第四十三話:どうしようもない彼は冒険の書、その2を使う事を決意する
この世界では最早数少ない、はっきりとした役目を与えられたヒロインかもしれないよっし~さんに連れられて。
のっちゃん一行は、未だ活気というか生活感のあった喜望ビルとは違い、神秘的なロケーションと化した、広大な学園に足を踏み入れていました。
『信更安庭学園』と呼ばれるそれは。
かつてよっし~さんと同じような『曲法』と呼ばれる芸術の才から派生した、超常の力をその身に秘めし子供たちが通う場所でもありました。
その中には、その力を持て余し暴走してしまった子達が正しくも収容されていた場所などもあったそうなのですが。
過去の能力者同士の戦いや、この世界が滅亡の一途を辿っているその原因などにより破壊尽くされ、今やどこにあったのかも分からないそうで。
「……ねぇ、よっし~さん。今更というか聞いてもいいものかどうか迷ってたんだけど、この世界が滅亡に向かってるその原因ってなんだったの?」
よっし~さんが見回りのためにある程度整備お掃除していたのでしょうか。
そこだけ大小さまざまな瓦礫を掃いて綺麗にしてあった、かつてはここへ通う先生のための駐車場だった場所から、天井や壁がそこかしこなくなっていて、建物の体をなしていない校舎らしき建物を見上げつつ。
唐突というか意を決した様子でマナがそう問いかけます。
「あれ、言ってなかったかしら~。今でこそ『ノーマッド・レクイエム』とかと同じ七つの災厄に数えられているけれど、かつては曲法の一つだった『パーフェクト・クライム』の暴走が原因ね。簡単に言えば黒い太陽の姿をしたそれが、ここからそう遠くない地に落ちたの。……みんなに分かるように例えるなら、巨大すぎる隕石が落ちたって考えればわかりやすいかもね」
「あー、それは。確かに分かりやすすぎるくらい世界の危機ですね。ひょっとしたらわたしたちでなんとかなるんじゃなんて考えてたのがあさはかでした」
「うーむ。なんとももどかしい状況だなぁ。あたしたちがここに来たのはすべてが終わった後だもんな。なんとかなりそうな過去にセーブポイントあったらよかったのにな」
「そうねぇ。過去や未来に世界を救う手立てを求めた人が、かつてはいたって聞いてるけどね~」
「……」
最早そこを定位置と諦めたのか。
もふもふできるかどうかはともかく、しっくりきたのか。
自身に呆れ果てたようにぼやくマナが真に迫っていたからなのか、ルプレはしっかりマナの腕の中に収まったまま、茶化す事なくしみじみとそんなことをいいます。
同じく、流れで手放す事もないと思ったのか、のっちゃんの腕の中にちゃっかりと収まっていたマインは。
そんなやりとりを後ろで聞いて、何か思うところがあるのかひとりで考え込んでいるのっちゃんをあご下から眺めています。
時折そんな二人が気になるというかうまくやりやがってぇとハンカチを噛んでいる(イメージ)ルプレを脇目に、マインは念話で語らずとものっちゃんの黙考内容の把握につとめていました。
恐らくのっちゃんは、よっし~さんの言葉を聞いて、秘密の地下11階にいたルプレ達と同じサイズのメタリックなロボット的存在の事を思い出していたのでしょう。
その時はまだルプレもマインもも外に出てはおらずのっちゃんの内なる世界で眺めていましたが。
今思えば、彼らはよっし~さんの言うファミリアなる存在だったのかもしれません。
そんな彼らは、未来や過去へ行く事について、カタコトの訳の分からない言葉の連なりの中で口にしていました。
もしあの時、のっちゃん自身の故郷ではなく。
この世界を救うためにと過去や未来の道行きを訪ねていたら、それを叶えてくれたのでしょうか。
あの時は、自身のギフトやスキルも含めて半信半疑の所があったのっちゃん。
でも今は、マナの超常の力を目の当たりにして、よっし~さんの話を聞いて、世界を滅ぼそうとするくらいだいそれた力が存在するのならば、過去や未来と交信する力があってもおかしくないと断じるくらいにはなっていたはずで。
(……『喜望』ビルだったっけか。あの場所でセーブしたやつ、上書きしないで取っておくことできるか?)
(ええ。可能ですわ、本来はルプレの領分なので事後承諾は必要ですけど、いわゆる冒険の書は三つありますからね)
どうやら、マインの今の座り位置を許容してくれているのは、存外念話での会話が気に入られた事もあるようです。
興味はあるけどあまりそんな所を見せたくなかったゲーム的要素を口にするのは、やはりあの時の意味深長な彼らが気になっていたからなのでしょう。
果たして彼らはのっちゃんを本当にただ貶めるためだけの罠であったのか。
マインとしてはへそくりのように隠してあった暗号文も含めて、のっちゃんと同じく何かあると確信を得ていました。
……今後どうなっていくのかはまだわかりませんが、いずれあの場所に舞い戻るような機会があるだろうとも。
故に次にセーブする機会があれば、今までとは別のところにセーブする。
ゲームとしては裏技でもなんでもありませんが、さっきも言ったようにそれらはルプレの領分であるので、マインは度重なる使用で実は既にレベル3まであがっている『念話』を、当のルプレに使ってみることにしました。
それは、熟し経験を積む事で。
念話の範囲や伝えたい相手を指定できるようになるのではと予想した上での行動で……。
(第44話につづく)