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第三十七話:どうしようもない彼は、いよいよ物語の本質に迫る?



「とまぁ、ここまで話した事がほとんどではあるんですけど……後はあの緑の瞳の黒い猫さん……イレギュラーの存在ですね」

「ああ、ちょっと思い出してきたぞ。あのクロネコ、今思えばマインの事見えてたのか」



ここからは憶測の域を出ませんが、あの時の一行は、この世界の住人ではなかったのでしょう。

偶然か必然か。

きっと私たちと同じ、だけど目的の異なる、本来は交わる事のなかったタイムトラベラーなのだと思われまず。

 

 

「ええ。本来はありえないはずだったのです。故に私は恐怖し、パニックになってしまいました。早く故郷に帰りたいご主人様には申し訳ないのですが、私達にはここに来た目的があったのです。……しかし、イレギュラーな黒猫さんにご主人様が触れる事でその目的が崩れてしまうような気がして、我が儘を言ってしまったのです」



多分きっと、彼らはご主人様、のっちゃんと同じ物語の主人公。

お人好しが過ぎているのっちゃんが、あちらの事情を知れば、ついていってしまうかもしれない。

そんな恐怖があったのです。

 

その事を赤裸々に告げると。

のっちゃんは買いかぶりすぎだ、とばかりに頬をかきました。

その際、のっちゃんの複雑な感情を表すかのような、いくつもの色の星が舞ったのが印象的で。



「そんな知らん奴らについてったりしないって。正直君達の言い分が理解できたとは言い難いけど、結局の所ルプレもマインも家族みたいなものなんだよな。……だったら仕方ない。何かしたい事があるんなら、ここでおれにできるかどうかはともかく、やってみるから」



健康的な小麦色にはどう頑張っても日焼けできない顔を赤くして、そっぽを向いて。

ルプレが聞いていたら、泣きそうになる事をおっしゃるのっちゃん。

 


……うぐぅ。不覚を取られました。

私も、のっちゃんが視線を外している隙に、びっくりして思わず出てしまた水分を払います。

そうなのです。これは感動のあまり出てしまった涙なんかじゃないのです。


そもそものっちゃんは感激と感動に疎い、ドライなお方なのですから。

分身である私に、そんな意外な所など必要ないのです。


故に私……マインは、こっ恥ずかしいけど本当に思っている事を口にしたのに、反応がなくてどうしようと思っているに違いないのっちゃんがこちらを伺う前にと、纏めるように誤魔化すように口を開きました。



「ありがとうございます、ご主人様。ルプレにも同じことをおっしゃってあげてくださいね。きっと泣いて喜んで飛び跳ねますよ。小悪魔系ちょろいんですから」

「……いや、いいよ。お、マインがそう言ってくれるなら」



どうせ一心同体みたいなものなんだろ。

とでも言わんばかりな、やはり照れを隠したままののっちゃん。

どうも、ルプレが『そう』であるならマインもそうなんだろ、などと勘違いされているようです。


心外ですわと言い訳を口にしようとした私でしたが。

遠目に外出の準備が整ったらしいよっし~さんの姿が見えたので、涙をのんでのっちゃんにやってもらいたい本題を口にしました。



「ご主人様がそうおっしゃるのならば、仕方ないですね。わたくしだけの役得としておきます。……それでは改めまして早速ですが、よっし~さんの準備も整ったようですし、時渡りの秘密が分かるという『天使のいた学園』に向かいましょう」

「ああ。前の時に行くはずだったところか。……あ、そうだ。思い出したぞ。もしかしてルプレが言わなかった次の選択肢、場所被るんじゃないのか?」


何気なくそう言われ、のっちゃんがこの冒険にそうでないようでいてしっかり参加してくれていて、考えていてくれた事に正直驚かされました。

分身などのたまっておきながら、本当にのっちゃんには驚かされます。

故にこそ、私もきっとこうしてここに出てくる事になったのでしょうが……。




「そうですわね、確かに信更安庭学園は、選択肢にありました。ですが安心してください。前回の死に戻りがわたくしのイレギュラーだった事で、例外的ではありますがその時出ていた選択肢クリア済みとさせていただきますわ。……まぁ、実の所これから向かう場所が正解だったとしても、死に戻りしないわけでもないんですけどね」

「それこそ、身も蓋もないなぁ」


自分で言っておいてなんですが、確かにのっちゃんの言う通りであったので、思わず互いに苦笑しあってしまいます。


それをいい雰囲気と取るかどうかは受け手次第ではありますが。

確執まではいかぬマインとのっちゃんの間柄が、顔を突き合わせて話し合った事で落ち着いた事がわかったのでしょう。


のっちゃんが乗せてくれないからすっかりマナのさらふわな頭の上が定位置になってしまったルプレが、

準備しているうちにファミリアさんがもうひとり増えたと目を白黒させているよっし~さんを連れ立って近づいてきました。





「これで役者が揃いましたね。一応今までもここにいたのですが、とりあえず自己紹介を。主さま……のっちゃんの忠実なるしもべ二号、マインと申します。これから宜しくお願いしますね」

「ふふ、よろしく~。それにしてものっちゃんさんてすごいのねぇ。自我のしっかりしているかわいいファミリアが二人もいるなんて、なかなかないんじゃないかしら~」


可愛いもの好きの同調かと思われましたが、どうやらよっし~さんは純粋に意思あるファミリアを二人以上抱えている事に感心しているようでした。



「い、いや。別におれがすごいわけじゃないと思うが……」


本当はもうひとりいるとか、厳密に言えばファミリアではないとかいろいろありますが。

準備万端なよっし~さんの旅支度は、先ほどまでの普段着に比べても太ももとかへそチラとか、明らかに露出の多くなった、マントつきの海兵服みたいなものであったので、相変わらずのっちゃんは目のやり場に迷い、たじたじのようです。

逆の言い方をすれば、目移りするところが増えたってところでしょうかね。


特にあのダイナマイトな巨乳!

体格的にも体型的にも私達はどうあがいても望めないものなので羨ましくて仕方がないのですが、

それなりにあるけれど、遠く及ばないマナは、視線を外そうとして逆に不躾になってしまっているのっちゃんの事がお気に召さなかったようです。



「もう! のっちゃんてば! もっと自分に自信を持つのよっ。ほらほら、男らしくどーんと飛び込んでくれてもいいのよっ!」

「そうだぞそうだぞーっ」


多分、マナ自身も自分で何言ってるんだと思っていたに違いありません。

そのどさくさに紛れてとっつこうとするルプレをマナともども華麗にスルーすると。

それでも結局視線を漂わせたまままさかのリーダーシップを取るみたいに、声を上げました。



「と、とにかくっ。おれの事はいいから。早速だけどその学園? ってとこに案内してくれ。移動はどうするんだ、飛んででも行くのか?」

「あれ、それも素敵ね。まぁでも、空はどうしても目立っちゃうわ。いい『足』があるから、ついてきてもらえる?」



のっちゃん的にはそれこそ他人任せなものでしたが。

のっちゃんからついて出るとは思えないメルヘンな移動手段に、くすりと笑みをこぼしつつ、そのまま門番の一太さんに礼をして、一同揃って喜望ビル敷地から出発しました。



足……馬車か何かでしょうか。

あるいは、乗り物的なファミリアでもいるのでしょうか。


一体何だろう。

それは見てのお楽しみなんて大層なものでもないけれど。


そんな、思っていたよりだいぶ距離が縮まった気がしなくもないのっちゃんとよっし~さんのやり取りの中、私は内心でいい方向に進んでいるのかもとほくそ笑みます。


もうお分かりでしょうが。

この世界から脱出し、帰りたいと言うのっちゃんの本当の目的ためには、よっし~さんが必要不可欠なのです。

よっし~さんと心通わせ、救い上げる事こそが、その目的の最大の近道と言えるでしょう。



きっとこの先には、それを成すための試練が待っているはずです。

でも、私達のご主人様は、きっとそれを乗り越えられるのでしょう。


のっちゃんが、諦める事さえしなければ。

きっとすべてがうまくいく。



私達は、そのためのフォローに全力で当たるだけなのです。


何とはなしに、ルプレだけでなくマナともそんなやりとりを瞬間で交わして。


その事を固く誓い合うのでした……。




      (第三十八話につづく)











これ以降、更新のペースが遅れそうです。

なるべく間を開けないように送れればと思いますー。

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