第二十四話:どうしようもない彼は実の所、妄想の具現化が得意だった?
ある意味正式に新たな仲間、『ルプレ』が加わったその時。
かしましのパーツが一つ増え、そんな喧騒も悪くないと思いつつも。
のっちゃん達は【ボレロ・アンフラメ】の核があったその場所を脱出しました。
初めは、マナの瞬間移動の魔法を使う予定だったのですが、何だかんだいってルプレが気を使ったようです。
山中の洞窟には、幸いにも少し岩をどかす程度で出られる場所があり、罵り合いつつも友好を深めながら【ノーマッド・レクイエム】がどうなったのかを知るためにと、外に出ました。
「……ふぅむ。さすがに全滅するまでには至らなかったようだけど、とりあえず災厄としての反応も消えているようだし、しばらく復帰は無理だろうな」
「なるほどなるほど。つまりこれで『喜望』ビル篭城戦は回避できたって事でいいのかな?」
「人知れず勝利ってやつだな。あたし的に言えば、デッドオアアライブの関門を、二つ突破したって事になる。上出来だっていいてぇとこだけど、死に戻りを考えると最終的にはすべてを一発でクリアしているように見えるんだよなぁ」
マナとルプレが言うように、火山口の周りを未練がましく徘徊するような虫達の姿がまばらに見えますが、災厄としての力は失っているらしく、ぶつかり合う事で全く影響がないわけでもなかったのか、火山口も大人しいものでした。
当然脱出するにあたって【挑発】スキルはオフにしてあるので、あれだけ中でやらかしたのにも関わらず、再び飛んで喜望ビルに戻ろうとするのっちゃんたちを咎めるものはいませんでした。
「ん? その言い方だとルプレちゃんものっちゃんが死に戻りするとのっちゃんのこと追えなくなるの?」
「ちゃん付けすんなって。……あー、ていうか厳密には主が【スターダスター・マイン】を使うと、あたしが座標認識できなくなるくらい分解されるっつーか、ちっちゃくなってるだけだからな。主人公の所在を見失ったから、どうするかっていうゲーム的理屈で動いてんだ。所謂セーブポイントに戻るってやつだな。死に戻りっつーより、時間戻しなのさ。だから今後主が戻れば、あたしはこの世界線に取り残されちまう。あんときのマナと一緒だな。残されたあたしがどうなっちまうのか、想像はつかねーけどさ」
「……あー、なんて言えばいいのか、ご、ごめん」
「のっちゃんも、そんな身も蓋もなく謝んないの。もう、恥ずかしいっ」
お互い、あの時の狼狽ぶりを思い出したのでしょう。
行きと同じ、のっちゃんの脇を抱えた状態でのやりとりはなんともシュールですが。
マナの頭上で羽休めというか落ち着いていたルプレは、やっぱり自分で振っておきながらその微妙な空気を振り払うかのように口を挟みます。
「別にあたしは覚えてたっていいと思うんだけどなぁ。どっちかっていうと、死に戻りの主導権はマインの方にあっかんな。どうにかしろよおいっ。てめえ、きいてっか! っていうか主、マインのやつもアバター化してくんない?」
ルプレは辺りを見当違いの所をきょろきょろと見回し、そんな事を言います。
「マイン? それがもう一人の、のっちゃんのギフトの名前? っていうか、もう一つにも人格あるんだ」
「お互い干渉しあってるあたしやマインどころかオーヴェのやつだって顕在化、偶像化は可能のはずだぜ。ほかの転生者にできるかどうかは知らねーけど」
そこで、あまりにもさりげなく自然に。
未だ知られず、分からないはずのもう一つの名前を上げるルプレ。
「ん? もしかして三人目の子、どんなギフトだか分かったりするの? 前に【鑑定】させてもらったけど、文字化けして分かんなかったんだよね」
マナだけでなくのっちゃんにも読めず、分からなかった三つ目のギフト。
もしかして分かるのかとのっちゃんも顔を上げると、ルプレはあーうーと唸り、ちょっと空を見上げて考え込んで。
「言われてみると確かに情報がロックされてんな。現時点では主にも、名前くらいしかわかんねーんじゃねーかな。おそらくだけど、あたしやマインとは違って【挑発】スキルに近い、常に周りに影響を与えるタイプのギフトだと思う。詳細が分からないのは、それがわかっちまう事で効力が弱まる可能性があるからじゃないかな。……どうせ主のギフトの事だから、大層パンチの効いたアクの強すぎるハズレ能力だろうけど」
今まで喋ろうにも中々喋らせてもらえなかった、その鬱憤を晴らすかのように。
がははと似合わなすぎる笑みをこぼし、お前が言うなというか、自虐的なネタを口にします。
「【挑発】スキルと似てるって言われるとやばそうな雰囲気は伝わってくるよねぇ。で、それで? のっちゃん、そもそもどうやってルプレちゃんを、こんな可愛いスタイルで具現化したの? もしかしてのっちゃんのイメージ?」
「はっはぁ! 褒めてもなにも出ねえぜこんちきしょうっ。意外と主さま、こーゆー才能あんじゃねえの? っていうかそれよりもさ、さっさとマインのやつ呼んでくれない?」
かわいいと言われて、素直に照れるあたりはちょろい……じゃなかった、ルプレも見た目よろしく可愛い所があるようですが。
はっきり言ってまったくもって二人の言っている事に身に覚えがないというか、さっぱり分からないのっちゃんは、ぶら下げられたまま、ぶんぶんと首を振るしかありませんでした。
「……ええと、ごめん。ルプレもいつの間にかいたし、よく分からん」
「いつのまにかっておぉい! 一応ちゃんとあたしの意思で行動していいかって許可とっただろうがっ」
「うーん。そんな気もするようなしないような……」
「ははん。なんとなくそんな事だろうと思ってたけど、ルプレちゃんたら、のっちゃんがつれないから我慢できなくなって出てきちゃったんだぁ」
「むぐぐぅ。あたしだってそんなつもりなかったんだよぉ。でも何だか辛抱たまらなくて……はっ。これがもしやオーヴェの能力かっ。うむ、そうに違いないっ」
マナにはその時の、我慢できなくてしょうがない気持ちが手に取るように分かりました。
それでもニヤニヤが抑えれれずルプレをからかっていると、ルプレは唸って白旗を上げ、そんな出任せめいた言い訳を口にしています。
確かに、のっちゃんのギフト達に初めからここまでの自意識があったのかと言えばそれは違うのでしょう。
実際、ルプレの言う通りオーヴェの能力が関わっている可能性は十分にありえて。
「それなら、マインちゃんもすぐにしびれを切らせて出てくるんじゃないの? 危なっかしいのっちゃんのこと、見てるだけってのもそれはそれで結構しんどいだろうし」
結局、マインを呼び出す事は一旦お預けとなりました。
でも多分、ルプレみたいに口が悪くても心配性でお節介世話焼きな、とっても人間らしい性格をしていないと思うので、出てくる機会はないと思いますけどね。
あるいは、のっちゃんが気づいて何においても求めてくれるような事があれば。
また話は別なのでしょうが……。
(第25話につづく)