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第五十八話:どうしようもない彼は緑の粘膜をまとい、紅の王と化す




「ィロロロロロ……」

「ふむ。ああ、そうですか。それは……なんて言えばいいのか、大変でしたね」



この最下層のボス、左足のヴィロデさん。

ある意味始まりの一歩となる、激しいバトルが繰り広げられ、死に戻りを繰り返していくうちに大いに成長し人間としても大きくなる。


ついさっきまでやろうとしてもできていなかった、のっちゃんが覚えたスキル諸々の使いようと熟練度アップに勤しむ機会がやってきたと、正直期待していたところがあったのは否定できませんが。


 


長年……それこそ、本来の役目も役割も忘却し開放を願うくらい疲弊してしまったらしい門番ゲートキーパーのヴィロデさん。

まさに、天使の遊戯に巻き込まれてしまった哀れな被害者の訴えを聞いて、気の利いた返す言葉も浮かばず申し訳なさそうな顔をするしかないのっちゃんの丸まった背中は、少なからず社会を経験している様をまざまざと見せつけているようで。

 


自身で口にするのもなんですが、現実から程遠いファンタジーの世界の住人である人形サイズの三体は。

言葉が通じない事もあって、そんなのっちゃんとヴィロデさんのやりとりを、そっと見守る事しかできなかったわけですが。




「ィロロロロロッ……」

「あ、はい。ええと、触れればいいんですか? 場所はどこでも? あ、ガラスの部分ですね、わかりました」

(……なんていうか、主さまらしくないというか、こんな丁寧なべしゃりもできるんだなぁ)

(ははは、おいらが言うのもなんでやんすけど、そういうまともな対応ができる相手が今までいなかったんじゃないのでやんすかね)

(何気にさらりと毒を吐きますね。……というか、勝手に私達の念話グループラインに入ってこないでくださいよ)


私達の念話に参加できる……いつの間にやらのっちゃんとそのしもべたちの一員と化してしまっているシャーさん。

気づけばそんな結構キツめのセリフをぶっこんできますが、ルプレもマインも言い得て妙だとぐうの音も出ませんでした。


言われてみれば確かに、ああしてまともに? 対応していたのは、喜望ビルの門番さんの一太さんくらいだったと思い出したからです。



(ちげぇし、少なくともあたしはまともだし。主さまが女の子とまともに話せないだけだし)



それでも、念話でぶちぶちとルプレがそんな文句を漏らしている中。

のっちゃんは、背後でそんなやりとりをしている事など(のっちゃんチームの念話なので届いてはいるはずなのですが)どこ吹く風で。


緑色の何とも言えない水のような物体に浸かり浮かんでいるヴィロデさんとのやりとりというか交渉めいたものが一段落したのか、なんのためらいもなく、本来はシャーさん曰くこの階層のボス的存在であるヴィロデさんとの戦いの口火を切るための行動に出ました。



それすなわち、その天井まで続く水槽から、触れる事でヴィロデさんを解き放つ事。

それはおそらく、ここから上へ行くために、必ずしもヴィロデさんと戦う選択をしなくてもいいという仕様だったのでしょうが。



もう戦意はない……戦わなくてもいいらしい事を鵜呑みにしたというか、信じきっている風ののっちゃんが、ガラスに触れた瞬間。




「うおぉぉぉっ!?」


力も加わっていない様子なのに、あっさり罅が蜘蛛の巣のように入ったかと思うと。

中にたゆたう緑色の水が決壊して流れ出るダムのごとき勢いでのっちゃんに襲いかかりました。




「うぇっ、こっちくるぞっ」

「緊急退避、でやんすっ」

「よく考えれば浮かぶ光景ではあります、ねっ」


スキルもギフトも使う間もなく。

なすすべなく、緑色の粘土の高い濁流にのまれ流されていくのっちゃん。


ちゃっかりそれぞれの飛行手段で回避していく、しもべかどうかあやしくなってきた賑やかし達。

中々の勢いで流されくるくる回転しながら赤黒い壁に叩きつけられているのっちゃんのその様はたいへんダイナミックで面白かったです。


……なんてしもべにあるまじきことを考えていられているのも、星を撒きながらも流されていったのっちゃんにダメージらしきダメージはなく、そもそもその濁流がのっちゃんを害するものではなく、そういう演出というか仕様だからと分かっていたのもありますが。


ルプレですらもそんなのっちゃんの方へと向かわなかったのは、

のっちゃんほど、緑の水が抜けてぬらりと飛び出してくるヴィロデさんの事を信じられず、警戒していたというのもあるでしょう。



実際のところそんな意図があったかどうかはわかりませんが。

シャーさんは、流されてぶつかって勢いよく上にかち上げられているのっちゃんを守るみたいにのっちゃんの前に。

語らずともルプレとマインは、万が一のためにと、戦う術もないくせにヴィロデさんの前にと立ちはだかります。



「……」

「……なんだぁ、やっぱやるかっ」


ルプレ曰く、縦に割れた猫のような緑色の瞳、赤い下をのぞかせる口。

本来あるはずのない場所についているそれは、相変わらず語らずともボスらしい威圧感というか、それに気圧されてシャドウボクシングなんぞしているルプレの気持ちも分からなくもありませんでしたが。



「……ほう、新たなる主は中々に気勢の良い配下を持っておるようだな。紅袴・左足のヴィロデと申す。これ以降、後輩としてご指導ご鞭撻の程宜しくお頼み申すぞ」




どうやら、先程までの言葉の通じなかった鳴き声のようなものは。

あの粘土の高い水槽の中にいたからが故の結果のようで。


……であるならば、一体のっちゃんは何を聞いて、何を受け取っていたのでしょうか。

もしかして、わからないけどノリや思い込みで会話をしていたのでしょうか。


一瞬、変な沈黙が訪れて。

名乗ったヴィロデさんに挨拶を返す前に、皆が自然と緑の水まみれで地べたに大の字で座ったまま気絶しているのっちゃんに注目していて。



「ふむ、主は紅の種としては、まっことけったいな立ち姿をしておる。ここまで人に近いのは初めて見るな」


どうやら、その緑の粘土の高いやつまみれの艶姿が、同種に見えるようで。

その柵から解き放つ切っ掛けを作ってくれたことで、主と決めたとは……後に聞いた事ではありますが。



「なーんか、ますますめんよーな集団になっていくなぁ」



あなたがそれを言うのですか、とは。

同じ穴の狢であるがゆえに、ブーメランとして返ってきそうで。

口にはしませんでしたけれど……。




        (第59話につづく)











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