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第五十二話:どうしようもない彼は、二次元の壁を超える



「ぜぃーって、うわぷっ!?」

 


マナとよっし~さんの隙を突いたルプレの所業。

それぞれに思うところがあって、紅のロボットさんの言葉を反芻していた、まさにその瞬間でした。



「……っ、てい」

「うひゃぁっ、あ、主ぃっ。投げないで、投げんなこのやろーっ」


しかし、元より話をきいていなかったというか、ルプレと同じノリできらきらのコンピューターに注目していたので、のっちゃんだけは、そんなルプレの独断専行に気づけたようで。

なんとか、ルプレがその陣に触れる前に手のひらを差し入れる事に成功しました。

 


それはまさに、紅に攻撃しようとした時とは真逆の展開です。

のっちゃんに選択肢が提示されたわけではありませんが。


止めなければあの時のように何かが起こると。

マインですら根拠のない予感を覚えたのですから、ご主人様も何かを感じ取っていたのかもしれません。


もしかすると、先ほど死に戻りの直前で回避できた事で、ルプレの力がのっちゃんに流れたというか、危機を察知できるようになったのかもしれません。

 


そう思ってのっちゃんの取得スキルを省みると。

ちゃっかり『危機察知』のスキルを覚えていました。

やはり、目で見たものやマナやよっし~さんの能力だけでなく、ルプレやマイン自身のギフトを見たり受けたり経験する事で新たなスキルを得る事ができるようです。


その割に序盤何度も死に戻りした時に変化はなかったのは、いわゆるスキルを覚えるためのポイント的なものが溜まっていなかったからなのかもしれません。




そんな風にのっちゃんの無限の可能性に対し感じ入っている中。

結果的に顔から突っ込む羽目になってしまったことがのっちゃん的に(相手が汚れる的な意味で)嫌だったのでしょう。

そのまま添えるだけの勢いでぺいっと放り出そうと手を振るのっちゃんの手のひらを、必死の形相で掴むルプレの姿が目に入ります。


それがあまりにも真に迫っていて、かえって逆効果であることは、そろそろルプレものっちゃんたるものを学習すべきであるのでしょうが……。



結局翼も使わずぺいっと放られてくったりしている(それでも加減されているのはさすがです)ルプレを脇目に。

のっちゃんはそのまま代わりになるかのように、七色の光る陣の前に立ちます。



「……ッ、コノ先ニ向カウニハ資格ガ必要デス。資格者デアルカノ確認ヲ行イマスノデ、指紋認識パネルニ手ヲ触れレテ下サイ」


すると、心なしか焦ったような様子で紅のロボットさんが近づいてきてそれでも同じ言葉をぶつけてきました。



「……指紋認証ね。とにかくここに手のひらを置けばいいんだな」

「ハイ、ヨロシクオネガイシマス」


資格があるない以前に、その資格がどういったものなのかも分かっていないはずなのですが。

それでものっちゃんからしてみれば、その先に皆が期待しているものではない危険な何かがあると確信している様子。

故にその先に危険があってもなんとかなると自覚し始めたからこそ、率先して動かんとしていたわけですが。



「ちょいちょい、のっちゃん資格が何かわかってるの?」

「恐らくは黒い太陽が落ちる前にと、優れた曲法の能力者を生かすための施設がこの先にあるはずよ。のっちゃんさんが……異世界から来た人に資格があるかどうかは何とも言えないけれど」



果たしてそんな死に急ぐかのようなのっちゃんのことを察したからなのか。

そんな事を言いつつマナとよっし~さんが冴えたチームワークでもってのっちゃんの行動を阻止せんとずずいと動き出します。


ふたり揃って前世ならば直視するのもはばかられる美少女です。

普段ののっちゃんならば、言われる前にさっさと戦略的撤退を余儀なくされていたところでしょう。


そして、数多の死に戻りを繰り返し、ある意味経験を積んできたはずののっちゃんにおいても、それは変わりませんでした。


もう少しで触れようといったところだったのに、無意識なのか反射的にその場から逃げ出そうとして手を引っ込めてしまいます。



「それじゃあ、たまにはわたしが先行しちゃおうかな」

「いや、そこは確かに資格があるってわかってる私の出番よ~」

「……あ、いや。待てって。何だか嫌な予感がするんだって」



そうして気づけば。

どうしてこんな事になったのか。

虹色の陣の前で、おろおろ飛び回る紅のロボットさんを添えて、三人は押し合いへし合いもみ合いのようになってしまって。


そこでタイミングがいいのか悪いのか、あえてやっているのか。

くったりしていたのから復活を果たしたルプレががばっと起き上がってみせて。



「くぉらぁ! あたしが目を離した隙にいちゃいちゃすんじゃねぇーっ!」


マインの目にも少なからず羨ましいというか、こんな時でも仲がいいのはいいことだと思っていたくらいなので。

かまって欲しくてすぐに嫉妬しちゃう小悪魔なルプレにはどう見えていたのか、推して知るべし、でしょうか。


一緒に参加したいというか、とりあえず邪魔してやろうと七色の鱗粉撒き散らして。

妖精的存在にしては、意外と小さくはないその体躯でねじり込むように体当たり。



「……わっ」

「ちょっと、ルプレ押さないでよっ」

「ひぃぃ、近い近い近いぃっ!」


今度はのっちゃんが、ルプレにお返しされるが如く、情けない声を上げて。

ラッキーなおしくらまんじゅうに耐えられなくなって見た目以上にテンパったのっちゃんは。

まさにご都合主義を具現化するがごとくのぬるっとした動きで、七色の陣にしっかり手のひらを認証させていて。



「―――認証シマシタ。資格有リトミナシ、『プレサイド』内ヘノゲートヲ開キマス」


ようやく、とばかりに紅のロボットさんが朗々と宣言したその瞬間。


何のためにあるのだろうと疑問に思っていたキラキラコンピューターの大きなスクリーンが波打ち、砂嵐撒いて鈍く明滅を始めます。




「……っ、異世が開いたっ!? 資格ってそういうことっ?」

「えっ、な、何だか凄い勢いで吸い込まれてるけどっ」

「こっ、今度はもう離さねぇかんなぁっ」

「……」


瞬間、いつかどこかで体験したような、刹那辺りにたゆたう空気そのものが入れ替わるような感覚。

恐らくは、それこそがよっし~さんの言う異世の中に入り込んだ証で。


この先に向かうには、曲法を扱う能力者には必須である、異世と言う戦うための別空間を察知する必要があって。

きっと、マナが感じているのは世界が変わることによる気圧の変化だったのかもしれません。



そんな時でもある意味マイペースなルプレと同じように。

地獄と言いたい天国な空間に耐え切れず、意識を飛ばして戦略的撤退を図るのっちゃんの元へと。

おいていかれてはかまわぬと、マインが張り付いた……まさにその瞬間でした。



スクリーンの波打つぶれがその部屋全体に広がっていって。

まさに、画面の向こうへお邪魔するがごとく。


紅のロボットさんも含めてそこにいるみなさんが吸い込まれていったのは……。




      (第53話につづく)








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