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第二十八話:どうしようもない彼は、ラッキーなスケベを回避しようとする(できるとは言ってない)



「……つまり、おれは何をすればいい?」


それは、ある意味もっとものっちゃんらしくシンプルな答えでした。

メンチ切り合うのすらやめて、やっぱりわたし、あたしがいなくちゃダメかと二人に思わせてしまうくらいには。


鈍感で難聴系の主人公によくありがちな展開ですね。

逆説的に言えば、それすなわちのっちゃんの主人公的ギフトなわけで。

あの、文字化けして読めない三つ目のあれです。

ここではあえて三人目と言うべきでしょうか。

能力は分からずとも、彼女の名前は知っています。


―――オーヴェ。


彼女にのっちゃんが気づきその名を求める事があれば、きっと状況も劇的に変わってくるのでしょうが。

今はまだ事の成り行きを見届けていきたいですね。



一体おれは何をすればいいのか。

そんなのっちゃんの言葉に対し、まだそんな事を言っているのかとぼやく方もいらっしゃる事でしょう。

しかし、普遍的でない主人公である事を知っている私達にとってみれば、それは大きな進歩でした。


例えて言うなら……こうなればもうこのステージはクリアも同然。

実際はそんな事はないどころかまだまだ長くなるのでしょうが。

マナもルプレも、大げさでなくそれに近しい感情を覚えていたのは確かで。

ここからがスタートラインだとは口が裂けても言えません。



当然のっちゃんは、各々の思いなど知る由もなく。

言われた通りかつての喜望の名を冠した人間さんたちの最後の砦の中、この舞台に残された【ルーザー】の一人、『よっし~』さんへと会いにいくことにしました。



前のループでは、何かががんじがらめに封ぜられていた、ガラス張りの部屋がある地下二階で邂逅したということで、同じ場所に向かったわけですが。




「よっし~さん、いないね」

「世界線が、主サマの行動で変わっちまったからなァ。それ以前にここに来る時間も遅いしな。そんな気はしてたよ」

「……なら、下の階に行ってみよう」


よっし~さんがそこにいると、のっちゃんに確信があったわけではないのでしょう。

しかし有無を言わせないそれは、よっし~さんと言うよりも、一人で向かった先にあったもの……あるはずのない11階とそこの住人が、この世界……物語において重要な位置にいるというのを感じ取っていたからなのかもしれません。




「地下? 地下にキープレイヤーの娘がいるってのか?」

「あー。そう言えばのっちゃん言ってたっけ。地下にワープゾーンがあって、ワープしたらそれが罠で死に戻りしたのよね」


マナの言うそれは随分とざっくばらんなものでしたが。

一人で選択肢を選び失敗してしまった後ろめたさのあるのっちゃんにしてみれば、曖昧に頷いてみせることしかできなくて。

 


「ワープて。簡単に言いやがる。ゲームじゃあるまいし。そんな気のきいたもんが存在するのかよ?」

「罠だったんだから、気はきいていないでしょ。でも怪しいのは確かよね。どうせだし寄ってみるのはありじゃないかしら」



肝心ののっちゃんは気づいていませんが、マナ自身も気安いルプレとのやり取りで、素の自分が出てきてしまっているのに気づいていないようです。

まぁもっとも、のっちゃんがそれに気づかないのは、その素がより馴染み深いと言うのもあったでしょうが。





そんなわけで前ループのとは180度違う賑やかさで。

のっちゃん達はエレベーターを使い、地下10階にまでやってきました。


元々、今は使わない過去の資料や、備蓄食料、水などを保管して置く場所なだけあり、人の気配もなく静かです。 

加えて、それらの仕舞われている部屋には軒並み鍵が掛かっており、入ることもままなりません。

 



「なんつーか、イメージ通りの辛気臭ぇ場所だなァ」

「お役所の地下って感じだよね。夏はひんやりしてて気持ちいいの」


聞こえるのはマナとルプレのそんな会話ばかり。

のっちゃんは特に会話に参加することもなく、二人のやり取りを耳にしながら迷いなく鍵が閉まっているはずの部屋の一つに向かいます。

 


どこか生活感のあった、だけど時の止まったかの如き一室。


その奥にある、簡素なベッドの下。

のっちゃんの目的はその先にいる頭大の喋るフィギュア達。


もう進む道は分かっているんだぞと、のっちゃんなりのドヤ顔で確信を持ってドアを開けようとして……寸前で手を止めました。



のっちゃん的に見て、嫌な予感がしたからです。

それは正に、のっちゃんには王道が通じない主人公補正、ご都合主義が通じない証左とも言えるでしょう。



「どうしたののっちゃん。ここに何かあるの?」


問うマナに、のっちゃんはもったいぶってひとつ頷いて。



「……ここが目的地だから」


勝手知ったると言う事で、無意識に無造作に扉を開け放とうとした自分を、そんな呟きで自制するのっちゃん。


わざわざその事を口にしたことで、マナもルプレも首を傾げていましたが。

特に意味はないなどとは言えるはずもなく。

改めてのっちゃんは強めにその鉄扉をノックしました。



「失礼しますっ」


さらに、のっちゃんにしては大きめなそんな呼びかけ。


数秒の静寂。

返事はありません。



「じゃあ、入るぞ……」


これだけしっかり予告して待ったのだからお約束は起こらないはず。

のっちゃんが自分にそう言い聞かせていたかどうかはともかくとして。


ノブに手をかけ、一番に部屋に入っていきました。

急にかしこまって、どうしたのかと首を傾げたままマナ達がその後を追っていって……。




           (第29話につづく)







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