第四十六話:どうしようもない彼は色々とタイミングが悪い
置いていかれるわけにはいかないと、既に先行してしまっているマナとよっし~さんに続こうとするとっちゃんとそのしもべ、ルプレとマイン。
まぁ、実際人形大の二人には、ほとんど戦う術がないんですけれど。
そこはそう、ノリというものなのでしょう。
そんな事を考えつつも、マインがちゃっかりのっちゃんの右肩に陣取ったのをいいことに。
さりげないふりをしてルプレがのっちゃんに触れる……左肩に座り込むのに成功していました。
どさくさに紛れてというか、ガツガツしていなかったのが功を奏していたのかもしれません。
あるいは、自然とのっちゃんを守る形になったというか、のっちゃんの手を煩わせる事などないといった風のマナとよっし~さんに対し、なけなしのプライドで反抗しなくてはと思っていて、それどころじゃなかった可能性も捨てきれませんが。
「思ったより、手応えないっ……感じですかねっ!」
「でも、それが最善の手よ~。下手に小細工すると、学習しちゃうからねぇ」
そんなこんなで一歩も二歩も遅く、のっちゃんがたどり着いた時には。
マナとよっし~さんは現れた紅たちのその半数を屠っていました。
しかも、二人して中々にミスマッチな拳や足……その身一つで戦っています。
一見すると何かしらの力を込めた様子はなく、通常攻撃のみのようです。
マナが言う通り粘土みたいな見た目よろしく大分脆いのか、ちぎっては投げ状態で赤い霞となって消えていっていますが。
よっし~さんが言うように、今のところうまくいっているのは。
学習しようのない通常攻撃こそが、かれら『紅』にとっての対処方だからなのでしょう。
これは後の祭りで知った事ではあるのですが。
『紅』と呼ばれるはぐれファミリアは、この滅びいこうとしている世界に無数に存在していて。
その一体一体がそれこそのっちゃんと達が『念話』で繋がっているように、パスのようなもので繋がっているらしく。
『曲法』などと呼ばれるスキルのような技を受けると。
やられると同時にそのスキルを覚えてしまうようで。
自身を犠牲にしてまで、受けた力を仲間に伝え、『紅』という群れが滅びないように進化していく。
故にこそ、彼らの親とも言うべき能力者がいなくなっても、こうして過去に与えられたのかもしれない命に従い続けているのでしょうが。
似たような立場であると考えると、身につまされる部分もありつつ、彼らの主がどんな人物であったのか興味はつきませんが。
そんな裏事情など当然知る由もないというか、ある意味全開で空気の読めない我らがご主人様は、
まさしくその期待に応えるかのように、二人にその辺りの事情を伺う事もなく。
声をかける事もなく功を焦ったかのようによりにもよって新しく覚えたスキルを発動しようとします。
「……おれもやるぞっ! ええと、【氷魔法】初級……っ」
「ええっ!? のっちゃんいつの間にっ」
「ば、馬鹿っ! よりにもよって氷のスキルなんか使ったら!」
マナは、自分のスキルがパク……ラーニングされているなどとは露知らず、のっちゃんがいきなりその名の通り魔法を使わんとしている事に驚いていましたが。
一方のよっし~さんは、のんびり語尾も忘れて知らぬ存ぜずののっちゃんにしてみれば少しばかり理不尽な声を上げていました。
ある意味その辺りものっちゃんとよく似ている、『紅』の学習能力。
例えば炎の魔法やスキルを使ったとすると、受けて犠牲になることでそのスキルを覚え、他の物が使えるようになったりするとのことですが。
『紅』にとって、氷系のスキルは特別であったのです。
これももちろん後に知る事になるわけなのですが。
『紅』のファミリアを扱う能力者には、氷を扱う能力者の相棒がいたようで。
相性に優れる事で二つの曲法が交わり、新しくも強力な能力が生まれるとのことで。
その新しい能力は、『紅』に進化の一途を推し進めました。
その名も、『羅刹紅』。
融けぬ氷の鎧をまとった、ステージがひとつ上がった剛のもの。
その力は、『紅』の100体ぶんともいわれ。
希に、野生のものもいるとのことですが。
こうした皮肉めいた偶然にて氷のスキルをその身に受け犠牲になることで近くにいたものを進化させる事が多いようです。
よっし~さん自身、のっちゃんですら気づいてみせたように、元々あった『曲法』の力、その大半を失っています。
それでも通常の『紅』であるのならば、素の力にてなんとかなっていましたが。
レベルの違う『羅刹紅』に対してははたしてどうか。
よっし~さんだけでなく、マナの方にしたって、自身の拳のみで戦っていたのは自らのスキルを出し惜しみしていたからであって余裕があるわけではないのでしょう。
そこまでの一瞬で、よっし~さんは少し先の未来を憂い、分かっていたなら細かく説明すべきであったと後悔しているようでしたが。
そんなありきたりなものから逆走するのが、ある意味どうしようもないのっちゃんののっちゃんたる由縁なのでしょう。
まぁ、この場合空気を読まなかったというか。
ただただ座って状況を見ているのに嫌気がさしたのは、私達の方だったんですけどね。
(第47話につづく)