第百三十四話、男っぷりが上がっただけでなく、ますます埒外じみて
今までの授業と違って、言うなれば本番であるという第三回選抜試験。
現在、ジャスポース学園にいらっしゃる生徒さんたちの半数ほどが、卒業されてしまうということで。
中々に重要な試験とも言えるでしょう。
初めは、それすなわち卒業するものあればのっちゃんたちのような後発組、途中入学する方もいるのだと思っていましたが。
時間軸のズレを考慮しても、生徒さんが増えていくのもここまでと言うのが、サウザン理事長のお言葉で。
その代わり、重要な第三回目の試験を突破した方たちは。
本来の卒業までその顔ぶれが変わることはないだろう、とのことで。
三回目どころか、試験を受ける事が初めてであることに、申し訳なさを感じたのは確かですが。
過去に一度二度試験を経験していることは、けっしてマイナスにはならない、と言う事と。
その事に文句、不満があるような者はどのみち三回目の試験で生き残れない、と言う事でしたので。
気にすることはありませんと、わたくしたち以上にサウザン理事長先生が。
マナさんが怒っている感じでもないのに宥めていたわけですが。
そんなわけで行われる三回目の試験。
試験前の授業でも使われるというダンジョンにて行われるわけですが。
一度にダンジョンに挑戦できるのは、評価評定をつける意味合いもあって三組までと言う事のようで。
今回わたくしたちが共に向かうのは。
忖度的感情もあったのか、比較的後発に入学したものが多いクラスの生徒さんのようで。
早めに入学された方と、遅れて入学してきた方々に格差が出ないようにしているのでしょう。
そのような前段のやり取りがありまして。
やって来たのは学校外……ではなく、学園内の『虹泉』室なる場所でした。
室、と呼ぶにはここへ来る時最初に見た体育館とさほど変わらないようにも見える、天井の高い広い場所です。
購買や保健室、アルガ先生の言っていた、ダンジョン内を俯瞰し見守るらしい部屋。
そしてその周りに、いくつも点在している、テントめいた東屋の中に。
わたくしたちがこの世界へとやってきたものと同じ、移動の為の魔導機械、『虹泉』があるようで。
その内のひとつ、比較的奥まったところに、3クラスぶんの生徒たちが集まっていました。
よくよく見渡しますと、おっくんやシミズさんの近くに他クラスの友人らしき少年もいて。
その代わりに、いつもシミズさんの近くにいたユサさんがおらず。
当のユサさんは、友人関係であったのか、猫天使なミャコさんと一緒にお喋りしていました。
「……いきなり前言撤回ですまない。マナ、よっし~。やはりおれはおっくんたちと行動することにするよ」
「ええっ!? でもっ」
「大丈夫さ。能力にリスクがないのは先程証明したばかりだろう?」
「まぁ、そうねえ。こんなにたくさんの人がいるところで手を繋ぐのはねぇ。流石にわたしでも勇気が必要ね~」
「むうう、そう言われればそうだけど」
「引き続き、女生徒たちからの情報収集をお願いする」
「うん、わかったよ~。他の娘に近づかないってことはこれ以上ライバルが増える心配がないってことだしね」
「いにゃー」
それはどうでしょうと、思わずリアクションしているトゥェルに気づかないふりをして。
おっくん達の方へ向かう際に、わたくしたちだけでネットワークしている『念話』を使ってのっちゃんがトゥェルにフォローを頼むの一言。
そのまま後ろ髪を引かれつつも、わたくしとルプレに内なる世界へ篭るようにとも指示があったので、
すわ、この時この瞬間も運命の選択肢、分水嶺があったのかと。
ルプレと一緒になってのっちゃんの瞳を介して辺りを探っていると。
興味深げにこちらを、のっちゃんを見ている、おっくんやシミズさんのご友人らしき少年とは別に。
強い瞳でこちらを睨みつけている様子のサマルェさんの姿が目に入りました。
未だのっちゃんに対して気を許していらっしゃらないのか、特にマナさんの近くにいる事がお気に召さないと言いますか、マナさんを心配しているようにも見えました。
この状況で手を繋いだりなんかしてしまったら、彼女はわたくしたちに対して何かしら行動を起こしていたことでしょう。
仮に、それでも何とかうまく回ったとしても、下手するとサマルェさんが大好きなお姉さま、マナさんに嫌われてしまうような展開が、あったのかもしれません。
結果、行き着く先の最悪にあるのは、『死に戻り』なのでしょう。
のっちゃんは、傍から見れば。
またしてもその最悪の選択肢へと向かうことを、未然に防いだことになるわけで。
「……あ、そういやそれで思い出したけど、主さまってばいつの間にか死ななくともセーブポイントに戻れるようになったんだ?」
「ああ、戻るのはルプレの管轄ですものね。死亡判定、この世界からロストしたと言っても、正しくわたくしたちが認識できなくなるくらい、のっちゃんが細かく小さく分たれているだけで、実際に死してしまったわけでは……」
「いやや、それはあたしもわかってるって。そもそもマナさんが心配してんのは、どうしようも亡くなった時の自死、その心の傷だろ?」
「ええ、ええ。それこそご主人さまのお言葉通りですわ。のっぴきらない状況になって、自死を選択するようなこともかつてはあったことでしょう。ですが今は、自身の体を原子単位にまで分解する術をお持ちなのです。よって、マナさんが憂うような心のダメージはほとんどないと思われます」
「いやぁ、よっし~さんのセリフじゃないけど、主さまってばますます埒外じみてきたなぁ」
結局、そうして内なる世界でふたりして納得していましたが。
いずれ、もうちょっとレベルアップして。
痛みのない、心の傷つかない『死に戻り』を起こすことがわたくしたちの役割であるのですから。
未だその様子をしっかり認識できるところまでいっていない現状に。
こうしていつまでも甘んじるわけにはいきませんね、と。
しみじみ思うのでした……。
(第135話につづく)