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第十五話:どうしようもない彼は、そもそも舞台に上がらない



「……ごほん。んで、これから何が起きるんだっけ?」


会話に参加したければすればいいとばかりに、マナは気を取り直してのっちゃんにそう問いかけます。


「えっと、まずは……」


のっちゃんは書き込んだノートを読み返すようにしてここに戻ってくるまでをなぞりました。


よっし~さんとの出会い、喜望ビルを襲う七つの災厄の一つ、虫の大群。

二手に別れる事になって追い詰められ、選択肢を一つ選んでしまった事。

地獄と化した、この世界の実家。



マナがそうなるように気を使った事もあり、のっちゃんの言える事言いたい事だけを口にする形でしたが、その結果、死と言う名の失敗は決して無駄にはならないでしょう。

マナは大仰に頷くと、これからを示しました。



「『ルプレ』さんはのっちゃんの事しか聞かないみたいだから、また今度何か分からない事があったら力を借りるとして……そのいかにもモブじゃないよっし~さんに会うのは必然かしらね。後はできるだけわたしと一緒に行動する事」

「あ、ああ。それはいいけど……おれも戦う、のか?」


肯定しているようで肯定していない、そんなのっちゃんの呟き。

マナはそれに首を振ると、共に行動する理由を口にします。


「戦わなくていいよ、なんて断言はできないけど、状況次第ね。それより問題なのはオフにしたはずの【挑発】スキルがオンになっちゃってることかも」

「挑発スキル? ……あっ、だから沢山の虫が地下に?」


一瞬、それってなんだっけ、なんて展開も覚悟していたようですが。

それを認識していただけでなく、今回の失敗の原因まで悟ったようです。

冴えてるじゃん、と頷きつつマナが続けます。



「そう。でなきゃ本来ないはずの地下11階にまで虫たちが到達するの、早すぎると思うの。オンになっちゃってるのは【挑発】スキルなどを緩和するスキルをわたしが持ってる影響なのかな。オンにした記憶、ないんでしょ?」

「あ、ああ」

「なら、はっきりしないうちは一緒に行動しましょう。……そうなってくると、次に考えなくちゃいけないのは、最初に出てきた選択肢ね」



マナとしては、自分のいない所でのっちゃんが痛い目にあって、守る事も出来なかったことが我慢ならなかった故の発言でした。

それでも、一つ前の過去のマナが二手に別れる事を選択したのは何故なのか。


『ノーマッド・レクイエム」と呼ばれる災厄を甘く見ていた?

のっちゃんの意志に従い、【挑発】スキルの事を失念していた?

きっと、どれも違うのでしょう。


恐らくは、ダンジョン攻略において行き止まりから攻めるのと同じように、のっちゃんに悟らせずして選択を潰していったのです。


のっちゃんは、勝手に帰ろうとした事が申し訳なくて後ろめたくてその事を口にしませんでしたが、ある意味どっちもどっちと言えるかもしれません。

そんな風にお互いがお互いで後ろめたさを抱きつつも会話は続きます。




「虫の大群がここに来る。その防衛戦に参加するか、ここから逃げるか……」

「前回はその二つをスルーして、秘密の地下にとどまったのよね?」

「いや、とどまったというか、その、つもりではあったんだが……」

「結局スルーできなかったと」

「……面目ない」

「ふふ。そうやって反省してるならいいよー。無駄にはならないんだからさ」



マナの一方的とは言え、言いつけを守れなかった事を、のっちゃんは地味に深く反省しているようです。

そんなのっちゃんが結構新鮮で。

マナは緩む表情をなんとかこらえ、そうまとめます。


と、話が逸れているわけでもないのですが、そこでなんだかいい雰囲気に水を差すものがありました。




『……喜望ビル、防衛戦。新タナ選択肢出現マデ、アト15分デス』


聞いてもいないのに割って入ってくる『ルプレ』。

そんな二人の空気に、いい加減焦れてしまったようです。

それは、前回よりここでの話し合いが長引いている結果でもあって。


「結局『ルプレ』さんをスルーっていうか、選択肢を選ばないスタンスでいいよね?」

「お、おう」

『……』


もしかして、マナとルプレ……片方はどこにいるかも分からないのですが、仲が悪いのかななんて今更な事をのっちゃんが気づいたのは遅ればせながらその時でした。


ただ、のっちゃん的には関係無いと言うか、そういうのに関わりたくない人なので、大人しく頷いています。




「そうなってくると、これからの行動は二つに一つね。選択肢出しちゃってるみたいでなんだけど、一つはわたしと一緒に防衛戦とやらが始まる前にここから出る。そんな出来事があるなんて実際は分からないはずなんだから、逃げる扱いにはならないはずよ。でもってもう一つは、わたしも一緒にその地下とやらに行くって流れね。その秘密の地下室も気になるし」



一緒に行動する、そして選択肢には従わない。

その時点で喜望ビルにいる人々に対して慮っていないというのは、果たしてのっちゃんは気づいているのでしょうか。


マナとしては、のっちゃん中心の所があるので仕方ないと割り切っている部分もあったでしょう。


理想を言えば防衛戦に颯爽と参戦し、人々を守り世界と物語に取り残されたヒロインを救済し、その心を鷲掴みにする、といったところでしょうが。


のっちゃんがそういった人物でないことくらいもう十分理解していました。

むしろ、そんな変哲もない主人公だったら、マナはきっとここにはいないはずで。



「……とりあえず、今すぐここを出ようと思う」

「あら? 地下の秘密基地の事はいいの?」

「ああ。とにかくあの虫をやり過ごすのが先だろ」


秘密の地下で何があったのか。

後ろめたさがあって、ロボットに外へ飛ばされたと、詳しい事を口にしなかったのっちゃん。


何かを隠しているのは、バレバレで。

マナ自身、そこに足を踏み入れてみるべきだと勘が告げてがいたのですが。



「よっし。んじゃ時間もない事だし、外に出よっか!」


マナに対して何でも言われた通りに動くのっちゃんがいるようでいて、その実逆なのかもしれません。


マナはのっちゃんのある意味選択にあっさり頷くと。

慌て狼狽えるのっちゃんの手を取って、喜望ビルを後にするのでした……。



             (第16話につづく)








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