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第二十三話:どうしようもない彼はヒロインズが似た者同士だって気づいていた



『―――【ボレロ・アンフラメ】、【ノーマッド・レクイエム】。共にに復活までしばらくの時間が必要になります……』



聞こえてきたのは、そんな【リアル・プレイヤー】……ルプレの声。



「……え? えっ?」


もしかして死に戻りしていなかったのか。

落ち着かなくなってマナが辺りを見回していると、氷やら煙やらで視界の悪かった水面が、波打つのがわかります。

すわ、もうガーディアンが復活したのかと緊張解かずに水面を見つめていると。




「……ぶはっ、げほぅっ、げぼっ」


息ができないのに苦しくなかったのが災いしたのか。

水面に飛び出し、思い切り息を吸って変な声出した噎せているのっちゃんがそこにいました。




「の、のののっちゃん! 死に戻りしたんじゃなかったの!?」

「おおうっ。……いや、その。【身代わり】ってスキル使ってみたんだ。おかげでうまくいったよ。そ、そのなんて言えばいいのか……かっこよかったぞ。めっちゃ強い魔法使いみたいで」

「み、見てたのっ!? うそっ。だったら言ってよ! な、なんか恥ずかしっ」



【身代わり】の効果のほどが知りたかったと言う事と、ルプレが面白いものが見えるからと言われた事で。

のっちゃんは【身代わり】の変わり果てた姿を見て激高し、自分のために怒ってくれたその様を、水中からしっかりと目に焼き付けていました。


今までののっちゃんならば、さっきも言ったようになんでおれなんかのためにと首を傾げる所でしたが。実は水中でルプレに諭されたのです。



―――てめぇの卑下なんぞくそくらえなんだよ。自己犠牲のお人よし。そういう一度かかっちまったら本人もどーでもできねぇビョーキなんだから、主にできることなんざそういくつもねぇんだ。感謝するか、褒めるか。それだけでこのしょーもねぇ患者たちは幸せなのさ……。

 

 

複数系なのは、その厄介な病気にかかってしまっているのがマナだけじゃないから。

そんなルプレのアピールも当然のごとく伝わってはいないわけですが。

のっちゃん自身が有り得ないと思ったって、諦めて受け入れるしかないということは理解したようで。



のっちゃんにしては本当に珍しい、照れ隠しのそんな言葉。

マナとしては何だか何だか恥ずかしいような言葉も口にしたような気がするし、勘違いで醜態晒すわで、全身ゆでダコ状態。

穴があったら入りたいといったところでしょう。



「なんて言えばいいのか。【身代わり】のこと説明しておけばよかったな。すまん。【身代わり】のスキルって有名だし、マナも知ってるんじゃないかって思っててさ」

「いや、うん。【身代わり】ってスキルはもちろん知ってるし、何気にのっちゃんのスキルってギフトよりすごいんじゃないのって最近気づいたけど……あ、のっちゃんに気ぃつかわれてるぅっ! なんか泣きそう」

「いや、だからごめんって」


羞恥が上限にでも達したのか。

今の自分の……この時系列においてのっちゃんが生きていた事に安堵したのか、本当に泣きべそをかいているマナ。


涙など、とんと縁のないのっちゃんにしてみれば、それはかなりの衝撃だったのかもしれません。

アタフタ、おどおどしつつぺこぺこしています。



それでも、そんなマナの涙が泣き笑いに変わる頃には、会っては逃げ出していた頃と比べても格段によい雰囲気が二人を包んでいた事と思います。


しかしというか当然というか、そんな雰囲気を断固ぶち壊したい(自分でけしかけた部分もあるくせに)、小さく透ける七色の羽を持つものがいました。

 



「うおらあああっ、そうやって油断すっとすぐにイチャイチャしやがってぇ! あたしの目が黒いうちはうざいくらい邪魔してやっかんな~、こなくそーっ!」

「うひゃっ。で、な、何? 妖精さん? もしかしてフェアリーテイルとかいう災厄?」

 

ちょうど、マナの額に張り付く形となったため、ほんのり暖かくて柔らかいルプレの感触に、マナは思わず飛び上がります。



「いや、違う。この子はその、ルプレらしい」

「らしいっておぃぃ! クソ主っ! てめえが今のこのモードにしたんだろがいっ。他人事のようにいうなぁっ」


がっと向き直ってキーキーとのっちゃんに講義し飛び回る様は、先程までの言葉だけのルプレとは似ても似つかない別物でしたが。

途中から人らしい気配も確かにあったし、物語としてはこう言う事もあるよね、なんてマナは自然と受け入れる事ができたようです。


むしろ、そう言うファンタジー脳というか、お話脳のないのっちゃんの方が、未だ受け入れるのに時間がかかりそうでした。



今も、七色透明の小さな羽を必死にばたつかせながら頭の上に降りようとしているルプレを、必死になって手で払っています。

あくの強い口調とは裏腹に、恐らくきっと主であるのっちゃんにくっついていたいというか、甘えたい部分もあるのでしょう。

そんな、ままならないルプレの様子に、マナが親近感を覚えるのは当然の流れで。




「ほほう。さしずめマスコットモードってやつかな? わかりやすくていいじゃない」


与えられたギフトは、その人の人となりが多少なりとも現れるといいます。

マナの自己犠牲が甚だしい性格は、まさにそのままギフトに反映されていると言えるだしょう。


となると、のっちゃんにもあんな可愛らしい部分があるのでしょうか。

傍から見れば、そんなものとは無縁の極地にいるのっちゃんではありますが。

マナは少なからずのっちゃんのそう言った部分を見出す上級者であるのは確かで。



改めて自己紹介兼挨拶……よりも先に、のっちゃんの周りを飛んで七色の鱗粉を振りまいている(この辺りも共通点でしょうか)ルプレの隙をついて、両脇をホールドする形でむんずと掴み、捕まえます。


それに、あからさまにほっとした様子ののっちゃんを見て、マナはいたたまれず思わず苦笑を浮かべていましたが。



「おいっ、このぅっ! はなせぇ! 天然ぶりぶり女めぇっ!」


当たり前のようについてでたルプレの毒に、その場の空気がびしっと固まります。

それは、普段空気の読めないはずののっちゃんが気づいて逃げ腰になるくらいには冷たいもので。



「んん~? それってどういう意味かな、カナ? まさかわたしのこと言ってる?」

「おめえ以外に誰がいるんだよぉ! 見た目ブリブリの女のくせに生臭さがまったくねぇ。あたし達と同じかよ。同族嫌悪? は、それこそまさかだぜ!」



ルプレや私達と同じ。

まるで幻想ファンタジーの生き物のような。

ルプレが、その意思を持った瞬間からマナに反発気味であったのは、主に対しての嫉妬だけではありませんでした。

ある意味、未知なるものへの恐怖に近かかったのかもしれません。



「いいたいことはそれだけ?」

「あうちっ! いた、痛いっ!? ちが、違うって! 実はほめてんだよ、一応これでもぁがががっ」


空想上の生き物のような清廉さ。

ルプレは一方でそうも言いたかったのでしょうが。

ついて出るツンツンな言葉ではそれを正確に伝えることはできず、だんだんとマナの手に力が入るのが分かります。




「……ああ、そう言う事だったのか。ルプレを見た時思ったんだよな。マナと似てるって」


髪色も見た目も大きさも違うけど、姉妹のように似ている気がする。

何でかは分からないけど、自分を構おうとする、近づく事も本当は憚られる可愛い娘達。

そこまでのっちゃんが口にできれば、また展開も変わっていたのかもしれませんが。



「「にてね(ないわ)ぇよっ!!」」


それこそシンクロして、一緒になってのっちゃんにそう言ってくるから。


やっぱりすごく仲がいいんだな、なんてどこかずれているようでずれていない事を思う、のっちゃんがそこにいて……。




           (第24話につづく)







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