第百二十六話、何だかんだで、初めての弟子のためにさいしょのひとりを
(うわっ。何やってんだマナさんってば)
(ふむむ? 実はマナさんってご主人さまをも超える人たらしなのかもしれませんね)
一方のマナさんは、のっちゃんを含めたわたくしたち最注目な『青空』世界からやってきた天使様。
のっちゃんの良いか悪いかわからない運めいたものからきているのか、偶然にもルームメイトとなった彼女……に見まごうほどに、非常に良く似ている少女に抱きつかれたり、その勢いで感極まってポカポカ叩かれたり。
何故かこちらを睨みつつ、何やら説教を受けていて。
そのまま、マナさんにはちょっと遠慮がちなアルガ先生に注意されたりしていました。
(あの娘、どう見たってすぅさん……天使サマの血縁だよなぁ。マナさんと随分仲がいいみたいだけど、またしても妹とかだったりしちゃうのかな)
(さすがにそれは、だなんて断定はできませんが。正直申しますとヒロさんだってマナさんときょうだいと呼べるほど似ているかと言われると首を傾げざるをえませんが)
(きょうだいってかこども? ……いや、家族をそう呼んでいるだけなんんじゃないの?)
ふむ、その言いようですとヒロさんにしてもマナさんとは実際に血がつながっているというわけではないのでしょうか。
のっちゃんの、少し珍しくも思える言い分ですと。
家族と呼べるほどの仲であるからして、妹や姉と(今回の場合はこちらのイメージですが)マナさん自身が呼びたいのだ、とのことで。
(ややこしいなぁ。あんなおっかない顔するもんだからルームメイトのすぅさんと違うってことはわかるけどさ)
(そうですか? おっかなさよりも可愛さの方が勝ってませんか? まぁ、すぅさんとは違って着ぐるみ装備をしている暇もなかったので、彼女はご主人さまの背中の翼に気づいてそうではありますが)
(……そうか。その可能性があったか。おれはてっきりいつものようにおれ自身が無理だと生理的に勘弁して欲しいと思われているのだと、勝手に判断していたな)
(ええっ。なんだよそれっ! 誰がそんなこと思うのさっ)
(……あぁ、いや。みんないい人たちばかりだったから、今までの自分を失念していた、というだけさ)
(今までのご主人さま、ですか……)
きっとそれは、わたくしたちが知らない頃の、現実世界でのご主人さまのことなのでしょう。
(多くは聞きませんが、マナさんもそうだったわけじゃないでしょう?)
(……あぁ。そうだな。少なくともあいつがそれを表に出すことはなかったと思う。やはり懐かしいな。こんな風に教室で学んでいて、偶然隣になって向こうから声をかけてくれたんだ)
嬉しくも、わたくしたちのことを、真に親しい存在であると思ってくださっているのか。
【念話】によって紡がれるのっちゃんの言葉。
らしくもあり、饒舌でもあって。
しかもそれは、わたくしたちが知りたかった過去のお話です。
「……それでは。のっちゃん君。【時】属性に大いに関わりのある、『虹泉』という存在について、知っていることを語り給え」
「はい」
と、そこで。
現在授業中であったことを失念していますと。
さすがと言うべきなのか、しっかり授業内容を聞いていたのっちゃんは、考え考えつつもそれに答えました。
「お、私が知っている限りではありますが、魔道具に類する便利な移動装置と聞いています。加えて私見を述べさせていただきますと、あるいはこの世界にも存在している精霊たちのように自らの意思を持ち、生きていて、何処かの世界へ送るのもそうでないのも、その個々人の判断を持って行われているのではないかと愚考しています」
「……っ」
「ふむ。初授業だろうが、中々によく勉強している」
「……いえ、恐縮です」
のっちゃんの好きなものを語る時のような饒舌さに、びっくりしたのか息をのむ近くの前の席の黒っぽくて大きな人。
アルガ先生は、興味深げに頷いていて。
当ののっちゃんは、勉強したというよりも、耳にたこができるくらいに聞かされたから俺の実力ではない、とばかりにマナさん見つめていていましたが。
一方のマナさんは、お姉さん? との再会プラス、アルガ先生のお叱りを受けたことで、色々と感極まってしまったのか、落ち込んでしまっているようにも見えるもうひとりの天使さまを、宥め慰めていてそれどころではないようで。
(主さま、にじのいずみ? さんのこと、知ってるのか?)
(【虹泉】は種族名でしょう。わたくしの記憶では、今の今までそのような方に出会ったことは……いえ、ああ。そう言う事ですか。この世界にやってきた時の、シャーさんによってもたらされたあの機械、魔道具のことですね)
(え? あの装置っていうか、あの子がそうだったか? 気付かなかったから山においてきちゃたじゃん。
あ、でもあっこってシャーさんのDRR結界があるから大丈夫なのかな)
(シャーさん曰くダルルロボ結界か。あの場に在ったのはそう言う事だったのか。あの子……と呼ぶべきか。あの子も『虹泉』と呼ぶべきなんだろう。後で迎えに、移動できるかどうかは分からないが、一度様子を見に行くべきだろうな)
どうやら、のっちゃんのおっしゃっていた魂持ちし『虹泉』の中に棲まうお方とは別の方のようで。
何やら少し躊躇ってはいたようですが、その方の様子を見に、あるいは迎えに行く事を決めたようで。
また、新たなるのっちゃんの仲間が増えるのでしょうか。
それともわたくしたちが予想だにしない展開が待っているのでしょうか。
まさか、わたくしたちのようなギフトが増えるようなことはないでしょうけれど。
なんて、突拍子もない、でもなくなない、可能性を示唆しつつ。
取り敢えずのところは授業に集中するのでした……。
(第127話につづく)