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第六十五話:どうしようもない彼は、資格がないなら勝手にお邪魔する事にする


分け身で同一のものである私ですらイラッとくる、ドヤ顔を浮かべているのっちゃん。

そこからまるで、好きなジャンルの物語の『いい』場面であるかのように語りだします。



「……簡単な事だよ。見た感じ開けるための鍵穴とかもないだろう? バカ正直に開けてもらう必要はないんだ。そもそも、おれ達ってこの中に入る資格、ないみたいだしな」



つまるところ、この先へ向かうための方法どころか資格もないのだから、ボスであったフィナルさんにその方法を聞いたり、倒す事で扉が開く事を期待してはいけない、と言う事なのでしょう。



「あー。そういやそうだったな。マナ達のいるシェルター? には入れないから今ここにいるんだもんなぁ」

「……ふむ。資格、でございまするか。扉や階段を守る事ばかり注視していたゆえ、お恥ずかしながら考えた事もありませんでしたな」



救援に向かったはいいものの矮小な身体で手当をするどころか、回復魔法的な物の一つも使えないルプレでありましたが。

その気持ちだけでも十分であったのか、元より回復、再生能力に優れていたらしく、ヴィロデさんの見た目だけなら傷も塞がって元気そうに見えました。

とはいえ結局のっちゃんのある意味デタラメなやり方で切り抜けた事で、役に立てなかったと意気消沈しているのか、その声色にはあまり元気がなさそうに思えましたが……。



のっちゃんの言う通り、あのまままともにフィナルさんに対して、うまくいって撃退できたとしても、資格がなくては入れないからここにいるのっちゃんたちが、素直に扉を開けてもらえる展開になるのか、怪しかったのは確かで。




「ほうほう、っていうとのっちゃんマスターにはそんな常識を打ち破って中に入る術があるって事でやんすね?」

「また、変な呼び方を。まぁ、もう今更だけど。……非常識かどうかは知らんけど、一度見た事があるからな。ああいや、その時あんたたちはいなかったけどさ」


見た事がある=その扉の向こうへ行く方法を、のっちゃんは覚えているという事なのでしょう。

そこまで聞いて、ルプレとマイン……正確にはその時はまだお互い顕現してはいませんでしたが、のっちゃんの言う見たものとは、おそらくマナの瞬間移動の魔法の事を指しているのに気づきました。



のっちゃんが見て体験して覚えたスキル、『空間転移』。

先程ステータスを確認したら、使っていないはずなのにレベルが上がっていましたが。

恐らく『ランダム転移』と関連し、繋がりがあって、横隔膜の間での一幕を繰り返しているうちにそれが経験となっていたのかもしれません。



「あー。わかったぞ、マナが使ってた瞬間移動の魔法だろ? りーりーなんちゃらってやつ。でも大丈夫なのか主さま? いきなりぶっつけでいけそうなのか? 主さまの中から見てたけど、それ使った時マナにやつ結構きつそうだったぜ?」

「……む。言われてみればそうだったか。冷静に考えれば凄いスキル? 魔法だものな。なんの代価もなしに使えるわけじゃないか」



マナは隠しているつもりだったのでしょうが。

のっちゃんにすら、気づかれているのだから、その魔法の負荷というかのっちゃんの言う代価は相当なものなのでしょう。


のっちゃんがラーニングし覚えているのはあくまでオリジナルとは程遠い模倣品ではありますが。

そのスキルを使うにあたって、コストがかかるのは確かなのでしょう。


のっちゃんの場合、精神力……いわゆるМPが人より多いので今までスキルを使ってきても疲弊しているイメージはありませんでしたが。

魂を削るほどに疲労困憊に見えたマナを見ていると、他の、例えば生命力的な何かを吸い取られるような気がしてなりません。



「その代価とやら、某が受ける事ができればよいのだが……」

「おいおい、何言っちゃってんのさ。そんなの無理に決まってるだろ? そんな事ができるならとっくにあたしがやってるって」


結果的にルプレが脅すような形になった事で、のっちゃんが二の足を踏む形になりましたが。

自分で振っておいてヴィロデさんと、自己犠牲も甚だしいというか、狙っているのかそうでないのか、のっちゃんを煽るかのようなやりとりをしています。


それに、シャーさんがおいらには真似できないでやんすと呆れた様子でいる中。

くしくも家族的な間柄に対しては弱いのっちゃんの背中を押す形になったようで。

勝手に自分のために犠牲になられたらたまらない、とばかりにのっちゃんは前に出ました。




目前には、門番の主のいない、大きな大きな丸扉。

確かにその大きさにあうようなカギ穴などは見当たりません。

その代わりに、下に降ろして開けるタイプにドアノブが付いているのがわかります。

手始めに、念のためにとばかりにのっちゃんが無造作に手をかけますが、軋む音を立てて下がるもののそれだけで。

いかにも分厚そうな扉には全く変化らしい変化はありません。


もしかしたら、そこからこの扉に合いそうなバカ力があれば開いたのかもしれませんが。

生憎にもここまでで、そのようなスキルをのっちゃんが覚える機会はなかったわけで。

腹をくくるしかないかと、一息吐いて……のっちゃんは未だになんだか似合わない命令を口にしました。



「……リヴァよ、その力を全力で貸せ! 『空間転移』っ!」


マナのオリジナルであるその魔法は。

本来、三種類の属性が混じりあったかなり高度なもののようなのですが。

そんな事は知る由もないとうか、どうも先ほどから見ていると12種あるらしいうちの時属性とやらにのっちゃんは相性がいいようです。


言われてみればルプレも属性分けするのなら、時になると思うのでさもありなんといったところでしょうか。

好き嫌いせず何でも覚えてしまっているように見せかけて、何かしら法則があるのがわかります。




のっちゃんが景気よく、半ばやけっぱちで轟かせる力あるその声。

案の定すぐさま応え、のっちゃんの全身を……そこからルプレやマインだけでなく、シャーさんやヴィロデさんまで、七色の光が包み出しました。

やはり、その虹色こそが時属性の色、なのでしょう。


そしてきっと。

その光に包まれたものを、目の前にある分厚い鉄扉の向こうへと運んでくれるのでしょう。

期待と不安半々の中、その行く末を見守っていると。



「ぐぉっ!? ぐわああああぁっ!!」


しかし返ってきたのは。

のっちゃんの、冗談にもならない、まさに断末魔のような悲鳴で……。




    (第66話につづく)









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