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第四十七話:どうしようもない彼は過去と未来に交信する男



(ちょおぉっとまったぁ! ストップストップだ主さまっ! 出てる出てる、選択肢が出てるんだよぉ!『取り残されし赤の群れを打ち払う、または傍観する』って! このタイミングで出るってことは、行動したらデッドっつーこったろ! 何もしないが正解なら、わざとらしく選択肢が出る意味がねぇからなぁっ!!)



ばばぁんと、実に得意げに、実に偉そうに。

ルプレは本当は身も蓋もないオフレコな言葉を口にしてしまいます。

つまるところ……選択肢を突きつけている本人であるのに、これでは答えを教えているようなもので。




(……と言うか、それ以前に大変申し訳ないのですが、『氷魔法・初級』と口にするだけでは魔法は発動しませんよ。これはわたくしの説明不足でしたね。すみません)

「…………と思ったけど、やっぱりやめておこう」

「やめておこう、きりっ! じゃないわよっ。いきなりのっちゃんが魔法使いになっちゃったかと思ってびっくりするじゃないっ。……ってか、こういう場面でそんな冗談言えるタイプだったっけ? まぁ、いいけ……どっ!」

「なんなのよ、もうっ」



マナが言うにはキリっとした顔をしているようですが。

内心ではマインの説明不足も甚だしい指摘を受けて恥ずかしがってへこんでいるであろうのっちゃんを尻目に。

ある意味そんなのっちゃんのどうしようもない部分に慣れてきているのか、マナは気を取り直してちぎっては投げ、ちぎっては投げる一連の行動を再開していました。


一方のよっし~さんは、そんな結果的に突拍子もないのっちゃんの行動を目の当たりにしたのが初めてだったので、マナ以上に普段あまり出さないようにしているらしい素を出してしまっています。

それとも、早とちりで追い込まれる想像を仔細詳細思い浮かべてしまった自分を恥じているのでしょうか。



恥ずかしがっているという意味では、お互い様のようですが。

結局ルプレの反則スレスレどころか反則そのものの行動により、今回ののっちゃんのあるかもしれなかった死に戻りは回避となったようです。


なぜならば、ノリにのっているマナと、怒りにも似たパワーを得たらしいよっし~さんが、事実のっちゃんに傍観以外の行動を与える隙もなく残っていた紅達を文字通り滅して世界に還してしまったからです。




(ふはは、どうやら『傍観』が正解のようだぜ主! あたしのいうとおりだったろ?)

(……ここでそれが分かるなら、最初からそうしてくれればよかったんだが)

(うっ……違うんだって。マインのやつがやらかしただろ? その謝罪の意味でのサービスだって! こっ、今回だけだかんなっ)

(色々文句も言いたいところですが、それを言われるとわたくしも何も言えねぇ、ですわ。……まぁ、今回の場合はちょっと分かりやすかったのでよしとしときましょうか)



あまりにあまりなタイミングの良さに思うところはありますが。

確かに今回の唐突な選択肢は、落ち着いて判断すれば正解と言う名の生きる道を想像できた事でしょう。

ルプレが言っていたように、何もしないと言う選択は、選択肢が出なければ意識すらしない事でしょうから。





「……ふう。ぞろぞろ出てきた時にはキリがないかなぁとも思ったけど、意外となんとかなるものですね。

学習させる前に倒してしまったって事でオーケーです?」

「ええ、説明不足でごめんなさい~。彼ら『紅』は耐久はないし強くもないのだけど、相手の能力を受ける事で学習できるのよね。ものによっては大爆発をおこしたり、一段階上のファミリアに進化することもあるから……面倒な事にならなくてよかったわ~。直前で止めたってことは、のっちゃんさん知っていたのかしら~」



マナの言う通り、群れるゾンビのように際限なく現れているように見えた『紅』達は。

死体が残らず霞となって大気に消えた事もあって、いつの間にかいなくなっていました。


元々そんなに数がいなかったのか、止められず無駄になるとわかってこれ以上湧いてこないのか。

どうせ選択肢を出すのなら、そう言う気の利いたものにして欲しいものですね。


なんてことを考えていると、よっし~さんがさっきまでの怒りめいたものを持続させる形で、文字通り目だけ笑っていない感じでそう問いかけてきます。




「い、いや。知ってたかと言われると何もかも知らないんだが……あ、ほら。マナもよっし~さんも疲れてる? っていうか、十全に戦えるってわけじゃないんだろ? 折角いろいろ覚えたみたいだから、おれにできることがあるならって思ったんだけど……今のを見てると及びじゃなかったっていうか、思ったより二人とも元気みたいでよかったよ……ははは」



するとのっちゃんは、そんな怒りをいなしそらすかのように。

誤魔化すみたいに乾いた笑みすら浮かべて、偽りの一つもないだろう本音を口にしていました。

それは当然、よっし~さんの質問の答えにはなりようもないわけですが。



「なな、何言ってんの! まさかここにきてあの黒歴史を掘り下げる気なのねっ。だから大丈夫だっていってるでしょ! あれは流れっていうかなんていうか、のっちゃんが騙したのが悪いんだからぁっ、忘れなさーいっ!」

「おお、ああ。いや、すまん。忘れるのは無理そうだ。まだ使えてないけど、氷魔法覚えちゃったみたいだからな」

「ええっ!? あれって冗談じゃなかったの? しかもわたしの魔法!? しどいっ、なんたる仕打ち! のっちゃんのひとでなしぃっ」

「おあっ、やめろっ! なんでそれでくっつこうとするんだよっ」

「んぎゃっ! つ、つぶれるぅっ」



十全でなく、力を失っていること。

一体いつの間に気づかれていたのか。

まさか、のっちゃんに気づかれているとは思いもよらなかったようで、よっし~さんは呆然とした様子でそんなマナとのっちゃん、ついでに巻き込まれて逃げ遅れて潰されそうになっているルプレを見ていました。


状況をいち早く察知し、飛び上がって難を逃れそんな様子を更に見ていたマインは、ふらふらと羽もないのに飛び上がってそんなよっし~さんの元へと向かいます。




「すいませんね。答えになっていなくて。ご主人様はああ言っていますが、結果はこの通りです。……いつかの過去、あるいは未来で、すべてを知るのでしょう。本人が気づかないだけで」



今回は失敗して死に戻りすることもありませんでしたが。

もしかしたら、私達が知らないだけで、失敗し死に戻りした周回があったのかもしれません。

鮮明に克明に浮かんだ失敗の幻想も、本当は幻ではなかったのかもしれなくて。




「……そんな。そんな力があるのなら、どうしてもっと早く来てくれなかったの? 何もかも、手遅れになる前に来てくれればよかったのに……」


呆然としているようでいて、マインの言葉を理解した上での、よっし~さんの呟き。

それは、どこかで聞いたことのあるような、救いを求める懇願でもあって。

紋切り型であるからこそ、のっちゃんを代弁するがごとき返す言葉は決まっていました。



「それこそ、早とちりじゃないんでしょうか。……どうしてよっし~さんは、もう手遅れだなんて思い込んでいるんでしょう」

「……っ」



まだ遅くなんかない。

我らがご主人様は、よっし~さんを救いあげてくれる。

そのために、ここに来たのだから。

そんな意味を込めた代弁に、今度こそよっし~さんは言葉を失っていて。


そう言えばマインとよっし~さんがまともに顔を突き合わせておしゃべりするの初めてだったなぁとしみじみ思っていると。




「そっかぁ。そんな風に言ってくれる人、今までいなかったんだなぁ。私……」


マナ達といつものじゃれあいをしているのっちゃんを見つめるその瞳は。

まさに、綺麗なものをいくつも重ねる悲しさの果てに生まれた黒色をしているのが分かって。



「ちょっと時間がかかるかもしれません。マイペースなのが長所と短所ですから。でも、いつかは……」



のっちゃん自身の口から。

貴女を救うにはまだ遅くはないだろうと。


生まれてくる未来は、きっとある。


そうまとめつつも。

紅達が密やかに守っていた、未だ見えぬその先を見据えていて……。




        (第48話につづく)







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