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第百二十四話、そのままお面キャラで行くのかと思いきや、あっさりそれを放棄して



―――『そんなこと、おかしいじゃないですか。前回の試験で……帰ることとなった娘もいるんですよ!』



その様なお言葉、セリフのイメージはセツナさんでしょうか。

きっと彼女は、『氷』とか『水』などのクラスで委員長的ポジションで。

そう言った皆が思っていても言えなかったことを代弁なさるお方なのでしょう。


 

……などと、いないお方のことを語ってしまいましたが。

リヴァ』クラスの方々の中には、そのような意見を発しそうな方はいらっしゃいませんでした。

希少なる属性なこともあって、元よりクラスの在籍人数が少ないこともあるのでしょう。

それでも、わたくしが見回す限りで見ても、一癖も二癖もありそうな方々が広い教室に、まばらに座っていらっしゃるのがわかります。



まさか、このような学びの場で、のっちゃんが『死に戻り』するような展開に陥ることはないとは思われますが。

のっちゃんにとってみれば、実に面倒そうな人間関係のあれこれが巻き起こりそうな気がしていたのかもしれません。

とはいえ、まずは皆さんのことを知る前に、こちらから自己紹介するべきなのでしょう。


一番手を促されたのっちゃんは、特に気負うことなく一つ頷いて。

クラスの皆さんを見渡すようにして一礼しました。

(ちなみに、ソーダさんのお面はマナさんよっし~さんと合流して時点で外しています)

 


「……初めまして。『地球』出身の『のっちゃん』です。自ら『リヴァ』魔法なるものを見たことがないので、これからよくよく勉強させていただきたいと思っています。そして、おれのそばにいるのがおれの使い魔? 的存在のルプレと、マインです。そちらにいるトゥェルも含めておれの家族です。おれはともかく、彼女たちとは仲良くしてもらえるとうれしいです」



アルガ先生のお堅い感じが、少しばかりうつったものの。

実にのっちゃんらしい挨拶で。



「紹介にあがった使い魔のルプレだぜっ。そんなこと主さまは言ってっけど、元より友達少ないから構ってもらえるとたすもふっ」


ルプレの小生意気で可愛いのに並ぶようにして、頭を下げつつのっちゃんのかわりに余計なことを言うルプレの口を塞ぎます。

トゥェルはトゥェルで、むにゃむにゃ言いつつよっし~さんの『終の棲み家』内へと潜り込んでしまったから。

紹介する前から、特に男子生徒諸君に注目されていました。


一方で、もがもが言って羽をばたばたさせているルプレの方は、その小生意気可愛さで女生徒の注目を浴びていました。

何だかんだで、『リヴァ』クラスのみなさんの受けは悪くなさそうです。

あだ名といいますか、コードネームのごとき名前には少しばかりズレを覚えなくもないですが。

偽名……下の名前で呼ぶのが一般的なようで。


生徒のみなさんは、『のっちゃん』呼びにそれほど抵抗がない御様子。

この中に生涯の相棒とまではいかなくとも、友達になっていただける方はいないものかと。

みなさんを、ルプレの影に隠れつつ観察していると。


それじゃあ次はよっし~さん頼む、と。

アルガ先生が紹介なさってくれる前から、生徒さんたちの興味を惹きつけてやまないダイナマイトなよっし~さんを促します。



「ええと。知っている人もいるみたいだけれど~。『青空』世界からきました。『よっし~』です。こっちは相棒のトゥェルよ。のっちゃんマナさんともども、よろしくお願いしますね~」

「よう。にゃむ」


不躾な視線などお構いなしのどこ吹く風。

よっし~さんにそのつもりはないのでしょうが。

まるで見せつけるみたいに胸元からトウェルさんを猫持ちポイントにてつまみ上げる様は圧巻の一言で。

釘付けられたままの男子生徒の何人かが、近くにいた女子生徒にどつかれるまでが一連の流れでしょうか。


よっし~さんとしては、トゥェルが元々のっちゃんちの子だからと。

のっちゃんにアピールするつもりだったのでしょう。

のっちゃん自身は、そういうところの気配(ラッキー某的な)を敏感に感じ取っていて。

ルプレにグイグイ引っ張られてもけっしてよっし~さんの方を振り返らないので。

そんなよっし~さんのアピールも何故か周りがなんだぁとちんやりするばかりで、上手くいってはいませんでした。



「二人は前の方の……空いている席に座るといい。各々の自己紹介は休み時間にな。それ」

「ちょ、ちょっと待ってくださいアルガせんせー! わたしのこと、わたしのこと忘れてますよ!」


もしかしなくとも、サウザン理事長先生のお話を聞く限りでは、マナさんだけは生徒としてではなく先生として受け入れたかったようで。

アルガ先生もそのつもりだったのでしょう。


副担任か、臨時の特別講師か。

いざ、アルガ先生がそんな説明をしようとしたところで、マナさんからストップがかかります。


そのように元気いっぱいなマナさんのことを。

よっし~さんがそうであったように、ご存知の方もいるようで。

チョコレート色の、ウェーブのかかった長い髪の少女も、その一人でした。

彼女が大分熱心にマナさんを見つめているのにも関わらず、まだ当のマナさんがお気づきでないのが申し訳なくもなりますが。

そんな彼女を、つい最近どこかでお見かけしたことがあるような、そんな気がしていて。


のっちゃんを促し、友達になるべく声を掛ける人を、わたくしの中で勝手に決めさせてもらっていると。

大分戸惑った様子で、忘れていたわけではない……忘れられたらどんなに良かったか……なんてアルガ先生の心の声まで伝わってくるのを。

お構いなしというか、気づかないふりをして、それじゃあ自己紹介しまーす、とばかりにマナさんが手を上げて口を開きました。



「二人にならいまして! 『ユーライジア』出身の『マナ』ですっ。わたしの唯一といってもいい特技は、

のっちゃんを好きなことで、目下のライバルはよっし~さんです! わたしは適当にすみっこにいますから、のっちゃんやよっし~さんと仲良くしてあげてくださいねっ!」


言ってやったぞ、とばかりにドヤ顔なマナさん。


「本当に……」


その時ぼそっと聞こえてきた、のっちゃんのつぶやき。

続きを述べるのならば、本当に調子が良い、その実真意が見えないのに、でしょうか。


間接的どころか、ほぼど直球で告白されたのに余裕といいますか、呆れた様子なのは。

マナさんの口から出るその言葉にほとんどに、裏があったり本当ではなかったり、する(らしいといいますか、のっちゃんの弁)からなのかもしれません。



―――たとえそのすべてが嘘であってもそれでいいと。


歌えるほどには、まだのっちゃんの好感度は上がりきってはいないようで。

そんな心うちにもならないわたくしたちのやりとりに気づかれたわけではないのでしょうが。

ライバルだけどもうらしくて思わず応援したくなる、といった、慈愛に満ちた表情をよっし~さんが見せる中。


わたくしが注目したのは、そんなマナさんのわたしのもの宣言にも等しい言葉に素直に従う以前に。

大分戸惑いを見せつつも、先ほどお友達候補にさせていただく予定でいた、長く濃いチョコレート色の髪を、頬の辺りでカールさせている、やっぱりつい最近どこかでお見かけしたことがあるような気もする少女でしょう。


ある意味物語の導入めいた自己紹介をしたマナさんを見つめては、大きなその黒色の瞳を見開いて。

親の敵でも見つけたかのような勢いで、のっちゃんを見つめているのがよくよく分かります。


なにせ、わたくしはのっちゃんの真後ろにいますからね。

その視線は、マナさんに向けるものとは真逆で。

思わずのっちゃんの内なる世界へ隠れたくなるのを堪えつつ迎え撃つように見返していますと。

のっちゃんもその視線には気づいていたようで、不意に心内だけに聞こえてくる声。



(……ここだ。ルプレ、マイン。セーブと保存の方、お願いする)

(は、はいっ)

(ぅえっ!? こんな教室の中でセーブするのか? 主さまが言うならセーブ保存するけどさ)


果たして、のっちゃんがその視線に気付いたのは何度目のことだったのでしょう。

未だのっちゃんの『死に戻り』を追うこと、ついていくことはできていませんでしたが。

ギンヤさんと何だかんだで仲良しになって、理事長先生に会いにいく直前あたりが一番近いセーブポイントであったはずで。

たった今この瞬間から、慎重にならざるを得ない展開が待っているのかもしれません。



『死に戻り』するにあたって、気をつけなくてはならないのは。

取り返しのつかなくなる地点でセーブしてしまうことでしょう。


まぁ、それゆえにルプレがレベルアップしたことで複数の、所謂冒険の書があるわけですが。

のっちゃんがここで敢えて念話を使ってまでそう宣言したのは、今この瞬間が多くの枝葉、可能性の分岐点、ギリギリのところと言えるからなのかもしれなくて……。




    (第125話につづく)







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