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第十六話:どうしようもない彼は、ちょっとだけヒロインに興味を持つ



喜望のビルをを出ること自体は、門番のお兄さん……一太さんにもう帰るのか、おほほ、わすれものをしちゃって……なんてやりとりがあっただけで、問題なく事が進みました。

問題はこれから何をし、何処へ向かうかという事でしょうか。




「う~ん、どうしよっかなぁ。……あ、そだ。この際だからルプレさんに今後の道行き聞いてみたら?」


きっと、のっちゃんからの質問を今か今かと待っているはずだから。

まぁ、実際は【ノーマッド・レクイエム】に巻き込まれるより早くこの場を離れるべきなのですが。

それを含めても結構いい答えを出してくれるんじゃないかって期待したいたのでしょう。



しかし、当ののっちゃんは何かを考え込むかのようになかなかその場を動こうとしません。

あんまりもたもたしてると防衛戦の選択肢出ちゃうよ。

故にマナがそう言おうとした時、のっちゃんはどこか吹っ切れたような、きりっとした顔でマナを見上げました。



普段そんな顔したためしがなかったから、マナじゃなくてもドキッとする、そんな顔です。

舞う星も、そんなのっちゃんのカッコよさを3割増しで引き立てています。

のっちゃんの顔を触って確かめてしまい、やめろ、なんて振り払われるほどの衝撃で。


一体自分のいないあったかもしれない未来の一つで何があったのかと、どんな心情の変化があったのかと思わずにはいられません。

やはり、繰り返すことで確実に成長していっているのでしょうか。

マナは感心しつつ大きく頷きます。


「ナイスアイディアじゃなーい? それでそれで? もしかして引きつけておいてやっつける算段なんかあったりする?」


のっちゃんがおびき寄せ、後はマナがそれを討つ。

それが可能かどうかは別としても、悪くない。

マナがそう思っていると、実はマナへの後ろめたさで吹っ切れた状態ののっちゃんは更に驚くべき事を口にしました。



「おれさ……この世界のおれん家に行った時、他の災厄ってやつを見たんだよ。たくさんの水とか、マグマみたいのもあった。そこまでおびき寄せることができれば、相討ちとかで、なんとかならないかな」

「おおー。ホントどうしたののっちゃん。冴えてるかもねー。その他の災厄のいたところって遠いの? 後はわたしたちがそこまで上手くおびき寄せられるか、よね?」

「えっと…。ここが東京のあたりだとすると……」

『コノ世界ニオケル主ノ元棲家、コノ場所カラ直線距離デ255キロホドニナリマス、ナビハ可能デス』


そこで、また割り込む形で、そんな酷薄な事実を告げるルプレ。

どうやら、のっちゃんは秘密の地下室での移動がそこまで遠いものだとは思っていなかったようです。


「二百……そんな距離があるのか。それじゃあダメか」

「でも、案時代は悪くないんじゃない? ようは虫たちをどうにかできる場所に誘導できればいいわけでしょ? それこそルプレさんにそういう地図っぽい機能とかないの?」

「マップか……ゲームにはありがちだけど、七つの災厄だっけか? そういうのの場所、分かるもんなのか?」


のっちゃんのギフト【リアル・プレイヤー】は、選択肢を出すことだけでなく、ゲームのシステムのようなものが組み込まれているのではないか。

マイナスが大きいぶん、そのくらいのサービスがあってもいいんじゃないの……マナはそう考えていましたが。


逆にのっちゃんはそんな事までできるのか、いくいらなんでも一つのギフトでいろんな能力つけすぎだろ、なんて思っていました。

当然その呟きは、マナに聞き返したつもりではあったのですが。



『災厄ナンバー4【ボレロ・アンフラメ】。ココカラ26キロ南西方向ニ存在確認。災厄ナンバー2、【ノーマッド・レクイエム】トノ相性モヨク、相殺迎撃ニ向イテイマス。ナビヲ開始シマスカ?」

「……ふふ。いい加減しびれを切らせてきたわね。まだシステムのふりしてるあたり、いじらしいじゃない」

『……』

「ふり、なのか?」

「どうかしらね? 聞いてみれば答えてくれるんじゃない?」



ついに尻尾を出したわね、などと鬼の首をとったかのようにニヤニヤするマナ。

もし、そんなマナの言う通り中の人……もとい『ルプレ』に意思があるとするならば、今まで相当ひどい仕打ちと言うか、スルーしていたことを思い出されてますます申し訳ない気持ちになってくるのっちゃん。


今までよくも、なんて怒られるのも嫌で、結局のっちゃんが真意を問いただす事はありませんでしたが……。




「……それじゃあ、ルプレ、案内してくれ」

『了解シマシタ。マスター』


気を取り直してそう言えば、どこか残念そうな、安堵したような声色でそう言うから。

やっぱりマナの言う通りなのかもしれない、なんて思うに至って。



「それじゃあ、続いて挑発のスキルもオンにしましょうか。そろそろ来る頃だと思うし」


はたして経験を経てレベルアップした挑発スキルはいかほどか。

スキルのレベルは10で頭打ちで、それを越えると∞になるので、ほぼ最高レベルとも言えるでしょう。


それは、異世界にもまれ後天的に身につけたものではないわけだから、ほとんど才能と言っても過言ではなくて。



言われるままウィンドウを呼び出し、タッチしてオンにすると。

初期微動のごとく世界が揺れ、羽音めいたノイズ音が聞こえてきたのはまさにその瞬間でした。


時間にしてそろそろのはずではあったので、タイミングよく重なっただけでしょうが。

まるでオンにした瞬間現れたみたいで…‥。



「うわ、もう来たっ。ほんとにてきめんなんだね。これ、わたしのスキル、【デバフ耐性】切ったらどうなっちゃうんだろ。怖いからしないけど」


マナには、のっちゃんの【挑発】を所謂パーティメンバーとして一緒にいることで、無効化……あるいはマナが影響を受けない、耐性系のスキルを持っています。

マナのそれは後天的なものですが、ここでいたずらにもそれを切ろうとは全くもって思いませんでした。


のっちゃんに対する感情が、そんなもので変わってしまうとは思えなかったけれど。

のっちゃんに与えられたものならなんでもいい、なんて逆説的な事を考えてしまったら怖くなってしまったからです。



『……災厄ナンバー4、『ボレロ・アンフラメ』マデ26キロメートル。誘導シ、『ノーマッド・レクイエム』トカチ合ワセルタメニハ、時速80キロメートル以上ノスピードニヨル移動ガ推奨サレマス。方向ハ南西、8時デス」


その事に対し、何かのっちゃんが言及するよりも早く、あるいは初めからお前など相手にしていないとばかりにルプレが口を挟みます。

ちょっとだけむっとしたマナでしたが、救われた部分も少なからずあって。

ルプレちゃんってば相当ハイレベルなツンデレちゃんね、などと思いつつも手を上げます。



「はいはーい! 移動ならお任せっ。80キロ、よゆーよゆーっ。いよいよのっちゃんにわたしのギフトを披露する機会がやってきたわね!」

「ギフト……あ、そうか。マナさんも持ってるのか」



異世界転生の先輩。

水先案内人。

その辺りのことは聞いたような気がしますが、思えばのっちゃんはほとんどマナの事を何も知りませんでした。


自分より先輩で経験があるはずなのに、どうして帰ろうとしないのか。

どうして自分なんかを助けてくれるのか。

思えば、最初に聞くべき事だったのかもしれません。


しかしそれは、こうしてやり取りをしているうちに、後でいいかという気持ちになってしまうのです。


そんな事あるはずもないのに。

そう思う事こそが、もしかしてマナのギフトなのでしょうか。


どちらにせよ、能力を使うと言うなら拝見しよう。

そう思ってのっちゃんがマナを見ていると。

注目されている事に身動ぎしつつもマナはギフトを、能力を発動したのでした……。



            (第17話につづく)









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