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第三十九話:どうしようもない彼は、意外と心内の会話を楽しめる



結果的に、マインも何だか複雑そうな、だけど特に忌避感があるわけでもなさそうな、のっちゃんに背中を預けるような形になっていました。



これでマインが、動かぬ物言わぬ人形であったのならば。

申し訳なくも正直な所あまりよろしくない絵面であり、のっちゃんもそれを自覚しているが故の複雑な百面相なのでしょうが。


成り行き任せにしたのが功を奏したのか、のっちゃんがマインを邪険にするような事はありませんでした。


くっつこうとして、そのアピールが強すぎて恥ずかしがって今の今まで避けられてしまっている、今も文字通りマナに大好きなぬいぐるみ的扱いをされて涙目なルプレには申し訳ないのですが。


この背中からじんわりと伝わるぬくぬくした喜びを堪能しつつも。

折角なので今後いつ使う場面があってもいいように、私達とご主人様のような間柄にありがちなテレパシーというか、お互いにだけ聞こえる【念話】を試してみる事にしました。

私達意思あるギフトには、必須とも言えるスキルですね。


 


(……ご主人様、ご主人様。ちょっとよろしいですか)

「ん? どうした?」

「え? 何が? なんだって」

「いや、マナには言ってない」

「なによぉ。その言い方は。いいもんいいもん。ルプレちゃんもふもふしつつ、よっし~さんとのガールズトークに花を咲かせてるから」

「やめろーっ! もふもふするなぁっ」

「ふふっ。いいわね。ガールズトーク。久しぶりだわぁ~」



いきなり何の予兆もなしにやると、のっちゃんがどんなリアクションするかも分からなかったので。

マインは手初めにお誂えむきな微かに二本のラインが入った口元をぱくぱくさせつつ、【念話】を使ってみました。

 


案の定、のっちゃんは普通にしゃべっていると勘違いしているようです。

すかさずマナの方が反応しましたが、いつもののっちゃんのつれない所が、今回ばかりは功を奏したようです。

少しばかり顎を引いて聞いてくれる体勢になったのっちゃんに、マインは更に続けました。




(……ええとですね。ただ今便宜上、口をぱくぱくさせてはいますが、この声はご主人様にしか聞こえていません。いわゆる念話……テレパシーなどといった類のものですね。ご理解できましたら心の中で返事をお願いいたします)

「……(えっと、こ、こうか。聞こえてるか?)」

(はい、ばっちりです。やはりというか何というか、ご主人様の分け身であり力そのものであるわたくし達は、こうして触れ合う事で念話が扱えるようですね)



遠くに離れていても【念話】が使えるのが理想ですが。

こういったスキルは想う力が必要なため、私達ですら受け入れ、納得するのに時間がかかったのっちゃんの事を考えれば、これでも上出来と言えるでしょう。

そもそも、私達は離れられませんし、離れるつもりもありませんけどね。




(ふーん。便利と言うか、すごいな。……あ、でもこれって心内とかも聞こえるのか? だったらやめた方がいいんじゃ)


自分の心が読まれるのが嫌と言うより、マインの心の声を聴いてしまうのが申し訳ない。

心など読めなくても、そんなのっちゃんののっちゃんらしさがはっきりと伝わってきます。



(別にわたくしはそれでもかまいませんけれど。安心してください。心内で喋ろうと思った事しか伝わりませんわ。今後何があってもいいように、ちょっと試してみようと思ったのです。折角こうして触れていただいておりますから)

(そ、そうか。そんな内緒話をする機会があるとは思えないけど……)



触れて、の部分で反射的にほっぽりだそうとしてやめるところなど、正にのっちゃんクオリティーではないでしょうか。


照れ隠しかそうでないのか。

必要性をお伺い頂いたので、マインは早速、さっきまで考えていた事を口にすることにしました。

 



(内緒話というか……この先の道行き、攻略のためのアドバイスはできますわね。早速ですけど、ご主人様は今、この車に不思議な力と言うか、気配は感じられますか?)

(……いや。正直なところ全く感じないな。逆にこの変な世界で普通の車ってのも違和感があるけども)

(そうですか。……実はですね、それって結構的を得ているのです。ルプレはこの車に秘められしモノに気づいてはしゃいでいましたが、それはむしろ逆なのです。この車がよっし~さんにとって、わたくしたちとご主人様の関係と同じと考えると余計にです。あまりに存在が希薄すぎるのです)

(それってつまり……どういう事だ?)



それはのっちゃんお決まりの、相手任せの反芻にも聞こえましたが。

ある程度は予想がついていたので、マインは構わず続けます。



(恐らくは確固たる、ひとつのファミリアとして、維持できるだけの力が込められていないのだと思います。そしてそれは、やりたくてもできないのでしょう)

(ふむ、そうなるとよっし~さん見た目以上に疲れてるって事か。全然気付かなかったな。気にかけてやらないと)



オブラートに包まれているかのような、のっちゃんの言い回し。

実際問題、強がって平常を装おっているよっし~さんが、本当の所どうなのかはよっし~さん本人にしか分からないのでしょう。


きっと本人に聞いてもどうにか誤魔化そうとして答えてくれないはずです。

その事を考えると、のっちゃんがそれに気づけて気にかけるとおっしゃってくれたのは、こうして【念話】を試してみた甲斐があったのでしょう。


 

(って言うか、それならお……マインやルプレはどうなんだ? その力、魔力とかか、あるいは生命力か? おれ、それの渡し方以前に使い方も分からないんだけど)



心の声……ある意味本音でもそうやって気遣ってくれるんですね。

ある意味勝手にくっついてきたというか、のっちゃんの預かり知らぬ所で生まれてきた私達に対しても気にかけてくれるのですから、さすがはのっちゃん、といった所でしょうか。



……周りがのっちゃんに対して、どう表現しようとも。

私達にとってみれば、慕い従うべき主なのです。



それは、私達の本質を鑑みれば、自己愛と呼べるものなのかもしれません。


のっちゃんからすれば。

自分の事なんて好きになれるわけがないだろ、なんて言いそうではありますけどね。




         (第40話につづく)







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