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第三十三話:どうしようもない彼は思いもよらないとばっちりを受けて死に戻る



「世界からの脱出?」


それが一体どんな意味を持つのか。

まさか知らないわけじゃないでしょう?


単純になんでそんな事を言うのか、疑問だったのでしょうが。

その一言には最初にのっちゃんの目的を聞いた時のよっし~さんと同じような凄みというか、怖さがありました。



それはきっと、例の何かを代償にして、というものからくるのでしょう。

確かに異世界間移動など、下手すれば世界を壊しかねないエネルギーが要るのだから神経質になっても仕方がないと言えます。


オフレコですが、私達の目的の一つにそんな世界に影響を与えかねないものを防ぐ意味合いもあるのですが、まさかそれを説明するわけにもいきません。


ここはもう一度ルプレの誤魔化しを期待していると、しかし誰よりも早く動いたのはおかっぱの少女の、肩口からこちらを見ている気がしなくもない黒猫さんでした。




「みゃん」


たしっと柔らかい着地音とともに、全く警戒する素振りすらみせず、こちらへと近づいてきます。


可愛いものに目がないマナはもちろん、同じ素養が間違いなくあるよっし~さんも息を飲んでその行動を見守っています。

もしかしたら、向こうさんからもふもふされに来たのではと、期待していたのかもしれません。



しかし、黒猫さんがやってきたのは、のっちゃん……正確にはルプレの所のようでした。




「な、なんだよ黒いの、やるのかっ」

「みゃ? みゃみゃん」 

「あん? ふぁみりあだぁ? よくわかんねーが、あたしの主はここにいるだろ」



何故か照れながらルプレはそう言ってわざわざのっちゃんの足首あたりまで降り立って、げしげしと蹴り付けています。

その度に、やっぱり星が舞い、だんだんと存在感が増してくるのはさすがののっちゃんでしたが。



「みゃ? みゃんみゃんみゃん!」

「じゃ、そっちで隠れて見ているやつもそうかって? なに、あんたマインのやつが見えるのか! どこにいる!?」



とてもとても人らしい黒猫さんと、うちのツンデレ妖精さんの、見てるだけなら微笑ましいやりとり。

それだけだったのなら、いつものように第三者ポジションで生暖かく見守っていられたのですが。



―――言うに事欠いてルプレが口にしたのは『わたくし』の名前でした。



地の文に突っ込むなど、物語の登場人物にあるまじき行為です。

私、嫌いなんですよね。地の文に作者が介入してくる系のお話。


……って、まさか現状の『私』を目視できる存在が居るなどと信じられなくて。

思わず動揺してメタな発言をしてしまいました。


どうしてそこまで動揺しているかって、まず間違いなくこちらが見えている黒猫さんが、確信を持ってこちらにひたひたと近づいてきたからでしょう。

猫は見えないものが見えるってよく聞きますけど、それって本当の事だったんですね。





「みゃうみゃう! (君は……何だ? 高次元の存在か?)」


そんな風に混乱しているうちに自体は動きます。

可愛らしく勇ましい猫の鳴き声とともに、妖艶で味わい深い、プロの方のような男性の声がサラウンドで聞こえてきたではありませんか。



『ちょっ……え? 何で見えてるのですかっ。あ、だ、ダメっ。そんなとこ触るとっ!』


しかも、ルプレと同じように一応用意されている『私』の人型アバターの顔めがけて飛びついてきたではありませんか。


ちょ、ちょっと! 首筋弱いんですよっ。

そんな、ダンディな声で囁かないでくださいっ。

……私の混乱はさらに増し、思わずずっとオフにしていた音声……声まで出てきてしまう始末。



「てめぇ、マイン! そんな所に隠れてやがったかぁ! いい加減あたし一人じゃしんどいんだよっ! 姿を現せっ。てめっ、このう!」


そこに、鬼の首取ったかのようにルプレまで加わってきます。

っていうか、気持ちは分かりますが、何とも酷い言い様です。


そもそも私達三人は、主さま(のっちゃん)の能力そのものであり、その埒外な力の特性上、それぞれ意思を持ったにすぎません。


オーヴェは存在あれどまだ眠ったままなのでいいのですが、元々ルプレみたいにのっちゃんの前に顔を出すつもりなどなかったのです。



一見、無頓着でドライな印象を受けるのっちゃんですが、身内には深い愛情を持つお方であるからして、私達が出しゃばれば本来の目的……いろんな人と出会い、救い助け、愛を育む一路が疎かになってしまうかもしれません。


いやだ、知らんと口や態度で表しても、きっと私達を捨て置く事はないでしょう。

一応、のっちゃんの分身みたいなものですからね。それくらいは分かるのです。


でも、だからこそ根本ではのっちゃんに一番近いルプレは我慢できなかったのでしょう。

のっちゃんを、ただ黙って見守り続けているのは。




「みゃ、にゃっ、みゃみゃん! (そうやって俯瞰してるってことは、もしかして世界同士の移動とかできたりするんじゃないか? 頼む、教えてくれっ)」

『ちょ、ちょっと! とんだイレギュラーですねっ。階位が上の存在に接触さえできるなんてっ』



一言二言の鳴き声なのに、ぞくぞくする長ゼリフが私を襲いました。

頼み込むその様子が、先ほどより幼く聞こえ、それが余計に私にダメージを与えます。



「上から見てるんじゃねぇ! さっさとおりてこい!」


我慢できなくなって、勝手に降りていったくせに!

あなたがそれを言いますかっ。


加えて、ふかふかの感触が、離さないとばかりにさらに強くなるからたまりません。

……というか、世界間移動がそんなほいほいできたら苦労はしませんよぅ。


いや、まぁ。主さま(のっちゃん)が条件さえ満たせばできるんですけどね。

さすがにそんな身も蓋もないこと、言えません。



『ダメなんですっ。まだその時じゃないんですって! ……ひゃう!? だ、だめっ。……くっ。こうなったら非常手段ですっ!』

「なっ、これはっ!?」


マジかよ、とばかりにルプレが叫びます。

それは、本来御法度のはずの死に戻りを、私自ら発動しようとしているからでしょう。



何故ならば、得体の知れない艶かしい黒猫さんが、怖かったからです。

このまま触れ合い話を続けていたら、主さまをないがしろにして彼についていってしまいそうな自分を幻視したのです。


相当なカリスマ……きっと何処か違う世界の主人公に違いありません。

主さま(のっちゃん)に引けを取らない輝きを放っています。


しかし、私はあくまで主さまのための存在であり、主さまのためにしか力を使いたくありません。

故に緊急手段なのです。


どうやってこちらの世界にやってきたのか分かりませんが、引き離し元の世界へ弾き出すにはこれしか方法がありませんでした。




『緊急回避!【スターダスターマイン】発動しますっ!』



迸る閃光。

止まる世界。

……そして、ある意味代償とも言え、きっかけ(スイッチ)とも言える、力のオーバーフローによる主さま(のっちゃん)の爆発四散。



―――何も関係ないのに、なんでおれが……。



その瞬間の、とばっちりで呆けるしかないのっちゃんの顔が、どうにも焼き付いた離れません。


痛みがないとはいえ、やってしまいました。

気が動転していた、と言うのは言い訳にはなりませんかね。



これは、ちょっと、ええ。止む得ませんね。



お詫びというか、責任を取らなくては……。




          (第34話につづく)








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