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第二十二話:どうしようもない彼が星になった? 後のヒロイン達は



「ギオオオオォォッ!」



それからまもなくのことでした。

マグマの人型……【ボレロ・アンフラメ】のガーディアンとして、意思の一つとも言えるものがその場所にたどり着いたのは。


周りの岩を削り取り、背中から大量の水蒸気、氷の刃を生やしたそれは、初めにあいまみえた時から比べると、大分大きくなったように見えます。


のっちゃんの【挑発】スキルにより、ヘイトがのっちゃんに溜まりっぱなしなのをいいことに、マナによるかなり苛烈な……氷の刃による攻撃が加えられているようでしたが。


足取りは自重で重くなれど、ダメージを受けているようには見えません。

むしろ、ますます血気盛んに、昏い虚のような瞳をギラギラとさせ、咆哮上げ、のっちゃんを追い詰めようとします。



この世界そのもの、そのかけらと言ってもいい災厄の一つでありながら【挑発】スキルの影響を受けるのですから、のっちゃんの【挑発】スキルが凄まじいと言うべきか、それだけの意思があると言うべきか。難しい問題です。




「ギオオオォォォッ……」


そんなマグマの人型も、ようやくにっくき相手を行き止まりに追い詰めた事で、一息ついているようにも見えます。

あるいは、湖の中心で逃げもせずに浮かんでいる仇敵に対し、訝しんでいるのかもしれません。


事実、うつろでビー玉みたいな瞳をした(生ける屍っぽい)のっちゃんは、そこに追い詰められたものの焦りも何も浮かんでおらず、無感情な様子でマグマの人型を見つめています。

極めつけは幽鬼のごとく浮かんでいる事でしょう。


それが、のっちゃんが使おうと思ったスキルの正体でしょうか。

水面に立てるなんて、確かに有用かもしれませんね。


実はこの湖、途中で大分深くなっていて、のっちゃんのいるのはちょうどその真上なのです。

その深さときたら、大きくなったマグマの人型をすっぽり覆うほどで。

うまくいけば、マグマの人型を水の底に落とし込む事もできるかもしれません。



その辺りの事、気づいているのかいないのか。

マグマの人型はお構いなしに咆哮を上げて湖に飛び込んできます。


マグマの人型の体と、水が触れる事により、たちまち周りに溢れ広がる水蒸気。

一気に白く染まる視界。


深い深い霧のごとく、ほとんど見えなくなる頃には。

弾ける音を立てながらマグマの人型は肩まで沈んでいて。



それでもうつろなまま動かないのっちゃん。

このままあっけなく終わるのか。

……そう思っていた瞬間でした。


マグマの人型が、現れ出でた時と同じように、水面が一瞬にして赤く溶岩色に染まったのは。

それは、正しくも災厄が自然そのものであることを示す証左。


マグマの人型は湖面と一体化し、赤い波となってのっちゃんに迫っていきます。






「おいつい……たっ!?」


そして、時期が良いのか悪いのか。

マナがその場にたどり着いたのはその瞬間です。

災厄の波は、もう既にのっちゃんの目前までに迫り、波から人型の頭と両腕が生えていました。




「のっちゃん! よけっ!?」


バスン! と。

水蒸気と星屑の混じった、随分と軽い音。

気づけばマグマの人型により、のっちゃんの上半身がなくなっていました。


ギフトのおかげで、血は出ません。

ただ、無残を覆い隠すみたいに、いくつもいくつも水中に、輝きを増す星屑が待っています。



「ギオオオオォォォォンッ……っ!」



マグマの人型の、勝利の咆哮。

あるいはやっと攻撃が届いた事の喜びか。

勢い込んで残った半身に向かって更に腕を振り上げました。




「くっ……ああああああぁっ!!」


また、間に合わなかった。

ここにいるマナにとっては初めての事ではありますが。

通常ならばこれでルプレ……【リアル・プレイヤー】がのっちゃんを見失った扱いとなり、死に戻りが始まるはずです。


のっちゃんにとってみれば、何事もなかったかのようにセーブポイントに戻されるわけですが。

そうなると残された者達はどうなるのか。

折角なので、様子を見てみましょう。




ルフローズ・レッキーノよ! 愚昧なるものに絶対の鉄槌を! 【ルフローズ・アブソリュート】っ!」


それは、冷徹なる氷の姫のここぞのとっておき。

もう代償なんて関係ない。

瞳の色失い、自棄にも近いマナの行動。


今の自分とは違う別の自分は、過去の自分がのっちゃんのために生きるだろう事が分かっていても。

いや、分かっているからこその、置き去りにされ取り残された自分にできる事など何もないといった感情から来るものなのかもしれません。


その鬼気迫るマナの様子を、のっちゃんが見ていたらどう思うでしょうか。

きっとのっちゃんの事だから、おれのためにそこまでと心打たれるよりも早く、驚き慄き、自分にそんな想われる理由や資格なんかないと戸惑うのでしょう。




ある意味、常に余裕を持って動くスタンスでいたマナ。

そのリミッターを外した絶対零度の氷の波動は、のっちゃんの【挑発】スキルに夢中になっているマグマの人型の目を覚まさせ、注意を引き付けるくらいには、かのものにとって脅威となりうるものでした。


なにせ、マグマの人型……その背中を中心に辺りの水まで、空中に漂う水煙ですら凍らせようかという始末なのです。

残ったのっちゃんの下半身に向け、更に拳を叩きつけようとしていたマグマの人型は、その腕が動かなくなった事で初めてマナを認識したと言えます。




「ギオオオッ?」


故に、自分は何をしていたのかと、まるで我に返ったかのように振り返ろうとしたマグマの人型……ガーディアンでしたが。



「ああああーっ、震えっ、眠れぇぇっ!」


自分の命。

その灯火をそのまま叩きつけるかのように。

氷の波動込められし手のひらを、マグマで包まれし肌に触れる事構わず差し出しました。

じゅっと、マナの手が焦げ、溶けゆこうとするのは一瞬。

マナの手のひらから、幾重もの氷の柩が、蜘蛛の巣状に連なって広がっていきます。



「ギィッ? オオオォーンッ!」


それは、今までのものとは異なるマグマの人型にとって、初めての悲鳴でした。

赤色の肌はみるみるうちに青白く変わり、塗り替えるかのように全身を覆っていって……。



それがマグマの人型の頭にまで到達した瞬間。

のっちゃんの星屑撒くさいごにも似た、氷の結晶となって砕け散り、水面と一体化していきます。




「……これが、災厄。簡単には行かないみたいね」


一撃の元に滅したのか。

傍から見ればそうとしか見えませんでしたが、当のマナは警戒を解いてはいませんでした。


それは、よく考えれば当然のことなのかもしれません。

何故なら、マグマの人型はあくまで【ボレロ・アンフラメ】の核を守るガーディアンにすぎないのですから。


となると、完全に滅するには核を破壊する必要があるのでしょう。


……マナはそこまで考えて自分自身に首を振りました。

別に、そもそもが災厄を滅する目的ではないからです。


マナにしてみれば、のっちゃんのいない世界なんてもうどうでもいいと表現すべきなのでしょうが。

とにかくマナは目的を失っていました。



それでも、もう一つの災厄【ノーマッド・レクイエム】がどうなったのか、確認する義務がある。

そう思い立ち、【ボレロ・アンフラメ】によるガーディアン……先程のマグマの人型が蘇ってくる前にと、マナがなり切る人物を変えようとした時です。




『―――目標の30分が経過しました。二つの災厄を鉢合わせるという目標が達成しました。

【ボレロ・アンフラメ】、【ノーマッド・レクイエム】。共にに復活までしばらくの時間が必要になります……』

「……っ」


聞こえてきたのは、そんな【リアル・プレイヤー】……ルプレの声。

よくよく聞けば、その言葉は流暢で滑らかになっていて、どこか挑発的でさえありました。


というより、これはまだマナは知らなかったことですが。

のっちゃんの体たらくに堪忍袋の緒が切れて、素を出すようになっているルプレにしては随分とかしこまった言葉でした。


マナは、のっちゃんが過去……別の道に戻ってしまったのに、何故ルプレの声がするのかという、驚きに言葉を失っていましたが。

ルプレのそんな言葉は、のっちゃんが死に戻りしたと思っているマナに対してのからかい以外の何ものでもありませんでした。



のっちゃんが、死に戻りしてしまったと勘違いして悲愴な心持ちでいるマナに対してなんたる仕打ち。

ウマが合わないかどうかはともかくとして、やはりルプレはマナのことをいろいろな意味で意識しているようです。



多分、マナに早とちりさせてしまった事にすら気づいていないのっちゃんにしてみれば。

そんな二人の、のっちゃんを巡っての微妙な関係など、気づけるはずもないのでしょうが……。




          (第23話につづく)






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