第五十一話:どうしようもない彼は三倍速の赤い門番に出会う
「のっちゃん、無事っ!?」
ルプレやマインのような人形サイズならば余裕がある、巨人型のダンジョン『プレサイド』の入口。
ダイナマイトで人よりむちむちしているよっし~さんが、侵入にいささか苦労している中。
彼女に比べれば凹凸の少ない(曖昧表現)マナが、今度こそ一番に何か危機が迫っているのかもしれないのっちゃんの元へと辿りつきます。
それは、のっちゃんにあろうことか騙され、本来ならば体験し得なかった死に戻りのその先を体験してしまったことで、ナーバスになっているというか、トラウマとしてマナに刻まれてしまった事の弊害でもあるのでしょう。
中空を舞い、身軽なはずのルプレ達すらも置き去りにする、先ほどののっちゃんや家庭内害虫の如き低姿勢のその動きは。
正直なんとはなしに、のっちゃんが無事かどうかがわかってしまう私達の事を考えると、描写するのもはばかれるほどでしたが。
「……あ、あんたっ。あの時のロボットか? 地下が繋がってるってのは本当だったんだな」
「―――コノ先ニ向カウニハ資格ガ必要デス。資格者デアルカノ確認ヲ行イマスノデ、指紋認識パネルニ手ヲ触れレテ下サイ」
何にもおいて焦って駆けつけた割には特に危険の感じない……全く噛み合っていない様子ののっちゃんと。
初期の頃の『ぶっていた』ルプレを彷彿させる、ここに来て新たなキャラ? とのやりとり。
それを望んでいたわけではないのでしょうが、今のところのっちゃんはまったくもって無事のようで。
またしてものっちゃんに騙され……脅かされたと脱力しているマナを縫うようにしてよくよく見えるようにと前に出ると。
そこにはのっちゃんが口にしていたように。
喜望ビルの秘密の地下11階にいたのと同じような……それこそマイン達と同じくらいの大きさの、人形サイズのロボットが、天井まで届きそうな機械……七色にチカチカ光るコンピューターのようなものの前を旋回するように飛び回っていました。
「……っ、のっちゃんさん! それも紅の一種よ! 気をつけてっ」
「ええっ、いや。だって、見たことが……ちぃっ」
やはりどこかロマン的なものを感じているのか、人工的なようでいて超常的な七色のキラキラにルプレとともに見とれていると。
背後からようやっと狭い入口を抜け出してくるやいなや、はっとして切羽詰まった声を上げたのはよっし~さんでした。
のっちゃんとしては、知り合いとまではいきませんが見た覚えがあったので最初はそう言われても戸惑っていましたが。
そもそも秘密の地下11階で会った彼らにも結果的には嵌められて死に戻りした事を思い出したのでしょう。
ある意味のっちゃんらしくない、ままならぬといった舌打ちを残しつつも大人しく従ってダッシュでこちらに戻ってきます。
「―――コノ先ニ向カウニハ資格ガ必要デス。資格者デアルカノ確認ヲ行イマスノデ、指紋認識パネルニ手ヲ触れレテ下サイ」
よっし~さんが紅の一種であるというまさにロボットらしい……カクカク、ピカピカしたそれは。
確かに三倍速で動きそうな真っ赤な色合いをしていました。
しかし、あの秘密の地下11階のいたものと比べると汎用性がないというか、意思疎通に乏しいのか、皆が間を取って警戒しているのにも関わらず、いわゆる定型文……同じ言葉を繰り返しています。
「んー。さっきの赤いどろどろのやつと同じかぁ? よくわからんけど、襲ってくる気配はなさそーだぜ」
「あれって、ほら。見たことない? 武者鎧着たやつで動くやつ持ってたんだけど。なんだっけ……たる、たるるーなんちゃらってやつ」
紅に不用意に攻撃をしてひどい死に戻りの目に遭う。
それは今回実際に起こった結果ではありませんでしたが。
よっし~さんだけでなく、のっちゃん自身も幻視していたのかもしれません。
この場所へ飛び込んでいった時と同じくらいの素早さでマナの背後にまで逃げ込んでくるのっちゃん。
それに気をよくしたわけでもないでしょうが。
そんなのっちゃんを追いかけるでもなく、大きなきらきらのコンピューターの前でふらふらしている赤いロボットから目を離さないままに、しかしそれほど警戒した様子もなく、ルプレとそんな緊張感のないやりとりを始めるマナ。
一見益体もないやりとりに思われましたが。
それにはっとなって反応したのは最初に警戒を示したよっし~さんでした。
「あ、そうか。ダルルロボっ。紅の一種だけれど、青色の本物を模倣したものなんだわ。もしかしたら、敵じゃないのかも」
何やらぶつぶつ呟きつつも、自分の中で何か納得した様子。
よっし~さんは、ごめんなさい勘違いだったかもと、のっちゃんを制すようにして。
自分が調べるわとばかりに再度赤いロボットさんに近づいていきます。
「―――コノ先ニ向カウニハ資格ガ必要デス。資格者デアルカノ確認ヲ行イマスノデ、指紋認識パネルニ手ヲ触れレテ下サイ」
「資格に認証、ね。つまりあなたはこの先を、この『門』を守護するものって認識でいいのかしら」
「―――是。ワタシハ主ノ命ヲ受ケ、コノ先ノ選バレシ避難者ノ為ノ住居……シェルターヘノゲートノ管理ヲシテオリマス。避難者ノ面会、マタハシェルターヘノ入場ニハ許可ガ必要デス。指紋認識パネルニ手ヲ触れレテ下サイ」
同じセリフしか言えないのかと思いきや。
あるいは、男性型のロボットであるからして、よっし~さんのようなダイナマイトには弱いのか。
気負う事なく大きめのスクリーンのようなものの所に近づきつつ問いかけるよっし~さんに、聞き取りづらいカタコトのままの言葉で答えていました。
聞いていると、やっぱりアバター化する前のキャラをいろいろ試行錯誤していたルプレを思い出してしまいます。
意味は分からなくもないのですが、あのままカタコトのままじゃなく自分を出せてよかったですねぇと、つくづく思っていますと。
「選ばれしものってのは、曲法の能力者ってことかしらね……」
「ふぅむ。ようはノアの方舟的な場所ってことなのかな。……まぁ、世界が滅亡するかもって時に全ての人を救うってのはむつかしいか」
「―――コノ先ニ向カウニハ資格ガ必要デス。資格者デアルカノ確認ヲ行イマスノデ、指紋認識パネルニ手ヲ触れレテ下サイ」
マナとよっし~さんがそれこそむつかしい顔をして達観し納得する中。
結局定型文を繰り返している赤いロボットさん。
つまりは、何も写っていないスクリーンの下にある、斜めに角度のついている……まさに手のひらでも置けそうな七色の陣の中に触れよ、と言う事なのでしょう。
「よっしゃぁ、今度もあたしが一番に乗るぜぃーっ」
もとより自分自身やのっちゃん(死に戻り時)に色味がかぶっている事もあって、ずっと気にはなっていたのでしょう。
気づいた時には、事情を理解しているようでほとんど理解していない、ノリだけのルプレが。
文字通り手ではなく両足、体全体を使って、その七色の陣の中にダイブせんと勢い込んでいて……。
(第52話につづく)