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第十八話:どうしようもない彼は、ヒロインとの繋がり、その緒を掴めない



「……あれって、見た事のある山だけど。え? 火山?」


そこにはどこかの空撮か何かで見た面影が僅かにあるばかりで。

その岩肌には頂上のあたりから吹き出すマグマが、飴細工のような粘度をもって襲われています。



『目標マデ後500メートル!』


まさかあれが、災厄というものなのかと。

いい加減腕の痛くなってくる体制からマナを伺えば。


「うん。一度その七つの災厄ってやつを認識したからなのかな。『鑑定』でも出てるよ。【ボレロ・アンフラメ】。山を喰らい棲み着くマントルが意思を持ったもの。その地にあるものをすべてマグマの海に変えるんだって。防御する方法は二つに一つ。一つは山そのものに近づかないか、マグマに対処出来るくらいの大量の水……対になる海の災厄【ディープ・ブルー】を鉢合わせるか、ね」

『……ッ』


くすぐったい近さで、得意げに説明を始めました。

本来それはルプレの仕事のはずであるから、焦ったような彼女の吐息まで聴こえてくる始末。

今まさに、熱が伝わってくるマグマ溜りに近づいていなかったら、のっちゃんも懲りずにバタバタしていたかもしれません。



―――いい加減、開放されたい。

自分の意思でこうしてここまで連れてきてもらって、もうそんな事を考えてしまうのですから、さすがのっちゃんと言うべきなのでしょう。

今回はそれが功を奏し、スムーズに事が運んでいると言えばそうなもかもしれませんが。



「それでっ、ここから虫達をどう上手くかち合わせる気だ?」

「あ、あー。うん、そうだよね。分かってたよ。考えてなかったんだね」


それはこっちのセリフでしょうとばかりに、諦観と言うか苦笑いしか出てこないマナの返事。

そう返され、のっちゃんも初めて遅まきながらしっかり考えないままにここまで来てしまった事に気づかされます。


のっちゃんが顔を引きつらせ青くなる中、ある程度予想してなくはなかったマナは、自身のギフト……そのトレースできるものの中に、マグマに対抗できるものがないか思案していました。


ようは、逃げるのっちゃんと虫の大群達の間に、マグマ溜りを挟み込むような形にすれば良いわけです。

簡単ではありませんが、不可能ではありません。

ただ、それ相応の代償を払ってまで自分が何もかもやってしまっていいのか、そんな葛藤があったようで。


いよいよアドバンテージがなくなり、虫達の気配まではっきり分かるようになった頃。

ちょっと前に発せられた、マナに対してののっちゃんの言葉に対し、割って入るかのように、ルプレが口を開きました。



『【ボレロ・アンフラメ】。上田山尾根ノマグマ溜リカラ、100メートル程地下ニマグマノ入リ込メナイ場所ガアリマス。座標指定シマスノデ、ソコマデノ移動ガ可能デアレバ、二ツノ災厄ヲカチ合ワセル事ガデキルデショウ……』

「お、おう。そりゃいいな。何とかしてそこまで行けばいいって事だ」

「簡単に言うねぇ。まぁでも、場所さえわかってて、距離が対した事なければ、なんとかなるかもだけど」


縋るようなのっちゃんの言葉に、マナはまた苦笑。

でも案外、のっちゃんとルプレはいいコンビなのかもしれません。

全く別のアプローチで、代償なんてなんのその、なんて思えるくらいマナをやる気にさせるのですから。




「……よしきた。ここまで来たらやるしかないっしょ。能力の切り替えをしまっす。翼はなくなるけど、ちょぅっと我慢してね」

「へっ?」


のっちゃんにしてみれば、マナの能力の概要すら良く分かっていないので、唐突なその言葉に何が何やら、だったのでしょう。

しかし、それまであった不思議な浮遊感がなくなって落下し始めれば話は別です。




「ぅおっ!? おち、落ちてるっ!」

『―――目標、【ボレロ・アンフラメ】マデアト50メートル……40メートル……!』


ルプレの作ってる無機質な声とともに、流石に焦り足をばたつかせるのっちゃん。

対するマナは、何も言わずより一層強く、のっちゃんを抱え抱きしめました。




「大丈夫。すぐ終わる」

「……っ」


そんなはずはないのに。

後ろでのっちゃんを抱える人物が、今までのマナとは別人になってしまったかのような、アルトの声とその気配。


実際、のっちゃんには気配が変わっただなんて分かるはずもないのに……そう錯覚するくらいに何かが変わったのを、確かに感じ取っていたのです。



しかし、そんな言葉があったのはいいものの、一向に止まる気配がありません。

もう熱気が伝わって来る程になっていました。

その背後からは、確実に虫の大群達が迫ってきています。


一体何が大丈夫で、何が終わるのか。

のっちゃんが少しばかり考え込みつつ、今まで頑なに拒否しつつも受け入れざるを得なかった死を、結局今回も受け入れようとした時。



「……【リィリ・スローディン】」


何語か、聞いた事があるようで、ないような言の葉。

まるで歌ってでもいるかのように、一番近い場所から聞こえてきました。


それが所謂魔法の名称、魔法の一種であることなど、のっちゃんには分かるはずもなく。

理解の埒外に未だあるものでしたが。

それでも確かにたった一言を歌だと感じたのは、聞いた事のないはずのそれを、何故かどこかで聞いた覚えがあると感じたからです。



(おれ、もしかして忘れてる……のか?)


その歌のようなものではなく、マナ自身を。

マナはこの世界に来て、初対面のようでいて、そうではありませんでした。

のっちゃんは、マナの事なにも知らないのに、初めからマナがのっちゃんを知っている風だったのは確かで。


それは、とても悲しい事じゃないのかと。

今まで生きてきてあまり感じた事のない感情に襲われたのは事実のようで。


状況も忘れ、のっちゃんが頭を振ったその瞬間でした。

のっちゃん自身には分からないものの、マナとともに全身に七色の光……この世界で言うならば『アジール』、あるいは魔力と呼ばれる力のモヤが包んだのは。


そして、のっちゃん自身のギフト【スターダスター・マイン】により感覚の鈍くなっているのっちゃんが気づけるよりも早く。

(たまたま舞っていたのっちゃんから生まれし星屑は、七色のもやの中をたゆたっていて)

二人は忽然とその場から姿を消していました。



それは、所謂瞬間移動の魔法です。

しかも、自身だけに効果は及ばず、遮蔽物があったりして見えない場所にも移動が可能なスグレモノでした。


世界が世界なら、上級合成魔法とも呼ばれていたかもしれません。

この能力……魔法の代償はいくつかあれど、基本的なものは『記憶』です。

マナにとっては大事だけど、忘れてしまいたいもので。

マナにしてみればその代償はむしろ望むものだったのでしょうが。



少なくともこれで、のっちゃんが思い出しかけたマナとの関係、繋がりを知るための道行きが遠のいていってしまったのは確かで……。




         (第19話につづく)





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