況を明確に把握するよりも早く。

夢のなかで落ちていくかのような声をあげて、のっちゃんが目を覚ましました。


それが分かってすぐに開ける視界。

のっちゃんの目の部分が再びスクリーンと化したことで、慌てて駆け寄るルプレとマイン。



「ん? どこだ、ここ? いつの間にか外に出ちゃったのか? いやでも、外にもこんなに人やくるまはなかったよなぁ」

「ええ、外に出たわけじゃないですね。ここはシェルターの……いわゆる夢を象った異世ですわ」

「なんでそんなこと知って……って、ああ、そうか。おめぇまた、主さまから離れでデバガメしてたな?」

「また、というほど常習ではないと思いますけどね。……とにかくまた外に出ましょう。取りあえずは安全そうですし」



話の進行上……ではなく、のっちゃんがこれから向かうであろう場所に偵察したわけですが。

本来ならギフトの能力的にもそれは自分の……ルプレの役目だろうと主張したいのでしょう。

マインはそれを華麗にスルーして、急激に変わったシチュエーションにまごまご戸惑っているのっちゃんのもとへと向かう事にしました。




「おらぁ、またまた登場だぜーぃっ!」

「失礼します……よっと」


イメージとしては、二人してのっちゃんの肩口に登場するはずだったのですが。

降り立ったその場所が、現実の世界ではなかったせいか、少しずれてしまったようです。

景気のいいルプレの声も、周りの喧騒に紛れてのっちゃんには届いていないようで。



「おい、しっかりしろ! なんでこんなとこで寝てんだおいっ」

「……んんっ。何だか今までで一番いい感じの目覚まし……ってはっ」


のっちゃんは再び顕現した二人から少し離れた所……大きな道路の路側帯のところに寄り添うようにして倒れていた、いつものどピンクなドレスとは趣が全く違う、青い制服を何故か着ているマナを介抱していました。


この事故現場のような状況において、取り立てて怪我などはない割に寝こけていたらしいのは謎ではありますが。

のっちゃんに声をかけられ揺すられる目覚めは、さぞ良いものだったのでしょう。

思っていた以上に元気な様子で、がばっと起き上がり。

しかし何か後ろめたい事でもあるかのようにのっちゃんから離れました。




「……? なんだ、どうした。思ったより元気そうじゃないか」

「って、のっちゃんこそ! 今までどこにいたのよっ」

「話せば長くなるようなならないような、だけど。……まずはここまでのお互いのすり合わせ、かな」


いつもなら離れるどころか、スキあらば率先して近づいて来るのに。

のっちゃんに対して引け目を感じている風なマナでしたが。


のっちゃんは、そんな事は関係ないとばかりに、ある意味らしくない感じで好きなジャンルの物語で言いそうなセリフを口にしていて。


やっぱりその時のドヤ顔は似合わないというか。

もしかして本人はそのつもりはなくて。

あんまりよろしくないですよと、言ったほうがいいのかな、なんて思ったマインがそこにいて……。




     (第67話につづく)







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