第三十二話:どうしようもない彼は、同族嫌悪のイレギュラーに遭遇する
喜望ビルの入口で、門番めいた仕事をしている鶴林一太さん。
よっし~さんが上司というか、偉くて有名な人らしく.
敬礼などしてみせて旅立とうとする一行を見送る様は中々に驚かされましたが。
そんな彼らに照れて戸惑うよっし~さんを、マナがからかう仕草を見せるよりも早く。
ちょうどのっちゃん達が、この世界に降り立った辺りで。
一行はこちらのメンツに勝るとも劣らない、濃い三人組? と鉢合わせする事になりました。
今思えば、それはまさに。
全くこちらに気取られず、いきなりそこに現れたかのようで……。
「アキラちゃん。なの……?」
どうやらその一人、三人組というか黒ネコさんと、空飛ぶ青くてまん丸のメタリックなお人形さんと、黒髪おかっぱの表情の変化は少なくとも可愛らしい少女の組み合わせなのですが。
その中の唯一の人間であるといってもいい、おかっぱの少女は、よっし~さんのお知り合いらしく。
だけど幽霊にでも会ったかのような顔をして、呆然とその名を呼んでいました。
「えっと……そうだと言えばそうなんですが、ちがうと言えばちがうような……」
対するおかっぱ黒髪少女は、よっし~さんと同じく、まさか知っている人に遭うとは思ってもみなかったらしく、戸惑いながらも僅かに苦笑を浮かべていました。
肯定も否定もしない様子は、ある意味禅問答のようでしたが、その声は甘く、かつクールで。
これすなわちマナの琴線に触れてしまったようです。
まさにタイプだとでも言わんばかりに勢い込んで、二人のもどかしげなやりとりに割って入りました。
「おおっ。日本人形みたいなおかっぱ娘に、某魔法少女の使い魔っぽい黒猫さん。……それと、えと。宇宙人? あ、いや。ロボットなのかな? 組み合わせはともかくとして、間違いなく主役クラスの登場人物じゃない、そう思うよね。のっちゃん」
いえ、割り込んだというよりは、マナとしてはのっちゃんとこそこそ盛り上がるつもりだったのでしょう。
しかし、元来声が大きく、おれにいきなり話をふるなとノリ悪くつれないのっちゃんのおかげで、話の腰を折る形になってしまったようです。
直ぐにそれに気づき、マナが久しぶりの再会を邪魔してごめんなさいと誤魔化し笑いを浮かべて一歩下がると(その際、のっちゃんを叩いて星を出すのは忘れません)、はっとなったよっし~さんが改めて言葉を続けます。
「アキラちゃん。今までどこにいたの? ちょうどこれから学園か病院の方に向かおうかって思ってたところなのよ」
この世界が現状になるよりだいぶ前に会ったきりの、二人の再会のようです。
物語の登場人物、しかも見た限りメイン級の人物。
よっし~さんの話を聞いて、内心どうしようか悩んでいたマナにしてみれば、いきなりの朗報と言えるでしょう。
せっかくだからのっちゃんと仲良くしてくれないものか。
さてどうするべきかと考えている中、やりとりは続きます。
「……信更安庭学園からほど近い、海の遥か下の異世をご存知ですか? そこは黒い太陽から身を守るシェルターのようになっていて、金箱病院地下もそこにつながっていたのです」
思っていたよりも饒舌に。
だけど会わない時間がそうさせたのか、どこかよそよそしさを感じる丁寧さで、のっちゃんやマナにはちんぷんかんぷんな地名を出すおかっぱの少女。
説明口調のそれに、真実かどうか分からない雰囲気を感じましたが、どうやらよっし~さんには心当たりがあったようです。
特に疑問に思う様子もなく、頷いてみせます。
「ああ、そうだったわね。その場所ならばここより多くの人がいるかもしれない。この世界から脱出する手がかり、掴めるかもしれないわね~」
あっさり、いきなり、そんな。
のっちゃんとしては望むところなのですが、マナもルプレも内心ではちょっと待って早すぎるよ、と言った所でしょう。
この世界から脱出するのは、最終的な結果のおまけみたいなもので、やるべきことがある。
はてさて、早くも希望に満ち満ちている顔をしているのっちゃんを脇目に、どうだまくら……説得すべきか二人で顔を見合わせてアイコンタクトをしていると。
よっし~さんの言葉に今度はおかっぱの少女が首をかしげました。
その際、黒猫さんとロボットが何も言わずこちらを見ている気がして。
正直嫌な予感がしたのは否めませんでしたが……。
(第33話につづく)