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第五十六話:どうしようもない彼は大岩に追いかけられてもおかしくなかった




「なんてーか、昔懐かしのダンジョンって感じだよなー。かわりばえしないし、おんなじグラフィック使ってる感じ?」

「お、海外のダンジョンゲーでやんすか。通でやんすね。あれはあれで、モンスターの強さの調整とかされてなくてかえってリアル感があったりするのでやんすよねぇ」



もともと人見知りで、知らない人に話しかけるなんて恐れ多いと思っているのっちゃんと。

地の文になりきって第三者視点……カメラをもって雲に乗っているひとになりたいマインは。

基本的に雑談というか道中の慰めになるような会話ややり取りができるタイプではありません。

 


であるからして、同じ穴の狢であるはずのルプレもそうなってもおかしくないのですが。

そう言うポジションであるというか、無理してコミュニケーションに積極的でいるうちに、無理が無理でなくなってしまったのでしょう。


ある意味、のっちゃんの目標たる一面であるともいえます。

そんなルプレに、最近とみに羨ましいというか、憧れをもって見守っていると。

道行きが苦痛にならないように、何かを喋っていたくて仕方ないシャーさんと、何やらゲームの話をして盛り上がっていました。



「ああ、サウンドノベルでもあったよな。ずっとおんなじ景色でごまかしてるやつ」

「おお、初期のでやんすかね。でもあれ、実際にある景色だったりして、意外と正しい描写だったりするのでやんすよ」

「ああ、ほんとか? あの真っ直ぐで細くてきっちり並んでる林のやつだぞ?」

「ほんとでやんす。黒の太陽の落ちた場所から遠いから、この世界でもまだきっと無事でやんすよ、いつか見に行ける日が来ればいいでやんすねぇ」

 


一体どこからそんな情報を手にしたのか。

というより、忘れてしまっているだけで、きっとのっちゃんからなのでしょうが。

マインからするとちんぷんかんぷんなやりとりで何だか随分仲良い様子でしみじみしています。



そんな中マインは、何気なく紡がれるシャーさんの言葉に深読みというか、小出しにしてくれるシャーさんの事について考えていました。


シャーさんはよっし~さんの事を知っていて、よっし~さんも知っているようだったので、かつて仲間に近いポジションにいたのは正しいのでしょうが。

言葉の端々にマインに近いというか、自身を第三者……この舞台の部外者扱いしているのを感じていました。


『この世界』という言葉一つとっても、次元に違う所というか、俯瞰して見ている感じがしてなりません。



それで思い出すのは、やっぱりあの喜望ビル秘密の地下11階の、色違い……青色のロボットさんたちでした。

赤色のシャーさんも含めて、いかにもこの世界のファミリアなる存在に相応しい立ち振る舞いにある彼ら。


すなわち、マインやルプレにのっちゃんがいるように。

シャーさんたちにも主たるべき存在がいる、と言う事なのでしょう。

 


マインとしては、彼らの主に会えるものなら会うべきであると予感めいたものを覚えていました。

同じ、第三者視点を気取る立場であるからして、この世界の編纂……結末からの展望を知っているような気がしたからです。

 

そして、おそらくは。

その主こそが、急に変わってみせたシャーさんそのもの、なのでしょう。

故にマインは、そんなシャーさんに対しどう切り出すべきかを考えていたため、ルプレに彼とのやり取りを任せていた(言い訳)なのですが。

 



「おっ。ともったら急にようすが変わったな。なんだかちょっと広くなってるか? ほら、高速の車の避難所みたいな」

「むむっ、まさに言いえて妙、でやんすね。ここはあれでやんす。この通りに対して、罠やモンスターに対しての避難所でやんすね」


そんな風にのっちゃんのしもべらしく言いたい事も言えずに相変わらずまごまごしていると。

代わり映えせず、今のところシャーさんの言う罠やモンスターらしきものも現れない中でのちょっとした変化があったようです。


二人のやりとりに促されてのっちゃんの首越しから伺うと、確かに広がる側道のごとくスペースがあるのがわかりました。

そろそろこの階層の終わりが近いのは確かなのでしょうが、何気にシャーさんが意味深長なことを口にしたのに気づきます。



「……何だ、つまりここにへばりつかなきゃいけないくらいのがこの先にでもいるって事か?」

「正解、でやんす。ここの機能が働いているのならば、上へ向かうための障害……門番的ポジションのモンスターがいるはずでやんすね」


シャーさんとしては、予め警戒を促す算段であったのでしょう。

案の定それに食いついて、のっちゃんがそう問いかけた事で。

おそらくが頭に付く感じでシャーさんがそれなのに確信を持てない様子でそう呟きます。



「何だかあまり自信がなさそうですけど、ここに来たのは結構前なのですか?」

「うーん。実のところこの時代でこの場所に直接来るのは初めてだったりするのでやんすよね。

海の中大分下にあるとはいえ、黒い太陽の被害がどこまで及んでるのかも不透明でやんすし、とにもかくにも行ってみてといった感じでやんすか」

「おいおい、そんな様子で本当に大丈夫なんだろうな? マナやよっし~さん達はよう」

「ああ、それに関してははっきり大丈夫だといえるでやんすよ。何故ならば選ばれし彼女たちが向かった避難所は、ここや外とは隔離された世界……『異世』の中でやんすからね」


何でも詳しく聞いた事によると、その異世とは、正に空間ごと違う夢の世界のような場所で。

こことその異世の間には、大気すらない時の狭間があるらしく。

あのスクリーンの入口から侵入した際、ルプレとマインが飛ばされたのはその隙間だったのではないか、とのことで。

何でそんな事になったのかは、わからないとのことでしたが……。




「夢の世界……か。おれとしてはここもそう変わりはしないが、そこへ行く方法ってのが……」

「この『プレサイド』の横隔膜がある場所からぴょーんと飛んでいく感じでやんすね。なんでも、もともとはここを作ったお父さんが子供達に為に作った施設らしくて、そう言うエンターテイメントな部分も重視したかったみたいでやんす」


それを体験する羽目になる赤の他人はたまったものじゃないとはお互い思っているのでしょうが。

野暮であるので口にはせず。

その代わりに、少しばかり先行していたルプレが何かを発見したようで、あっと声を上げていました。



そんな期待に応えるように。

のっちゃんはすぐさまルプレに向かっていって……。





         (第57話につづく)









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