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第十七話:どうしようもない彼は、お姫様抱っこを回避する



「んーと。まずは、【ヴァーレスト・ウィング】っ」

「……っ!」


それは、転生の神様から与えられたギフト名を謳う訳でもなく。

呪文や魔法詠唱にしては余りにも短い、そんな一言でした。


実の所マナは、のっちゃんの知らない内にギフトを発動していて。

たった今口にした言の葉はその付属品……あるいは、継続中の効果の一つに過ぎませんでした。


ただ、のっちゃんが一度、マナがそれを発動するのを目にしていたのは確かでした。

その時は猫耳までついていましたが、今そこにあるのはマナをすっぽり覆い包むくらいに大きい純白の翼です。



「さぁさぁ、これで目的地までひとっ飛びよ!」

「お、ああ。それ、飛べるんだな。……わかりやすくていいけど、それっておれにもつけられるのか?」

「いやいや。無理ですって。そんな事しなくたって大丈ぶい。わたしが抱えて運ぶから」

「こ、断る!」

「え~。なんでよー」



嫌な予感はしていたのでしょう。

見事、のっちゃんの勘は的中したようです。

翼をはためかせながらにじり寄ってくるマナに対し、さっきまでの威勢はどこへやら、脱兎のごとくダッシュで逃げ出していきます。

そんな事してる場合じゃないじゃないと、慌てて追いかけるマナ。


と、そこに。

敢えて二人のやり取りの中に割って入るようにして、ルプレの声が聞こえてきました。




『……【ノーマッド・レクイエム】接近中。後12秒程デ、接敵シマス』

「ほらぁっ、遊んでる暇ないよっ」

「遊んでるわけじゃ……ひぃっ。勘弁っ!」


相変わらず唐突な、目を見張るのっちゃんの逃げっぷりでしたが、時速にして80キロは出るであろう、マナのギフトによる翼も伊達であありません。


あっという間にのっちゃんに追いついたかと思うと背中から両脇に手を差し入れ、抱え込み、かっ攫うようにしてのっちゃんを捕まえると、ぐんと急上昇し空へと舞い上がります。




「のっちゃん! ルプレさんに方向支持してもらって!」

「うおぉっ、ち、近いっ! 息がっ!?」

「自業自得でしょっ!」

『……西南西、八時方向。前進シテクダサイ』



両脇持って飛ぶ事で、マナの言葉はのっちゃんのすぐ頭上を擽ります。

子供のようにジタバタと暴れるのっちゃんでしたが、マナも必死でそれを抑えつけるから余計に密着度が高まっていって。


結果、マナの言葉に答える形となったルプレがそこにいました。

やはり普段はマナを敢えて無視していたのでしょう。

しかし二人はそんなルプレに気づく余裕もなく、のっちゃんに至っては転生の神様に捕らえられた時のようにいくつもの星を撒く事でぬるりと抜け出そうとしています。



「ちょっとのっちゃん! どんどん高度上がってるから! 落ちたら大変だって!」

「……っ」


自ら死ににいくつもりかと。

マナが背後、眼下を指し示せば、そこには既に不気味な羽音の重奏とともに、多種多様……黒色が中心であるものの、色とりどりな虫達が迫ってきているのがわかって。


前回の死に戻りを思い出したのでしょう。

のっちゃんは観念したかのように大人しくなって。



「んじゃ、飛ばすよ! なるべく動かないでねっ」

「……うう~っ」


いかにも何か言いたげなのっちゃんでしたが、背に腹は変えられないと思ったようです。

おんぶや抱っこなどに比べたらマシかと判断したのかもしれません。


とは言え、恥ずかしいとか慣れないとか、その辺りに接触を避ける理由があるだけで、本当に嫌がってるわけでもないと言うのもあったのでしょうが……。






【ノーマッド・レクイエム】と呼ばれる虫の大群。

数を数えるのも億劫なほどで、見た目は巨大な積乱雲のようですが、その圧倒的質量、圧迫感がそう思わせるのか、あまりスピードが出ていないようにも見えました。

しかし実際は、翼を生やしたマナのスピードが、かなりのものだったからそう見えるのでしょう。


人ふたり分で、これほどの速度を出すには頼りないだろう翼。

翼そのものと言うより、やはり能力の効果として、超常の力で飛んでいると言うべきなのでしょう。


速度の割には風圧があまり感じられない事が、のっちゃんにもそう思わせていました。



―――マナの能力ギフト

のっちゃんがそれについて問いただす機会があるかどうかは正直微妙な所ではあるので、ここで解説する事にしましょう。


転生者はその神様により、三つのギフトと基礎となる三つのスキルが与えられ、スキルはその人の資質次第で新たに覚え強化できる、となっていますが。


スキルはともかくとして、マナにはギフトがひとつしか与えられませんでした。

しっかり三つもらっているのっちゃんが、才能とセンス溢れるのだという解釈もできますが。

その実マナのギフトは汎用性がきき、一つで三つぶんに値すると言ってもよかったからです。



その名は、【漣相小節イリシット・ノーブル】。

『鑑定』でもその実態を測りかねる力であり、示されたそれが真実の名であるとは限らないという一文がつきますが。


分かる範囲で説明すると、代価や代償、誓約を持って、それに対し可能な事が実現具現するというギフトです。

マナはその『可能なこと』を、自身の夢に指定しました。

マナの夢に出てくる、多種多様様々なことができるヒロイン達。

彼女らの力を借り、なりきる事で一つのギフトで十分足りうると判断されるくらい、そのたった一つのギフトを使いこなしてきました。


今、マナが成りきっているのは、『舞袖の天使』と呼ばれる存在です。

あくまで、そのひとかどの人物の能力を模倣しているのみで、人格や性格まで変わったりするわけではありませんが、色々な役に成りきれる素養があったからこそ、と言えるかもしれません。


ただ、のっちゃんの【リアル・プレイヤー】や、【スターダスター・マイン】にもマイナス要素があるように、マナのギフトにもそれなりにリスクがありました。


マナのギフトの場合、最初に述べた誓約、代価代償がそれにあたります。

詳しくはマナの根本に関わる事であるからして全容は把握できませんでしたが、トレース(なりきる)できる人物の数だけ、相当なリスクを背負っているのは確かでした。

ここでそれを語る事ができないのは、それすらも誓約、代償の一つだとも言えます。


のっちゃんがそれを知る事となったら、果たしてどんなリアクションを取る事でしょう。

流石にのっちゃんらしくはいられなくなりそうで。

それが嫌だからこそ、マナも何も口にしないと言えますが。



『―――目標接近! 【ボレロ・アンフラメ】マデ、1キロメートル弱デス』


もう開き直っていたのか、宙ぶらりんがそろそろきつくなってきたのっちゃんが、何か言うよりも早く、ルプレのそんな声が聞こえてきます。

翼を目一杯使い、ぐんぐんとスピードを上げ、【ノーマッド・レクイエム】……虫の大群を引き離しにかかっていたマナは、よし、とばかりに頷いてさらに加速します。


すると。

のっちゃんの故郷にもあった、首都近郊の野山が見えてきました……。



       (第18話につづく)








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