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第五十四話:どうしようもない彼は超高層から落ちても砕けない



「……っ!」


大分暗闇に慣れてきたとはいえ、いまだ距離感の掴めないがらんどう(な気がする)の落とし穴。

とはいえ、そろそろ終わりが見えてくると察し、頭頂の入口の時と同じくして【飛翔】のスキルを使ったまでは良かったのですが。



発動した瞬間かかるは、今までどれだけのスピードで落ちていたかが忍ばれる、大気の壁にぶつかったかのような制動。

その勢いでのっちゃんからいくつもの星が舞って上空に消えて行きましたが、暗闇のため色は見えませんでした。


のっちゃん自身それなりのダメージはあったようなのですが、マインのギフトの恩恵もあって食いしばった歯から呼気が漏れる程度ですんだようです。



「……がっはっ」

「緊急着陸ッ、緊急着陸ッ!!」

『どぅわあっ!? 思ったより地面すぐだったぁ!』

『……っ!』



しかし、急制動の圧を受けたのは一瞬でした。

想定よりも早く、のっちゃんの視点を介して赤黒い終着点……地面がぐんぐん迫ってきます。


それが目に見えてわかって怖かったのか、のっちゃんの内なる世界のすぐそばでルプレが。

それこそスクリーンのような視点の下方に赤い頭のつるつるした部分が見切れている紅のロボットさんが何だか同じように声をあげていました。


事実、スキル発動が少々遅かったらしくかなりの衝撃で着地する形となり、普通ならばそのまま死に戻りしてもおかしくない激しい揺れが襲いました。 


のっちゃんの内なる世界にいる以上、落下の痛みに襲われているだろうのっちゃんには申し訳ないのですが。

死に戻りを発動するための安全は確保されているため、それならそれで死に戻るだけではあるのですが。

どうしようもなく死に戻りを繰り返すのを、甘んじて受け入れるかはまた別問題です。


マインは、その衝撃にあわせて自らのギフト【スターダスター・マイン】を発動しました。

本来意識してのものではなく、パッシブ(常時発動)のギフトではありますが。

意識する事で効果を早めたり強くなったりすればいいなぁといった咄嗟の思考の結果でした。



期せずして、のっちゃんと同じように口元を軋ませての無詠唱といってもいい発動。

のっちゃんに与えるダメージをほぼゼロにするかわりに、砂糖細工のごとく守備力を下げ、際限なく細かくなる事で死に戻り……ルプレのギフト、【リアル・プレイヤー】を誘発させるものですが。



「緊急着リィッ……!」

『くっ、ルプレっ、一旦外に出ましょうっ』

『うぇっ、吐きそうだっ。し、信じらんねぇ。オーヴェのやつこの揺れでも安眠してやがるっ』



のっちゃんの腕に抱かれていた紅のロボットさんは、落下の衝撃に耐えられなかったのか、のっちゃんの腕から放り出され飛んでいくのがスクリーンの向こうに見えます。


そんな中、のっちゃんの内なる世界でシェイクされてあちこちに打ち付けてばらばらになる前にと、ルプレとマインは早々脱出を決意しました。


ルプレの言うように、菫色ふわふわ髪のオーヴェはこんな危機的状況もなんのその、いえ……少しばかり布団の奥に潜り込んでいるような気もしますが、どさくさに紛れて覚醒し顕在化する展開にはなりそうもありませんでした。


そんなオーヴェを差し置いて脱出を試みたのは、のっちゃんの視界……思えば紅のロボットさんの影響なのか、いつの間にか用意されていたスクリーンがぐにゃりと歪み上下から閉じるかのように消えてしまった事もありました。


外の様子が伺えない……恐らくは落下の衝撃でのっちゃんが目を閉じたか、意識を飛ばしてしまったからなのでしょう。



蒙昧なる巨人のがらんどう、その終着点。

そこに何があるのかも分からず、危険がないともいいきれなかったのですが。

視界塞がれ様子を伺えなくなった事で、不安になってしまったというのもあるでしょう。



そんなわけで、戻ったと思ったらあっさりと出てくる事になったマインでありますが。

心配していた覆う暗闇は思っていた以上に少なく、赤黒い、わずかばかり湿ったぐねぐねの地面に横たわる(見た目のせいでわかりにくいのですが、仄赤い瞳がチカチカ明滅しているのでおそらく無事ではあるのでしょう)紅のロボットさんと、光源はどこかと早くも虹色撒く羽でフラフラと飛び上がるルプレの姿が見えました。


のっちゃんは無事でしょうか。

そう思ってはっとなって後ろを振り向くと、あろう事かマインはのっちゃんのお腹の上に立っていたようで。

すみませんとのっちゃんがリアクションするよりも早く謝罪を述べて羽もないのに浮かぶ事で失礼を回避します。



「……」

「気を失ってはいますが、なんとか無事ですか。……ぶっつけでしたけどうまくいってよかったです」


のっちゃんは、落下の衝撃により全身細かく細かく罅が入っている状態で、頭を赤みかかった壁におく形で座っていました。


少しばかり衝撃を加えればまさにバラバラになってもおかしくない状況です。

しかしよくよく見るとそのひびから血などは出ておらず、逆に少しずつひびが重なりあって融合しているのがわかります。



いつもはギフトによりばらばらになったらすぐにルプレのギフトで死に戻りしていたため気づきませんでしたが。

どうやら【スターダスター・マイン】にはダメージを拡散して分裂するだけでなく、その後修復していく力もあるようです。


これなら、しばらくすればのっちゃんは回復し目を覚ますでしょう。

ここに来てまたしてもどうしようもない死に戻りを回避できた。

はたしてそれが、のっちゃんにとって良かったのかどうかはまだわかりませんが。


七色の星をきらきらと撒きながら、ある意味人ならざるのっちゃんの変容を見守っていると。

ルプレは忙しなく動き回って辺りを確認した後、律儀にも紅のロボットさんをぺちぺち叩いて気付けして。二人? で連れ立ってこちらへとやってくるのがわかります。



「どうやら、ここは巨人の足の部分……最下層らしいな。ダンジョンになってるみたいだ。それっぽいカンテラの明かりもあるし」

「何かなんだかよくわからないのでやんすけど。すっごい衝撃で目が覚めた気分でやんす」

「……ええと。急激にキャラが変わりすぎてついていけないのですけど。紅のロボットさんでいいんですよね?」

「ああ、そうみたいだな。なんでもさっきまでは『せつでんたいき』モードだったらしい」

「ふむ、言われてみると確かに赤いでやんすね。こりゃぁいいでやんす。おいらのことはとりあえず、『シャー』と呼んでくださいでやんす」


あまりにあまりな紅のロボットさんの変わりようを、特に気にした様子もなく受け入れているルプレのなんとも大物なことか。


変な語尾で語る名前も、とりあえずとか言っている辺り、偽名である事を隠すつもりもなさそうですが。

ルプレが当たり前に受け入れているのに、その辺りに突っ込んだり狼狽えたりするのはマインとして沽券に関わる所であるので、『シャー』さんよろしくお願いしますと動揺を隠して挨拶をして。



今の状況がさっぱりよくわかっていないという流しのはぐれファミリアな(これも自称)『シャー』さんを中心に。


とっちゃんが目を覚ますまで、ここまでの流れとこれからどうするのかを。

もうすっかり仲間な感じに話し合う事にするのでした……。




         (第55話につづく)








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