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第四十九話:どうしようもない彼は、ごめんなさいとありがとうが有難い



そんなわけで私達凡人には中々に勇気と覚悟のいる命題を与えられたわけではありますが。


今は道中また紅などの厄介者が現れたら面倒だということで(言い訳)、とりあえずは先を目指す事にしました。



どうやらよっし~さんは、その巨大な人型プレサイドにおいて、まず向かうべきところがあるというのです。

であるならば、まずそこまで行って落ち着いて、しかるべきときに聞くことにしましょう。

決して後回しにして、なぁなぁでなかった事にするわけではありませんよ、ええ。けっして。




そんなこんなでのっちゃんたちに追いつき、流れでマナの肩をお借りする形になったわけですが。

やはり目的のその先へ向かうものを邪魔する立場であったのか、紅さんの出現ポイントからそう遠くないところに目的地はありました。




「海……入江かな? 向こうの方に小さな島が見えるね」

「外壁を超えたらすぐなんだな。本当にプールいらずだぜ」


同じのっちゃんのギフト……使い魔的存在として初耳ですが、ルプレはどうやらプールというか泳ぐことが好きみたいです。

いえ、学校の授業と言うか学園生活的なものに憧れがあるのかもしれません。

それが、のっちゃん自身のもう一つの側面であるかどうかは、あまり深くは触れませんが。



それはともかくとして。

いわゆるコロッセオの外回りのような外壁……巨人によって壊され踏み散らされ開けられたその先には、

元々学校が高台にあったのか、なだらかな下り坂があったものの、すぐに入江が見えてきました。

手のひら……親指と人差し指を置いたような形になっていて、二つの指の間は深い深い蒼色をしています。

入江の向こうは明らかに薄い色をしているので、恐らくは入江だけ深く深くなっているのでしょう。


しかし、矛盾しているように見えるのが、マナが口にする入江のちょうど真ん中にある小島です。

ルプレが言うように、授業でここで泳ぐような事があるのならば、泳いで渡るのにちょうどいい距離と言えるでしょう。




「そう、あの小島が目的地の入口よ~。ほら、よく見て。岩の……井戸みたいなものがあるでしょう」

「……いかにもなロケーションだな。さしずめあれが巨人の頭の上ってところか」

「さすがね、もう突っ込む気もないというか、慣れてきたけど」

「適当言ってるだけじゃないのが、ご主人さまの普通じゃないところ、ですか」


今までの話の流れで、確かに想像できそうなことではありますが。

調子に乗って勢い出任せで言葉を発するところのあるのっちゃんのまさに面目躍如といったところでしょうか。


実際問題、これも後に知ることとなるのですが。

まさにのっちゃんの言葉通り、蒙昧なる巨人と化した天使の住むお屋敷が。

地上、空からの黒の太陽と言う名の猛威から、中にいるものを守るためにその巨岩で出来た足でもって入り江へと入り込み、それこそ頭のてっぺんまで深く深く潜り込んだのが今のロケーションになるようで。



あの小島は、その巨人の僅かばかり出ていた頭に降り積もった様々なものでできているのでしょう。

遠目に見えるあの突き出した井戸のような、丸い煙突のようなものが、巨大なロボットにおけるなんのパーツであるのかは、勉強不足な私としては分かりようがありませんけれど。




「よっしゃ、手始めにあたしが飛んで見に行っちゃるでっ」

「あ、ちょっと待ちなさいよっ。一番やりはわたし……って結構はやっ」


のっちゃんやマインが誰何の声を上げるより早く。

つられてマナが追いかけようと翼を出そうとするよりも早く。


ルプレは何故かマインの方を見て、もはや見慣れて来たドヤ顔を向けながら。

その七色の羽からまさしくのっちゃんと同じような虹色の鱗粉をばらまきつつ、見た目以上に軽い舞いっぷりで小島へと向かっていきます。



「おい、大丈夫なのか。っていうか、ルプレって戦えるのか?」

「いいえ、薄々お気づきかと思いますが、攻撃や偵察のためのギフトではありませんので。マッピングと探し物なら得意だと思いますが」

「……ダメじゃねーか。さっきの紅とか出てきたらどうするんだよ」

「完全に勢いですね。顕現したはいいんですが、あまり自分は役になってないと思っているのかも」

「そんなわけ、ぜんぜんないのにな」

「そうよそうよ、かわいいだけで正義なのにねぇ」



マナの言い分はともかくとして、先ほどの紅に攻撃した時の機転に始まって、ルプレは死に戻りの価値を自身でいまいち理解していないようです。


やはり、さっきのマナの言葉ではないですが。

お前は役に立っている、お前は凄いとのっちゃんにはっきり言ってもらう必要があるようですね。



「うーん。海の底には紅とは別のはぐれファミリアはいるだろうけど、ああやって飛んでいる分には大丈夫じゃないかしらねぇ」


そこで、ファミリア想いののっちゃんを安心させるかのように、よっし~さんがそう呟きます。

すると、心配も何のその、思っていた以上にルプレは慎重派であったようで。


近づくと結構深そうに見える海面に近づくこともなく。

井戸のように空いたまさにダンジョンめいた入口も、上空からゆっくり近づいて、中に入ることも触れることもなく素早く動きながら斜め見するのを繰り返し、それほど時間をかける事なく皆の心配もなんのその、何が起きる事もなくあっさりとこちらに舞い戻ってきました。





「おおい、見てきたぞー。井戸は枯れてたな。そんなに深くはなかったぜい」


それは、どう聞いても一緒に行けばそのうちわかるような情報ではありましたが。



「……お、おお、そうか。わざわざありがとうな」

「じゃ、軽く準備をして向かうとしますか。とりあえずよっし~さん飛べますか?」

「いえ、さすがにそれは無理ねぇ。翼があればよかったのだけど~」

「よおし、まっかせなさい。なけなしの翼でのっちゃんもよっし~さんも運ぶわよぉ」


行きの時以上の爽やかなドヤ顔でそう言うので。

ありがとうとごめんなさいが苦手なのっちゃんから、その言葉を引き出せたのは。


小悪魔のようにみせて本当の天使かもしれない、

ルプレの純粋さの成せる業、だったのかもしれません……。




        (第50話につづく)








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