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第六話:どうしようもない彼は浦島太郎にはならない



この世界の事とのっちゃんの身に秘められしギフトとスキル。

それも含めて今いる世界のルールなので、宣言通りマナは一から説明したのですが。


だんだんおざなりになっていくのっちゃんの相槌に、これは口で説明しただけでは埓があかないという結論に至りました。

 

故に、一応説明するけどさりげなく強引にやるべき方向へと誘導させる事にしたようです。

本来ならば、転生者の自主性に任せるべきなのですが、任せた結果が数え切れないほどの死に戻りであるので仕方がありません。

 


「『星を撒くもの(スターダスター・マイン)』の能力はパッシブ……のっちゃんが意識なくても発動するからとりあえずほっておいてもいいわ。それより、【現に戯れしもの(リアル・プレイヤー)】の方ね。わたしの持ってるスキル、【鑑定】の上位進化型だと思うのだけど……ここに浮かんでる青い透き通ったウィンドゥ、見えない?」



死に戻りのやり直し地点。

所謂スタート地点に浮かぶそれなりに大きなウィンドウ。

マナはのっちゃんをその真向かい正面に立たせ、自身はウィンドウの背後に回り、ウィンドウの上縁から顔を出すように跳ねてみせました。


ウィンドウには最早お馴染みの、『この場から移動しますか。はい、いいえ』の文字。

もう既にそれなりの時間ここに留まっているため、矢印カーソルはいいえの部分に留まっています。



「いや……ま、マナさんしか見えないけど」

「そんな事ないって。これはオレさまの能力だって、もっと強く激しく思ってみて。自覚すれば見えてくるから」

 


マナが、その名前しか名乗らなかったせいで、名前を呼ぶ羽目になってしまったのっちゃん。

気恥ずかしいのと、ぴょんぴょん飛び跳ねる彼女のスカートが捲れ上がりそうで(またしてもマナにその自覚はない)、いろんな意味で直視できないようでした。


何度も体験した『星を撒くもの(スターダスター・マイン)』とは違い、そもそも自身にそんなファンタジーな能力があるなどと到底信じられないのっちゃんには、それを目視するのにはきっかけが必要なので、仕方ないと言えば仕方がないのかもしれませんが。

 


「うーん。どうしようかな。あ、そうだ。ステータス開いてみて。自分のなら『鑑定』なくても開けるはずだから。ステータス! って叫べば出てくるはず」

「え、えっと……」


しかし、それすら常識じゃないよ、とばかりに否定したそうな雰囲気を漂わせるのっちゃん。

 

「大丈夫だいじょぶ。おれちゅーにって凹むのは最初だけだから~。一度体験しちゃえばラクになるよ」


そんなのっちゃんの行動原理を理解していたマナは、抱きつかんばかりの勢いでずずいっとのっちゃんに迫ります。



「わ、わかった。分かったって! す……ステータスっ」


傍から見ればのっちゃんの扱い方のなんと分かりやすい事か。

ですが、そう言った事に自覚のないマナだからこそ、とも言えるのかもしれません。


いろんな意味で顔を赤くしながら、ステータスとなんとか諳んじると。

初めてのっちゃんにも分かるように、ブゥンといった音を立て、目前に透き通った青いウィンドウが現れました。



「うぉっ、うおあっ!?」


案の定と言うか、期待を裏切らないと言うか、マナものっちゃんの行動を読んでいたのでしょう。

現れたウィンドウに対し、尻餅をつく形で後退りをして逃げようとするのっちゃんの背中には、既にマナが待ち構えていました。

 


「逃げても無駄だよー。一度出したらその人にしばらくついていくから」

「あ……うん」


これ以上話を逸らされてたまるものかと、ニコニコのマナに、諦めたようにのっちゃんは頷いて。

体育座りのまま、近いマナから視線を外す形でステータスウィンドウを見上げます。

 



「本当だ。おれの名前、書いてある……」


のっちゃん自身には隠す事もないのでその本名が記され、示されている事でしょう。

取り敢えず表示されたソレが自分のものだと、納得いったかどうかは分かりませんが理解はしてくれたようです。


ちなみに、初めて目にするのっちゃんは気づいていませんが。

幾数回の死に戻りと言うか、それまでに至る経験などはお約束でしっかり蓄積されていますので、パラメーターが上昇しています。


 

《  名前:『のっちゃん』

   職業:なし(異世界人)

   状態:動揺、混乱

   生命力:78/78(+15)

   精神力:103/608(+8)

   攻撃力:13/13(+6)

   守備力:8/8(+4)

   敏捷力:130/130(+14)

   知力:20/20(+10)

   運力:20/20(+10)


   取得スキル

   

   完全言語把握能力(レベル∞)

   身体能力向上(レベル1)

   ステータス鑑定(レベル2)new!

   逃げ足(レベル3)

   挑発(レベル9)off

   身代わり(レベル1)new!



   取得ギフト


  『星を撒くもの(スターダスター・マイン』

  『現に戯れしもの(リアル・プレイヤー)』

  『#$$レ+*‘レ&#|¥ラ¥(~*#グ・%%ル&’#“ダ&=+*ー)』    》




攻守は相変わらず普通の人レベルですが、生命力や敏捷力はある程度、精神力に至っては目を見張る程に上昇しています。


何度となく死に戻りした事で精神力が鍛えられた、とも言えますが。

精神力はそもそもスキルやギフトを扱うのに必要な値ですので、ギフトの二つや、『挑発』スキルを使用し続けた事で経験を得て成長したのでしょう。


ステータス閲覧を自身で自覚し、鑑定にレベルアップしたのはともかくとして。

いつの間にやら『身代わり』なんてスキルも覚えていますが、当の『挑発』スキルを含め、現在はオフになっています。


恐らく、マナが近くにいる=のっちゃんが一人ではないため、この世界の住人達に出会うや否や攻撃されていた原因が封じられているのでしょう。




「色々解説したいとこではあるけど、その都度わかんなかったら聞いてくれればいいから。それより何より、このギフトの『現に戯れしもの(リアル・プレイヤー)』のとこ、触れてみて。タップする感じで」

「お、おう」


背中越しのマナの言葉に、のっちゃんはされるがまま頷き、恐る恐る指を伸ばします。

透き通った見た目通り指は青を突き抜けましたが、それでもなんとなく手応えがあったのでしょう。

指の腹で文字を叩くと、ブオンとそれらしい効果音がして、新たなウィンドウが現れました。

 


「お、もう一つ出たぞ」

「うん。【現に戯れしもの(リアル・プレイヤー)】の詳細だね」




《  【現に戯れしもの(リアル・プレイヤー)】

   ギフトレベル2

   属性:『時』

   

   所持者の運命……未来を限定し狭め、選択肢により道行を示す事のできるギフト。

   更に『目標』を設定する事で正しい選択をすれば、必ずその目標が達成できる。

   ただし、誤った選択をするとゲームオーバー……即ち死となるため、

   あまりおすすめできるギフトとは言えない。

   博打要素の高いギフト。

   尚、ギフト=ウィンドウが所有者を何らかの理由でロストした時のみ、

   ウィンドウに記憶し、指定されたセーブポイントに戻される。

   音声ヘルプつきのため、レベルは2とする。    》




 流石に転生の神様が適当に決めた事の弊害か、中々パンチの効いたギフトのようです。 

 でもそれも、もう一つのギフト『星を撒くもの(スターダスター・マイン』を考えなければの話です。

 もしかしたら、適当に見せかけてしっかり考えて与えられたものなのかもしれません。

 前言撤回ってやつですね。


 


 「セーブポイントは……どうやらのっちゃんが世界において最初に降り立った場所みたいね。変更できるとは思うんだけど……あ、そうだ。この音声ヘルプ機能、オンにしてみない?」

 「ん、分かった」


 一人でなく、誰かがいれば素直に言う事を聞いて行動するのが得意なのっちゃん。

 ある程度マナが信頼されてきた、と言うのもあるでしょうが。

 

 今まで手間取っていたのが嘘のような行動力です。

 もはや、慣れた手つきで『音声ヘルプ』をタップします。

 

 『ON』にしますかと一文出て、迷わず更にタップ。

 するとピンポーンとチャイムのような小気味いい音がして。


「……ギフト名、リアル・プレイヤー。音声認識開始しマス。ナビゲーターの『ルプレ』デス。

ギフトNo.334、【現に戯れるもの(リアル・プレイヤー)】の概要を説明しマスカ?」



機械らしい語尾がにじみ出ていますか、それは甲高い少女の声でした。

お約束でのっちゃんがびくりと跳ね上がり身体が逃走の形を取ろうとするのを、さりげなく阻止しつつも、マナは内心でイメージしていた声と違うとがっかりしていました。


まぁ、のっちゃんにしてみれば甘ったるい声のお兄さんよりこっちの方が聴きやすいだろう、なんて思ってもいましたが。



「取り敢えず、細かいことは後々でいいんじゃないかな。『いいえ』で」

「えっと……『いいえ』、と」



一度流れに乗ってしまえばこの通り。

のっちゃんは実に扱いやすく動いてくれます。

何が何でもいいなりになってしまうのは問題と言うか、考えなければならない事ですが。

指摘したらしたでややこしい事になるのは分かりきっていたので、マナは流す事にしたようです。




「承知しまシタ。それでは『目標』を設定してくだサイ」

「目標……」

「うん。こうして異世界に飛ばされちゃってのっちゃんが最終的にどうしたいのかを決めてくれればいいと思うわ」



打って変わってのっちゃんに全てを任せているようですが、マナとしてはそれに対しのっちゃんが口にするだろう事は分かりきっていました。


剣と魔法とエトセトラを駆使して冒険に勤しみ、カワイイ女の子達を仲良くなってモテモテになりたい。

そんな主人公らしい発言をわずかでも期待しなかったといえば嘘になるでしょうが。


そこでそんな発言ができるなら、そもそも自分がこうしてここにいるはずがないとマナは確信していた、とも言えます。


 


「……帰る。帰りたいよ、元の世界に」

「そうでなくっちゃ、ね」

「了承いたしマシタ。目標決定に辺り、運命調整を実施いたしマス。少々お待ちくだサイ」 


どうやら、『ルプレ』はのっちゃんの声だけを認識し、取捨選択をするらしく。

結果的にマナと同じ相槌を打つ形で、何やら処理を始めます。



元の世界では一度肉体を失っているから、全く同じようには戻れない、とか。

異世界を旅する英雄候補達において、それが最難関の目標であるとか。

マナは敢えて口にはしませんでした。


死に戻りを続けられる限り、【現に戯れるもの(リアル・プレイヤー)】の特性上、いつかはその目標が叶うのは確かであるし、その方がのっちゃんと長くいられるといった打算が働いたからです。



「えと、本当に? おれ、戻れるのか?」

「今すぐってわけにはいかないだろうけどね~。まぁ、のっちゃんの故郷とこの世界の時間軸って一緒じゃないから、浦島太郎状態にはならないと思うよ。海に潜ったのに山で目覚める、何て事にはならないのです。だからわたしとしてはこの世界を楽しんじゃうのもありだと思うよ」

「そ、そうか……」



ここに来て、きっと初めての、心底安堵したようなのっちゃんの呟き。

もっと早くこの事を説明してあげればよかったと考えかけたマナでしたが。

そもそも聞く耳持ってなかったのはのっちゃんで、その割には早かった方じゃないのと自己完結していて。



「……目標設定、完了いたしました。これより目標に向けてのロールプレイを開始いたしマス」


チリンと、どこからともなく始まりの鐘の音がしてステータスウィンドウが閉じ、別のウィンドウが現れます。

なんとはなしに顔を見合わせつつそちらに視線を向けると、そこには白字で二つの選択しが浮かび上がっていました。

 


《  1、巨人の眠りし学校跡地へと向かう。 2、黒い太陽の落ちし浜辺に向かう  》

 

 


「どうすればいいのか、さっぱりわからん」

「……あはは」



それには流石にマナも、苦笑して同意するしかなくて……。



 

        (第7話につづく)







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