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第百三十二話、気が付けば、繰り返しの中で最もレベルアップしていたもの





わたくしにとってみれば、忘れられない一幕がありまして。

魔法学園生活二日目が始まります。


今日も一時間目は『リヴァ』クラスての教義です。

どうやらこの魔法学園は、定期的に試験があるようで。

現在生徒は300人程度、とのことでしたが。

ここからその試験でふるいにかけられ、半ばにて卒業……それぞれのふるさとへ帰される、とのことで。


始まりののっちゃんであったのならば。

落第すれば追い求めていたふるさとに帰れるのかと、実行に移そうとしたのかもしれませんが。

その際にこれまでの記憶を失ってしまうとまことしやかに噂されていたこともあって。


『今更お前たちとの大切な思い出を失うわけにはいかぬ』(ほとんどその通りなイメージ)と。

引き続き通い続けることにしたわけですが。




「ハロー! のっちゃん! 本日のゴキゲンはいかがカナ~?」

「お、おう。おはようオク。生まれ変わった……いや、それこそが元ある姿か。うん、オクはやはりその方がいいな」

「フフフサンキュウ! んじゃあちょっとメイユウのみんなにアイサツしてくるからネ!」


あてがわれし『リヴァ』クラスへ、いつもの流れで早めに到着したら。

何故だかオクさんが黒光りする全身の筋肉をこれでもかとアピールしつつ。

今までの影ある雰囲気から180度うってかわったかのような、弾けた様子でのっちゃんを迎え入れてくれました。



「うわぁっ。びっくりした。オクさん? おっくん? 何かあったのかな?」

「かみ、さとすぅ」

「ふむ? ですけど、ご主人さまがおっしゃられた通り、今のオクさんの方がしっくりきますね」

「何だかその呼び方はあれだな、うん。ルプレの案を採用してこれからはおっくん、と呼ぼう」

「おお、いいね……って。トゥェル! どさくさに紛れて羨ましいじゃん、あたしもくっつくぞ!」

「みゃがふっ……まま」

「もう、二人ともあまりご主人さまにご迷惑をかけないようにしてくださいよ」


なんて、抜け駆けしていたわたくしが大きな声で言えたことではありませんが。

案の定、わたくしがご主人さまを独り占めしてしまったことにより、

魂の片割れであるルプレとトゥェルに、自分も自分もとせっつかれる羽目になっても。

優しい笑顔で受け止めてくれるのっちゃんが印象的でしたが。


そんなわけで許可をいただいたので、いつもはよっし~さんとともに過ごしているトゥェルによると。

よっし~さんの元で基本不満などあるはずもないけれど。

たまに一緒に寝ていておっぱいに襲われて目を覚ましてしまうことがある、などといった自慢話を聞いたこと? もあって。

たまにはいいだろうと、久方ぶりに三人そろってのっちゃんとの朝を迎えたわけですが。


それはともかくとしまして、話題は戻りましておっくんについてですが。

本当にのっちゃんに挨拶するためだけに朝一番に教室に来ていたようで。

他のクラスにも友人がいらっしゃるようで。

本当の自分に戻ったことを伝えんと飛び出していったわけですが。

普通に対応しているようにも見えたのっちゃんもあのような変わりよう、その原因をご存知ないようでしたが……。



「だが、まぁ。誰が本来のおっくんを取り戻すための一助となったかは。ある程度予想がつくがな」


生まれ変わる、あるいは戻ることを助けた人物に心当たりがあるようで。

わたくしがルプレとトゥェルと顔を突き合わせてその答えにたどり着かんとする、その瞬間でした。



「にゃむ……よし」


はなちょうちんを膨らませつつ顔を上げるトゥェル。

つられるようにそちら、教室に入るためのドア、入口を見やると。

ぴしゃんと勢いよく扉が開け放たれて。

マナさんとよっし~さんが入室してきます。


「おはよう! のっちゃんとその三人のかわいい娘たちよー!」

「おはよう~。よかった。今日は教室にいたのね」

「ん。そうだな、今日たまたま早めに来てしまったが、何かあったのか?」

「いいえ。ただ珍しくトゥェルがいなかったから、気になっちゃって」

「ああ、ここ最近トゥェルとともにいる事も少なくなってきたし、たまにはいいかと思って」

「うゆてれれ」

「ふふっ。まあ、いつだって会えるのだけど。確かに気分を変えるのは大事よね」


よっし~さんと、のっちゃんとトゥェルをを含めたわたくしたち。

このまま何やかやあって、この学校を卒業していく……なんて雰囲気。


今はもう、トゥェルはよっし~さんの魂の片割れであるけれど。

のっちゃんやわたくしたちとの繋がりがなくなることはありません。


それは、世界が変わろうとも不変であると。

当然トゥェルが推すのよっし~さんがここにきてリードを保ちそうなご様子で。

それに黙っていられないのはわたくしめが押しておりますマナさんでしょう。



「ちょっとぉ! よっし~さんちがーうでしょう! ここは悪堕ち仕掛けていたおっくんを救いあげた女神さまは誰なのかクイズを出すところでしょうに!」

「あ、そうだったわね~。ごめんなさい。ああ、トゥェルはあずかるわね、はい。どうぞ、マナさん」

「ももも」

「くうぅっ、ライバルなよっし~さんが良い子すぎてもう、まいっちゃうよ~! ……改めて気を取り直しまして! ビューティフォーでサイキョーなその女神さまは誰でしょうか!」

「女神ってたまなのか? 理事長せんせを見るに、ラスボスな邪神の間違いじゃないの?」

「な、なな言うに事欠いてなんてこと言うの! ルプレちゃん! もう、それもこれも理事長先生があんな態度をとったせいよね! ぷんぷん! ちょーっと後で改めてオハナシする機会を設けないと!」


そこまでくればのっちゃんでなくともピンと来ることでしょう。

わたくしとしましては、主人公らしいギンヤさんあたりかと思っていましたが。

おっくんを変えた……元ある姿を取り戻すきっかけとなったのはマナさんだったようです。


マナさんは今の今までのっちゃんばかり気にかけていた印象だったので。

少し意外に感じてしまいまして、首をかしげていると。

それに気づいたのっちゃんが、おっくんを救い上げたのまマナさんであることをわかっていた上で聞いてくれました。



「……ふむ。おっくんは随分と変わり果ててしまったようだが。一体どんな手を使ったんだ?」

「おっくん!? くっ、いつの間にそんな風に呼び合う仲にぃっ……じゃなくて、どんな手も何もオクちゃんとはちょっとお話しただけよ。オクちゃんが塞ぎ込んでいた理由っていうか、原因を知っていたからそれを解決するための言葉をあげただけ」

「それは……大丈夫なのか?」

「? じょぶじょぶ! そこはかとなく強力なライバルが出現しそうな感じだったから、その芽をつむ……じゃなかった、先手を打っただけだし! 知ってる? オクちゃんってばとっても一途でピュアなのよ。ウルハちゃんって娘にぞっこんなの」

「あー、もういい。分かった分かった。おっくんがもうらしいからみなまで言わんでいい」

「ひゃぶほほぅっ!?」


何かを誤魔化したのか、のっちゃんとの問いかけに正しく答えてはいないようにも思えましたが。

あまりにも素が、本音が出すぎてしまったようで。

気づけばのっちゃんの思ったよりも大きな手が、マナさんの両頬を掴んでいました。

くう、わたくしがあれやこれや理由をつけてようやく触れてもらえるようになったというのに、何とも羨まけしからん状況です。


何がけしからんって、マナさんならばのっちゃんのそんな急襲であっても、避けようと思えば避けられたはずなのに、甘んじてそれを受け入れているところでしょう。


何やら嬉しそうな声を顔をしているのがその証左です。

おかげでルプレが真似をして、よっし~さんのお胸に抱かれたトゥェルのもちもちほっぺをむにむにしてしまっていて。

眠気が勝ってされるがままのトゥェルを見かねたのか、今までになかったのっちゃんの行動によるものなのか。

よっし~さんがあらあら、とばかりに窘めます。



「もう、のっちゃんってば。マナさんとは本当に距離が近いのね。じゃれあうのもいいけど、もっとマナさんのこと褒めて労ってあげて。そのオクさんの件もそうだけれど、ここ最近のマナさん、夜になったら外に出て色々動いているみたいだから、のっちゃんのために」

「ふえぇっ!? ちょっ、それ勘違いっていうか、不可抗力の果ての暇つぶしなんだけど! ちらっ、ちらっ。のっちゃん、わたしってば実は結構褒めたら伸びる子、なのよ~」


よっし~さんに言われたからなのか。

はっとなって手を離すのっちゃん。

あくまで背中越しではありますが、その時ののっちゃんは、無意識に伸びてしまった自身の手に驚いているようにも見えて。



「そうか。それじゃあ何かお……いや、うん。おれに何かできることが、あるいは欲しいものがあるなら考えておいてくれ」

「んん?」


思わず、トゥェルとじゃれていたルプレが顔をあげるほどに。

この短い間に、何故か離れてしまったようにも見えるお二人の距離。

それを示すかのようにマナさんの表情が、切なくくしゃりと悲しみに歪んで。


まるで、会ったばかりの頃のように。

慌てていいわけするみたいに縋ろうとしたところで。

何だかすれ違ってしまっている二人をフォローせんと、再びよっし~さんが口を開きました。



「もう、のっちゃんってば。そうじゃないでしょう。マナさんはただ褒めてもらいたいのよ。

それから頭を撫でて、ハグしてもらったっていいんだから~」

「……む、そうか。ありがとう。よっし~さん」

「あ、あらら、わたしになの? 嬉しいけれどそろそろマナさん泣いてしまうわよ?」

「ふあっ!? 泣いてなんかな……って、ちちちょっとのっちゃん! まって、心の準備がむぎゅぶっ」


どこか気もそぞろながら、よっし~さんのそんな言葉に目からウロコが落ちた、とばかりに深く頷くと。

その流れでよっし~さんの艶ふわ黒髪を撫でてよっし~さんを照れさせていて。

いざ実践、とばかりにマナさんを……素直に撫でることはなく。

さっきより心持ち強めに親指と人差し指で頬をギュッとつかみます。


「あまり無理はするなよ。おれが言うのもなんだが、何かやる時は言って欲しい」

「ひゅうあっ!?」


かと思ったら、そんな言葉とともに頭をぽんぽん。

とってもマナさんらしい? 悲鳴を上げる中、のっちゃんは気恥しかったのか。

おっくんがシミズさんを連れて帰ってきたのを見て、引き続きこちら側(女生徒グループとのやりとり)は頼む、などとわたくしたちに言い残して去っていきます。


後には、にこにこしているよっし~さんと。

ある意味のっちゃんの二段構えのふいうちに、顔を真っ赤にして硬直しているマナさんがいて。


「……そんなの、ずるいよ」


やっぱり好きになっちゃうじゃん。

などといった、その後のマナさんのそんな呟きは。

とりあえずのところは、三人して聞かなかったことにするのでした……。


    (第133話につづく)







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