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第三十五話:どうしようもない彼は両肩に花を振り払わない



「あああああああぁぁっっ!?」

「うわっ。びっくりしたぁ!……もしかしなくてもまた死に戻っちゃった? 今度は何が原因で……って、妖精さんがひとり増えてるうぅっ?」



戻ったのは、元喜望ビルに迫るはずだった七つの災厄の一つ、【ノーマッド・レクイエム】を退けて。


よっし~さんと刺激的な出会いをし、よっし~さんの先導によりちょっとした旅に出るという事で。

その準備をしているよっし~さんを待っていた時分でした。



ついさっきセーブしたばかりだったけれど、念のためきりがよかったのでセーブしたのが幸いしたようです。

まぁ、私が言えるセリフではないのですけれど。



とにもかくにも、死に戻った時の記憶がない(はず)マナにしてみれば。

門番さん……鶴林一太さんといい感じで触れ合っていて、ルプレと二人して嫉妬しかけたと思ったら、戻ってきた途端奇声上げてつつ、右肩には七色クロ妖精こと【リアル・プレイヤー】担当のルプレが。

左肩に金髪ドリルなリビングドールこと【スターダスターマイン】担当のマインが突然出現しているわけですから、そのリアクションも仕方のないことなのかもしれません。



そして、そんなマナの言葉により、つい先程命を奪った下手人が左肩にちゃっかり陣取っている事にのっちゃんも気づいたようです。


あからさまにびくりと震え、そのままとばっちりでルプレまで払われる未来を幻視しましたが。

そんな浅い私……マインの予想に反して、のっちゃんは硬直しぴんと肩肘を張るだけでした。



そんな風に無碍にされても仕方のない事をしでかした自覚があるだけに、そんなのっちゃんの優しさが沁みて染みてなりません。


おい、なんとかしろよと右肩にしがみつくルプレがジト目で急かしてくるので。

元よりそのつもりですとばかりに、マインは羽根もないのに(妖精ではなく、抱えられるサイズのリビングドールなので、きっと念動力的なもので浮いているのでしょう)ふわりと浮き上がり、のっちゃんを怖がらせない程度まで離れると、のっちゃんとマナの間で向き直り、深く深く一礼しました。




「マナ様はご存知ないかもしれませんが、ご主人様……のっちゃんの忠実なるしもべにしてギフトがひとつ。【スターダスターマイン】のマインと申します。この度はまことに勝手ながらわたくし自身のギフトを発動させてしまい、大変心苦しく思っております」



どのあたりが忠実なものかと、ジト目なルプレは相変わらずでしたが。

のっちゃんは何と言えばいいのか分からないのか、むしろどうにかしてくれとばかりにマインにあまり視線を合わせる事なく、ルプレやマナの方を見やっています。


何故死に戻りする事となったのといった疑問はあるようですが。

それに対する非難の気持ちは見ている限りではあまりないようでした。


何か理由はあるはずだと言った信頼のようなものだったらよかったのですが。

恐らくは何に憤り怒ったらいいのか分からないのでしょう。

その代わりにマナの知らない死に戻りに至るまでのことを聞いてきたのは、案の定マナでした。




「ほうほう。またまたルプレちゃんとは違うタイプだねぇ。いいとこのお嬢さまかな。妖精さんって言うよりドールみたい。……っていうか、ルプレの時もちょっと思ったけど、のっちゃんてこういう感じの趣味もってたんだねぇ。けっこう意外だわ」



まぁ、いくら仲が良くても全ての趣味を晒す必要なんてないんだけどさ。

などと、拗ねるというよりは新たな発見に感じ入っている風のマナ。

彼女からすれば死に戻りの原因やマインの存在より、やっぱりのっちゃんの事の方が気になるようです。



自身で言うのもなんですが、何と表現すればいいのか、のっちゃんは想われてますねぇ。

どこがそんなに良かったのか、一度聞いてみたい所ですが。

そんなマナに微塵も気づいた様子のない(あるいは気づいた上でスルーしているのなら大したものですが)のっちゃんは、マナの言葉にそこでようやく我に返ったみたいにはっとなって反論しました。



「こういうカンジって何だよ。そう言う曖昧なの嫌だって言ってるだろ。……つーかおれは知らないから。勝手に現れて勝手にまとわりついてきただけだし」


まるで昔からそんなやりとりがあったみたいに、いつか聞いたような言葉を吐くのっちゃん。


そんな口ぶりも無意識なもので、のっちゃんは恐らく気づいていないのでしょう。

代わりにはっと息をのむマナと、あからさまに悲しそうに顔をくしゃくしゃにするルプレがいました。

マインもルプレほど感情が表に出るわけでなないようですが、はっきり言われて傷ついたのは確かなようです。



もうらしく、ちんやりとした空気が流れて。

のっちゃんも流石に言わなくてもいい事を口にしてしまったのに気づいたようです。



そこで気を遣うと言うのも成長の証なのでしょうか。

あるいはやっぱり元々優しかったからなのか、珍しくも慌てた様子でのっちゃんは言葉を重ねます。




「ち、ちょっと。なんだよ。やめろよ。悪かったって」

「ごめんなさい。わたし調子に乗ってたかも」


結果、何故だか二人に謝られて。

ルプレもマインも恐縮してしまいます。


ルプレなんて、

「何をだよっ、傷ついてなんかないんだからな!」

と言いつつ自爆してあたふたしていました。



そんなやりとりを眺めているのも、まぁ微笑ましくはあるのですが。

だからこそ償いをしなくてはとマインは改めて口を開きます。



「言い訳は……いたしませんわ。わたくしたち自らの意思で勝手にこうして出しゃばり、あろうことかご主人様に苦痛を、死に戻りを与えてしまいました。このすべてに対して責任を負うべきだとおっしゃるのならば、その通りにいたしますわ。元よりわたしのすべてはご主人様のもの。どうぞ、ご主人様のお好きになさってくださいませ」



失礼にならない程度に両手を広げて、のっちゃんに身を任せるような仕草。


マインとしては、その言葉に嘘偽りなく。

究極にはこの身を捧げても、と言う気持ちもあったのですが。


のっちゃんがそのような事をするはずがないと、確信を持っていたのも確かでありました。



ずるいと言えばずるいですかね。

とにもかくにも、優しいご主人様との落としどころを探るやりとりだったわけですが。


なんとはなしにマインは、ギャラリーが二人そこにいたのを失念していたようで……。





          (第36話につづく)







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